スーパーマーケットと食品メーカーの「価値共創取り組み」

2024年12月17日

国内流通トピックス

■業種・業態:スーパー  
■キーワード:スーパーマーケット/食品メーカー/値上げ/価値共創取り組み

野菜が陳列してあるイメージ画像

生鮮食品の価格高騰や加工食品・日配品などの相次ぐ値上げにより、直近のスーパーマーケットと食品メーカーの業績は持ち直し傾向ですが、今後については不透明です。その状況を打破するポイントとなる「価値共創取り組み」について、現状の問題点と将来に向けた可能性をまとめました。

スーパーマーケットを取り巻く環境

スーパーマーケットの店内イメージ画像

経済産業省の「商業動態統計」によると、2023年度のスーパーマーケット販売額は前年度比3.9%増の約15兆8,162億円でした。

スーパーマーケット販売額推移
スーパーマーケット販売額推移のグラフイメージ画像
出典:経済産業省「商業動態統計調査」より作成

スーパーマーケットの販売額は、2019年度までは13兆円前後と横ばいで推移していましたが、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化したことで「巣ごもり消費」の恩恵を享受し、2019年度は前年度比11.3%増となり15兆円を超えました。

その後、2023年5月に新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが季節性インフルエンザなどと同じ「5類」に移行したことで「巣ごもり消費」はピークアウトしたものの、スーパーマーケットの販売額は拡大傾向にあります。ただし、多くの企業では、「巣ごもり消費」のピークアウトや根強い節約志向による「買い上げ点数」の減少を「一品単価の上昇」でカバーし、販売額を底上げする状況となっています。

一品単価上昇の要因は、ウクライナ情勢の悪化や天候不順による生鮮食品の価格高騰に加え、2022年1月頃から原材料費や輸送費、人件費の高騰にともない食品メーカー各社が相次いで値上げを行っている点が挙げられます。

ただし、内閣府の「食料・農業・農村の役割に関する世論調査」によると、食品価格値上げの許容度について、「1割高まで」(37.5%)や「1割高から2割高まで」(29.8%)とする回答が多数を占めています。

食品価格値上げの許容度(単位:% 回答数:2,875名)※1つのみ回答
食品価格値上げの許容度を示す帯グラフのイメージ画像
出典:内閣府「食料・農業・農村の役割に関する世論調査(令和5年9月調査)」より作成

そのため、最近では食品メーカーが商品の価格を上げずに内容量を減らすことで実質値上げをするケースも最近増えており、今後一品単価の上昇による販売額の押し上げは期待しづらい状況となってきています。

食品メーカーを取り巻く環境

乳製品が陳列してあるイメージ画像

食品メーカーでは、値上げにより一時的に収益を確保した企業が増えたものの、足元では節約志向の高まりにともなうPB(プライベートブランド)などの低価格商品への購買シフトもあり、販売数量の落ち込みが顕著になっています。PBについては、スーパーマーケット各社の開発力向上により、NB(ナショナルブランド)との品質差が以前よりも縮まってきています。

そのため、NBは相次ぐ値上げにより消費者に割高感を持たれてしまい、苦しい状況に陥っている企業が増加しているものと推測されます。

スーパーマーケットにおけるPB商品の利用実態(単位:% 回答数:2,039名)
スーパーマーケットにおけるPB商品の利用実態を示すグラフのイメージ画像
出典:(一社)全国スーパーマーケット協会「2024年版 スーパーマーケット白書」より作成

食品メーカーの中には、値上げにより確保できた利益を特売条件やリベートという形でスーパーマーケットに販促原資として支払うことで低価格を実現し、NBの割高感を払拭することで販売数量の減少にテコ入れを図る企業も見受けられます。

リベートには、契約期間中の販売数量×スーパーマーケットの仕入れ価格×○○%を支払うものや、契約期間中に取り決めた販売金額や販売数量の前年比目標について達成度に合わせてリベートを支払うものなど、様々な種類があります。

しかし、契約期間中に値上げがあると販売数量が減少してしまうので、期初に設定した販売目標の前提が崩れてしまいます。

リベート契約をした食品メーカーは、スーパーマーケットに対して販売目標の達成に向けて過剰な数量の配荷を提案したり、特売条件を増やして販促の強化を提案したりしますが、スーパーマーケット側では最終的に過剰在庫で売れ残った商品を賞味期限以内に販売するために価格を切り下げて販売することとなり、NBのブランド価値の低下を招きます。

その結果、値上げをしても利益を販促原資として短期的に低価格で販売数量増を目指すだけの取り組みは、中長期的には販売数量が減少していくという悪循環を招きます。

スーパーマーケットと食品メーカーが抱える問題点と
価値共創取り組みの可能性

家族がスーパーで買い物をしているイメージ画像

元々、スーパーマーケットは「商圏内の生活者に適した商品を品揃えする」、食品メーカーは「生活者のニーズを満たす商品を開発する」という関係でした。

しかし、これまで述べてきたように、スーパーマーケットと食品メーカー双方にとって市場環境が厳しくなってくると、スーパーマーケット側はいかに食品メーカーから特売条件やリベートを引き出すか、食品メーカー側はいかに競合他社よりもスーパーマーケットの要望に応えて多くのNBを取り扱ってもらった上で販売数量を増やすか、といった取り組みに終始しがちになります。そして、このような取り組みがいき過ぎると、生活者はそっちのけになってしまいます。

スーパーマーケットと食品メーカーの代表的な生活者視点での取り組みとしては、生活者の満足度向上を追求してカテゴリーの抱える課題を解決していくことでお互いの業績も向上させていくカテゴリーマネジメントが挙げられます。ただし、PBが売場を大きく占有するようになると、メーカーにとってはスーパーマーケットと一緒に取り組むメリットが相対的に減少します。

また、スーパーマーケットと食品メーカーの間、またそれぞれの社内における部署の間でKPI(Key Performance Indicator ※目標に対する達成度合いを評価するための指標)が異なる点も、スーパーマーケットと食品メーカーの取り組みの上では問題となります。

例えば、同じ在庫商品の指標でも、スーパーマーケットは物流センターや店頭の在庫、食品メーカーは倉庫における出荷前商品の在庫となります。そして、スーパーマーケットの社内では商品部や店舗運営部、販売促進部、食品メーカーの社内では宣伝部やマーケティング部、営業部でそれぞれKPIが違います。例えば、食品メーカーでは、営業部のKPIが売上・利益(予算)、マーケティング部のKPIが(商品・ブランドの)認知率といったような具合です。

しかし、少子高齢化による市場規模の縮小やスマートフォンの普及にともなうSNSの浸透による嗜好の多様化を背景に、これまでのような市場拡大を前提とした単品・価格主体のビジネスモデルが通じなくなってきています。

今後は、スーパーマーケットと食品メーカーが協働して生活者に寄り添った新規価値・市場を創造する「価値共創取り組み」の必要性が増していくでしょう。

「価値共創取り組み」実現のためには、対生活者という視点でスーパーマーケットと食品メーカーが社内外でKPIを一気通貫することがポイントとなります。例えば、リテールメディアには、来店前の告知から店頭での認知、購買後の効果測定に至るまで、生活者視点でKPIを統一して協働取り組みのできる可能性があります。

たとえ小規模でも、このような取り組みを通じて売上や利益の成果を継続して出すことで、スーパーマーケットと食品メーカーの各部署が注目するようになり、徐々に生活者視点でのKPI設定を通じた「価値共創取り組み」の意識が高まっていくのではないでしょうか。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2024年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。