衝動買い需要を満たすデリバリーアプリ

2024年11月22日

海外流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:寄付/救援活動/マーケティング/MZ世代/エンゲージメント率

デリバリーアプリのイメージ画像

簡単に素早く商品を購入したり届けてくれるデリバリーアプリが拡大しています。そこに寄付の機能を加えて話題になるなど、今注目のデリバリーアプリについて紹介します。

救援活動に参加できる寄付ツールをいち早く導入

大人と子供の手のひらに赤いハートがあるイメージ画像

米国の南部フロリダ州に、2024年10月9日夜に上陸した大型ハリケーンは、南東部に大きな破壊の跡を残しました。水道システムは損壊し、道路は浸水し、電線は切断され、フロリダ州では少なくとも16人が死亡、停電も300万件に上りました。

このハリケーンの救援活動に、全国の顧客が参加できるように作成されたのが、Gが作った寄付ツールのアプリです。水やトイレットペーパー、救急用品、保存食、ペットフード、おむつなどの製品を寄付すると、フロリダ州のボランティア活動機関に届けてくれるというものです。

この仕組みをハリケーンの上陸後、48時間以内に作ったのが、今回紹介するGです。コンビニエンスストアで売っているような商品を届けているため、「ネットコンビニ」と呼ばれることもあります。

Gは「スナック」「ドリンク」「アイスクリーム」などのアイコンが並ぶメニューバーに、「今すぐ寄付」を追加。この「今すぐ寄付」をタップすると、寄付画面Gが現れ、「寄付」する商品として水、トイレットペーパー、救急用品などが並んでいるというわけです。

全米500都市に加え、英仏にも進出

テーブルに置かれたアメリカ、イギリス、フランスの国旗と2体の人形のイメージ画像

Gはスナックやアイスクリーム、飲料、タバコ、掃除用品、家庭用品、一般医薬品、飲食品など、数千点に及ぶ生活必需品を、一律3.95ドルの配送料で届けています。地域によっては、ビールやワインなどアルコールも扱っていて、アルコールを注文すると、追加の3.95ドルがかかります。身分証明書の確認などの手間がかかるためです。

配送は平均30分以内で、アプリを介して24時間365日注文できます。

配送料金が無料になる会員制度があり、月額7.99ドル、または年間54.99ドル。会員になると20分以内の配送が1.49ドルで利用できたり、アルコールを頼んだときの追加料金が免除されたりします。

Gをよく利用するのは、「シフト勤務者、パーティ好き、深夜にスナックを食べる人」だということです。競合するデリバリーアプリもありますが、それらとは仕組みが大きく異なります。

まず、小売業者から受け取った商品をドライバーが配送しているのではありません。Gは200カ所を超える独自の倉庫を構築して、配送を迅速化し、全米500都市にサービスを提供しています。この200カ所の倉庫の中には、2020年11月にカルフォルニア州の酒類販売店チェーンを買収した後は、その店舗内に設置したダークストアも含まれます。ダークストアとは配達を効率化するための拠点であり、特定の商品をすぐにピックアップして配送できるように設計されています。

倉庫には卸売価格で仕入れた商品を置いているため、商品の価格を低く抑えることができています。さらに2022年からはプライベートブランドも発売、物価高騰の中、支持され、2024年6月には全注文の2割以上で、1つ以上のプライベートブランドが含まれているまでになっています。

また、倉庫ごとに在庫レベルを常に把握できる予測アルゴリズムを開発し、在庫切れのリスクを減らしています。

ドライバーについては、空き時間に働くギグワーカーと契約しています。注文が入るとまず倉庫作業員に通知が届き、作業員は倉庫の棚から商品をピックアップして袋詰めします。その後、袋は各ドライバー専用の箱に保管。複数の配達が可能な場合は、箱の中にいくつかの袋が入ることもあります。ドライバーは箱から袋を回収し、出発して、配達を完了させます。

Gは米国だけではなく、2021年11月には英国、フランス、スペインにも進出しています(2022年8月にスペインからは撤退)。

欲しいものをすぐに手に入れたい

パーティを楽しむ人々のイメージ画像

Gは、アメリカ東海岸ペンシルベニア州フィラデルフィアの大学生2人が、2013年に始めました。

彼らは、パーティや映画鑑賞の夜などに必要なものを買いに店に行くのは、時間がかかりすぎるという不満があり、このプロセスをより迅速に、効率的にする方法を考えて、Gをつくり上げたのです。本社はフィラデルフィアに置き、他の主要都市に小規模なサテライト・オフィスを構えています。

ところで、米国には全国に15万店以上のコンビニエンスストアがあり、人口の半分以上が毎日コンビニを利用しているといわれています。そんな中、なぜ、Gが大人気となったのでしょうか。

まず、即座に満足感を得られることです。例えば、アイスクリームを食べたい欲求を満たすために1時間以上待ったり、パーティでビールがなくなったりするのは、消費者にとって不便です。着替えて外に出かけるも面倒です。

世の中の動きが速まるにつれて、気まぐれな消費が目立つようになり、今日の消費者は、欲しいときに、欲しいものをすぐに手に入れたいと考えています。

こうした衝動的な買物をオンラインでしてもらうには、使いやすさと利便性が重要であることを理解したGは、そのプロセスの改革に乗り出したのです。

即座に満足感を得たいという消費傾向が強い、MZ世代(ミレニアル世代とZ世代)と呼ばれる20~30代の顧客を多く抱えていたGの特性を、活かすことができるようになったのです。

MZ世代をターゲットに広告を出せる

スマートフォンと男女のイメージ画像

Gは若い世代をターゲットにしていると同時に、若い世代からの注目も集めています。

最先端のマーケティング手法を駆使し、手頃な価格で提供することで大学生の間では、友だちに「Gを使ってみない?」と勧める学生が多くいるといわれます。

例えば、顧客は閲覧中のサイトを離れることなく、ワンクリックでGの広告を見て、宣伝されているアイテムをGのバッグに追加することができます。

さらにAI(人工知能)の代表的な技術である機械学習を使用して、それぞれの顧客が興味ありそうな商品を提供したり、チェックアウト時に非エンデミック広告を表示したりしています。非エンデミックとは、Gでは扱っていない商品を提供している企業のことを指し、金融会社やクレジットカード会社、ストリーミングやエンターテイメントなどの会社もGの顧客にリーチできるようになります。

この機能により、米国では平均を上回る5%のエンゲージメント率(広告への反応がどれくらいあったか)を実現しています。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。