「自分へのご褒美」なら大金をはたける?
数ある商品やサービスの中から、私たちはなぜそれを選んでしまうのか?
2025年1月20日
お店づくりトピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:行動経済学/メンタルアカウンティング/非日常感/希少性
無意識のうちに費用を仕分け「メンタルアカウンティング」
次の2つの状況を想像してみてください。
①1万円のミュージカルのチケットを買って会場に行ったところ、チケットをなくしたことに気付いた。
②ミュージカルを見るため、会場でチケットを買おうとしたら、ポケットに入れていた1万円を落としてしまったことに気付いた。
さて、あなたは追加で1万円を支払ってミュージカルを見ますか? ①のケースでは「再び購入する」という人が5割以下だったのに対し、②の場合は「購入する」という人が約9割だったとの調査結果があります。この違いはどこから生じるのでしょうか。
私たちは心の中に家計簿のようなものを持っており、無意識のうちに支出を食費、交通費、娯楽費などのように仕分けし、その中でやりくりしています。行動経済学ではこれを「メンタルアカウンティング(心理的勘定)」と呼びます。チケット代が「娯楽費」にあたるとすれば、①の購入済みのチケットは既に娯楽費に計上されており、「再購入=同費目の支出の倍増」になるため、ためらいが生じます。一方、②の現金をなくした場合はその時点ではまだ「娯楽費」に紐づいていないため、購入しても当初の予定通り1万円を娯楽費に支出することとなり、抵抗が弱まるものと考えられています。
「買うための理由付け」が効果的
旅行に行った際などに、普段なら買わないような高級食材や珍しい調味料などを買ってしまうことはありませんか? こうした食材も日常生活では食費として仕分けされますが、旅行の場合は娯楽費または旅行経費として計上され、出費金額として適切と判断されます。さらに旅行では、非日常感や「ここでしか買えない」という希少性も相まって、財布のヒモが緩くなってしまいます。
普段、節約に余念のない人でも難しい仕事が終わった後などに「自分へのご褒美」と称して高価な物を買ったり、おいしいものを食べに行ったりすることがあります。こうした出費も食費等の本来の費目とは別の支出としてカウントされるため、少し贅沢だと思っても気になりません。したがって、贅沢品や少し値の張る商品を売りたい場合は、「特別な日のお祝い」「自分への投資」などのように「購入するための理由付け」を提示すると効果的です。
監修:阿部 誠(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)
※当記事は2025年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

