ヨーロッパのデリバリーアプリ事情

2024年11月22日

海外流通トピックス

■業種・業態:量販店  
■キーワード:デリバリーアプリ/ヨーロッパ/ネットスーパー

デリバリーアプリのイメージ画像

コロナ禍に急成長したデリバリーアプリ。ヨーロッパでは数社が入り乱れて、買収したり、撤退したりと、熾烈な競争を展開しています。今回は、その中の3社を紹介します。

米国のデリバリーアプリが英仏に上陸

デリバリーのイメージ画像

まず、英国とフランス、スペインに進出した米国のGから説明しましょう。2013年創業、ペンシルベニア州フィラデルフィアに本社を置くGは、2021年11月には英国でサービスを開始。現在ではロンドン大都市圏の70%以上とマンチェスター、リバプールなどの主要都市をカバーしています。食料品、スナック、日用品、アルコールなどを24時間365日注文できます。配送は平均30分以内と米国と同じです。

送料は国によって異なり、英国の送料は一律2.99ポンド(約589円)、配送料金が無料になる会員制度があり、月額5.49ポンド(1,081円)、または年間54.99ポンド(10,833円)。ドライバーは空き時間に働くギグワーカー(主にネット上のサービスを介して単発の仕事を請け負う働き方をする人で)です。

サービス提供をすぐに始められたのは、英国のデリバリーアプリの会社2社を買収して、ブランド変更したからです。1社のサービスは英国のみでしたが、もう1社はフランスとスペインの主要都市にも展開していました。

しかも、Gと同じく垂直統合型の運用モデル(商品の開発から配達まで自社で行う)だったため、即時デリバリー技術とインフラを活用して、英国と同時にフランスとスペインにも進出することができたというわけです。なお、スペインは予想よりも売上が上がらなかったことから、2022年8月に撤退しています。

欧米を席巻したトルコのデリバリーアプリ

デリバリーで届いた野菜のイメージ画像

ヨーロッパで、デリバリーアプリの雄として隆盛を誇ったのは、2015年創業のトルコのイスタンブールに本社を置くGEです。24時間365日注文でき、なんと15分で届けることを目標としていています。ドライバーはギグワーカーで、仕事の量と時間によって報酬を受け取ります。

品揃えはGと似ていますが、肉や乳製品、野菜や果物など様々な生鮮食料品を迅速に届けることを目的としています。

現在、トルコでは100以上のダークストア(配達を効率化するための拠点)があり、34都市でサービスを提供しています。トルコの人口の約54%が35歳以下と言われていて、若年層が多い国であることが、デリバリーアプリが支持されている大きな理由かもしれません。

海外への進出は2021年7月からスタートしました。スペインのデリバリーアプリを買収したことにより、スペインやイタリアで営業を開始しました。スピード重視の同社は、住宅街やその近隣で、コロナ禍で閉店した小売店やレストランをダークストアとして活用。GEのロゴが入った黄色と青の派手な色のバイクが、町で目立つようになりました。

その後、英国、オランダ、ドイツ、フランスの多くの都市でサービスを拡大、同年12月には米国のニューヨークでもサービスを開始しました。

コロナ禍開けに急失速、撤退へ

店舗のイメージ画像

潮目が変わったのは2022年初めから。コロナ禍が収束し始めて、ヨーロッパでは人々が店舗での買物を再開したり、レストランに戻ったりしたことで、デリバリーアプリは大きな打撃を受け、EC(電子商取引)の売上も落ち込み始めました。

それにもかかわらず、2022年12月には、GEは最大のライバルであったドイツのベルリンを拠点とするデリバリーアプリのGOを買収。GEは、両者を統合することなく、同じ場所でそれぞれの倉庫とドライバーで運営していたのです。

さらに逆風が続きます。ダークストアが住宅街やその近くにあったため、「バイクの騒音やドライバーたちの話し声がうるさい」「交通渋滞がひどくなっている」といった苦情が多数寄せられるようになったのです。そのため、オランダのアムステルダムとロッテルダムでは、ダークストアの新規開店が禁止されました。

