一目で栄養価がわかる「FOP」と「ニュートリスコア」
2024年12月17日
海外流通トピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:包装前面栄養表示/世界保健機構/WHO

世界保健機関(WHO)は、2019年に「健康な食事を推進するための、食品の包装前面の栄養表示に関する原則」を公開しました。そのガイドラインには、主要な栄養成分(カロリー、脂肪、糖分、塩分など)の表示に関する項目や、ラベルの標準化と一貫性の確保といったことが示されています。
今回は、これに関連しEUで広がっている食品パッケージの前面に栄養情報を表示するFOP(Front-of-Package labeling)と「ニュートリスコア」についてご紹介します。
日本でも「包装前面栄養表示」の検討へ
日本では、2020年から食品表示法で容器包装に入った加工品には「熱量」「たんぱく質」「脂質」「炭水化物」「食塩相当量」といった「栄養成分表示」が義務付けられました。表示は、食品表示基準で容器包装の見やすい箇所に行うこととされていますが、実際は裏面にあることが一般的で、見やすさはあまり考慮されていません。
世界では、食品パッケージの前面に栄養情報を表示すること「Front-of-Package labeling(FOP)」が推奨されているのに伴い、遅ればせながら、日本でも消費者庁が、2023年11月から「包装前面栄養表示」の導入検討を行っています。
世界の動きを見てみると、2019年に世界保健機関(WHO)が「健康な食事を推進するための、食品の包装前面の栄養表示に関する原則」を公開。そのガイドラインには、視覚的にわかりやすいラベル・デザイン、主要な栄養成分(カロリー、脂肪、糖分、塩分など)の表示、ラベルの標準化と一貫性の確保という3つのポイントが含まれています。これにより、消費者は素早く栄養情報を理解し、より健康的な選択を行うことができます。
このガイドラインは、世界中の国々で健康的な食生活を促進するための重要なツールとして活用されています。
食品の安全と品質の国際基準を策定する機関であるコーデックス委員会も2021年に、FOPのガイドラインを採択しています。
今回は現在、EC(電子商取引)で最も利用されているFOPである、2017年にフランスで導入されたニュートリスコア(Nutri-Score)について解説します。
ニュートリスコアとは
ニュートリスコアとは、食品の栄養価を「A」(濃い緑、栄養価が高い)から「E」(濃い赤、栄養価が低い)までの5段階で示すもので、商品パッケージの表面に印刷されています。栄養価を一目で比較できるため、消費者が食料品を選ぶ際の指針となっています。
栄養価は、商品パッケージの裏面に表示される栄養申告表のデータと組成データ(繊維、果物と野菜、乾燥野菜)から計算され、健康と不健康な栄養素の量によって決まります。
ニュートリスコアのマイナス点になるのが熱量と飽和脂肪、糖、ナトリウムで、これらの成分が高いレベルにある場合は不健康と見なされます。
プラス点になるのが果物、野菜、ナッツ、オリーブ、菜種、ナッツ油、繊維、タンパク質です。これらの成分が高いレベルにある場合は健康とみなされます。
最終的なスコアは、これらのプラス点とマイナス点をアルゴリズムで計算して決定されます。
ニュートリスコアは2014年、フランスの教授たちによって、英国食品基準庁が作成した栄養スコアに基づいて開発され、2017年にフランスの国立公衆衛生機関であるサンテ・パブリック(Santé Publique)が導入しました。同機関が、ニュートリスコアのアルゴリズムによる評価をしたり、商標所有者として管理をしたりしています。
その後、ベルギー、スイス、ドイツ、ルクセンブルク、オランダ、スペインでも採用。2024年4月にはポルトガルも加わっています。
ニュートリスコアのロゴの付与
ニュートリスコアは、フランスを含めて、どの国でも法律で定められているわけではなく任意ですが、これを表示する食品メーカーは増えています。
ニュートリスコアのロゴは、無料で使用できます。まずフランスのサンテ・パブリックへの登録と使用契約への署名が必要で、審査後、ロゴの使用権が付与されます。
ただし、ニュートリスコアの評価を行うことが正式に認められている機関などに依頼して、評価を定める必要があります。