フランスのパリでも、騒音の苦情が住民から多数寄せられました。そして、都市計画担当者たちは、商業施設から活気を奪い、消費者が家に閉じこもる社会を生み出す恐れがあると非難しました。

15分という短時間で配送を完了するには、住宅街にダークストアをつくる必要があること、24時間365日営業ということも裏目に出たのです。

独自のダークストアをつくったことが、コストと複雑さを増したという分析もあります。
生活費の高騰もあって、超高速の配送サービスの需要が減り、運営コストも上昇したため、フランス、スペイン、イタリア、ポルトガルから撤退。世界規模での再編を開始しました。

しかし、それでも回復はせず、競争も激化したことから、ついに2024年4月には英国、米国、ドイツ、オランダでの事業を停止します。驚くべきことに、これらの国での事業は、GEの収益のわずか7%でしかなかったのです。GEのモデルは、広範囲では持続不可能であることが判明しました。コロナ禍という特異な環境でしか成立しなかったということができます。

それではGEは、どうして急速な拡大が可能だったのでしょうか?それは、このビジネスモデルを支持する大口の支援者、アラブ首長国連邦(UAE)の投資会社がいたからです。

2022年3月に資金調達を行った時点では、GEの評価額は118億ドルに上っていましたが、2023年4月の65億ドルにまで引き下げられ、同年9月には25億ドルにまで下落しました。評価額が下がれば、新たな資金調達は不可能。市場から撤退せざるを得ませんでした。

ドイツではネットスーパーが人気

ネットスーパーのイメージ画像

ドイツでは、GEの衰退とは対照的に、ネットスーパーPが台頭しています。2015年にオランダで設立され、2018年にドイツに進出しました。Pのドイツ支社にドイツの大手ディスカウント・スーパーマーケットEが出資し、商品の供給業務を担当しています。

商品は配送センターでパッケージングされ、小型トラックが集まる集積地点まで、大型トラックで運びます。そして小型トラックが商品を顧客の元に配達するという流れになっています。

スピードを重視し、赤字経営になることが多かったGEとはまったく異なり、費用対効果と環境を重視しています。Pの配送はバスを利用しドライバーは従業員です。

Pの創業者は、次のように言っています。
「ほとんどのデリバリーアプリは、タクシーモデルを使っています。例えば、Aさんが朝の10時に注文し、隣の家のBさんが1時間遅れて朝11時に注文すると、それぞれ送料がかかり、効率も悪くなります。私たちはタクシーモデルではなく、バスモデルにして送料無料にしたら、どうだろうと考えました」と言います。

現在、Pの配送時間は8時から22時までで、日曜日が休みとなっています。基本的には次の営業日に商品を配送し、注文時に希望する1時間の配送時間帯、例えば午前8~9時と選択します。そして配送当日には20分以内の正確な配達時間が通知されます。配達を待つのは、20分で済むというわけです。曜日指定もできます。

これが可能なのは、AI(人工知能)を使っているからです。22時以降の注文は翌日には配送できないようにしていて、翌日配達分の注文が出揃った22時に、配送ルートのスケジュール調整を開始します。

ここが一番難しい部分で、Pのアルゴリズムは顧客間の運転時間だけではなく、小型トラックから玄関まで食料品を配達するのにかかる時間も学習します。届けられる商品の大きさや家の場所がそれぞれ異なるためです。

エレベーターのない3階建てのアパートの3階なのか、道路沿いなのか、昼か夜か、雨が降っているのかいないのか、このようなことをすべてモデルに組み込んで、全部の注文にかかる時間を正確に見積もるようにしています。

配達効率が最適化されているため、ドライバーは1時間あたり平均8~10人の顧客に対応できます。ドライバーが個々の注文ごとに配送する超高速の配送サービスとは、対照的です。これにより運営コストが削減されますし、炭素排出量を最小限に抑えることで環境にも配慮しています。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※円換算表記は2024年10月28日の為替レートで計算しています。

※当記事は2024年10月時点のものです。
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