本稿でニュートリスコアのロゴ写真を使用させていただいたオープン・フード・ファクツ(Open Food Facts)は、世界中のボランティアによって立ち上げられた非営利のプロジェクトです。「すべての人のための、すべての人による食品データベース」を目指しており、ニュートリスコアを採用している国のブランドについて公開しています。
2017年以降、ニュートリスコアのロゴがない商品についても、オープン・フード・ファクツがニュートリスコアを計算していて、スマートフォンのアプリやWebサイトで確認できます。
ニュートリスコアの影響
2017年のフランスでの導入時には6社のみという控えめなデビューでしたが、食品会社や小売業者は、食品の栄養成分の透明性に対する消費者の関心の高さを実感することになりました。2024年10月には1400を超えるブランドの商品に使用されており、フランスの食品市場の約60%を占めるまでに普及しました。
さらにフランス人の99.6%は、2023年12月時点でこのロゴを見たり聞いたりしたことがあり、2020年と比較して約7ポイント上昇しています。フランス人の3分の1が自発的にロゴを使用すると宣言しているため、ロゴは消費者の日常生活に定着しているようです。
別の調査では、実店舗やオンライン・ショップで買物をしている消費者に対して、望ましいニュートリスコアが表示されるとすぐに売上が伸びることがわかりました。メーカーが自社商品にAまたはBのニュートリスコアを表示できれば、それぞれ売上は最大1.0%、0.8%増加します。
望ましいニュートリスコアが表示された製品の売上高へのプラスの影響は、実店舗よりもECで、さらに高いことも証明されています。
スイスの世界最大の食品・飲食会社Nは、2019年にニュートリスコアを導入した欧州初の企業の一つです。スイスで展開する全商品に採用していて、最新科学と栄養学から得たエビデンスに基づくニュートリスコアの進化に賛同している企業です。
スイスの食品安全獣医局もまた、ニュートリスコアは消費者がより健康的な食品を選ぶための重要なツールだとしました。消費者の購買行動に与える影響について、ジュネーブ大学病院と行った2020年の共同研究では、ヨーロッパで使用されている4種類の食品ラベルを比較しています。
その結果、ニュートリスコアを使用することで、消費者はより健康的な食品選択をするようになり、栄養の質に基づいて商品をランク付けする際にも、ニュートリスコアは総合的に最も優れていることが分かりました。この調査は、スイスの消費者1000人以上を対象に実施されました。
同調査では、ニュートリスコアは消費者の選択行動だけでなく、企業の商品開発にも影響を与えていることがわかりました。欧州の農業経済に関する学術誌に2024年に掲載された研究では、企業がニュートリスコアの評価を上げるために製品群を調整していることが示唆されています。
ニュートリスコアと健康
2024年10月には、医療分野で活動する1000人の医師と科学者の団体が、パリで首相に対して、フランスの食品ラベルにニュートリスコアを記載する義務を導入するよう訴えを起こしています。
ヨーロッパで何万人、何十万人もの人々を対象にした数多くの研究で、ニュートリスコアによって、より適切に分類された食品を摂取することは、がん、心血管疾患、肥満、代謝障害、さらには早期死亡のリスクの低下と関連していることが示されています。
2024年のOECD報告書では、ニュートリスコアが普及すれば、2050年までにヨーロッパで200万件の慢性疾患を回避できると推定されています。
ニュートリスコアは、慢性疾患のリスクを軽減するのに役立つシンプルな予防策であり、消費者の健康に影響を与えるだけでなく、経済的、社会的な影響もあります。
良いことばかりに見えるニュートリスコアですが、反対している企業や国もあります。Cのようなジャンクフードの世界的大手企業は反対し続けています。
また、イタリア、ルーマニア、ギリシャ、キプロス、チェコ共和国、ハンガリーなどの一部の国では、「伝統的な商品に不利である」などと主張して反対しています。
こうした世界の動きは、日本の食品業界にも今後大きな影響を及ぼすことになるのではないでしょうか。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

