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カスタマーハラスメント対策

2025年1月20日

お店づくりトピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:カスハラ/基本方針/ガイドライン/再発防止

今すぐ始めるカスタマーハラスメント対策のイメージ

顧客が企業や店舗に対して理不尽なクレームや言動を行う「カスハラ(カスタマーハラスメント)」が社会問題化しています。「正当なクレーム」とカスハラの線引きは難しく、対応に苦慮するケースが多いのが実情です。店舗運営にも大きな影響を及ぼす、カスハラへの効果的な対処法や予防策について紹介します。

初期対応を誤ると甚大な被害に発展

カスハラは滅多に起こらない。だから現場に任せておけば大丈夫——。経営陣がこのように考えるのは非常に危険です。カスハラによって最もダメージを被るのは、接客の最前線にいる現場スタッフです。たった1回のトラブルを経験してしまったゆえに、心が折れ、離職につながるケースもあります。スタッフが離職すれば、求人募集をしなければならず、面接、採用、教育と多大な費用がかかります。また、発生した場合は解決に何日も要する場合が多く、その時間が長引くほど、対応者の他の仕事が止まってしまい、業務効率に影響します。

カスハラは購入した商品やサービスに対する不平・不満をその提供者に伝えることから始まります。いわゆる「クレーム」ですが、その中には「購入者が怒って当然」と思われるような「正当なクレーム」もあります。しかし、初動が遅れたり、対応した従業員の言葉遣いが適切でなかったりすると、怒りの矛先が従業員個人や会社に向けられ、スムーズな解決が困難になってしまいます。初期消火をきちんと行えばボヤで済んだのに、火災がどんどん大きくなり、飛び火や延焼から二次被害、三次被害を引き起こすイメージです。

カスハラと決めつけずまずはお客様の話を聞く

では、どこからどこまでが「正当なクレーム」で、どこからがカスハラになるのでしょうか。一般的に顧客からの過剰な要求や無理難題、暴言、暴力、迷惑行為などがあり、悪質性が高いと判断されるとカスハラに該当します。しかし、その境界線はあいまいで、対応する側のスキルによっても大きく変動します。

例えば、店舗に入ってくるなり、大声で怒鳴り散らすお客様がいれば、「営業妨害だ」とばかり、すぐにカスハラと断定しがちですが、そこまで怒っている理由を聞けば「無理もない」と共感できるケースもあります。悪意のないお客様なら店側の提案に対して納得し、すんなり終わる場合も少なくありません。まずはお客様の話をよく聞くことがクレームをカスハラに発展させない秘訣です。そのためにも対応する側のスキルを上げる必要があります。

会社としての基本方針やガイドラインを設定

実際にどんな行為や言動があった際にカスハラと認定し、断固とした対応を取る必要があるのでしょうか。その基準となるのが、会社としての方針やガイドラインです。例えば、クレームを訴えてきたお客様に対し、解決案をいくつか提案しても納得されず、暴言や威嚇といった行為にエスカレートする。さらに、カスハラと判断したときは退店を促すのか、通報するのか。前者の場合はどんな言い方が適切なのか——。

このように、カスハラと認定する場合の境界線や、実際に起きた際の対処法などを会社がしっかりと決め、明文化しておく必要があります。個店やスタッフによって対応がバラバラだと、企業や店舗の評判だけでなく、従業員からの信頼も失ってしまう恐れがあります。

最終的に退店や通報という判断を下すにしても、そこに至るまでは「段階を踏む」ことが大切です。例えば、大声で怒鳴っているお客様に対しては、「もう少しお声を落としていただけますか。他のお客様の迷惑になりますので」などと、まずはやめてもらうよう「お願い・制止」ベースで伝えます。それでも状況が変わらなければ、「冷静に話し合いできませんでしょうか。でないと、これ以上の対応は難しくなってしまいます」と「予告・警告」へとレベルを上げていきます(図1)。

このように段階を踏んでからの通報であれば、警察官が来た際に経緯をきちんと説明すると、通報が適切なタイミング・判断で行われたということをわかってもらえます。

冒頭で述べた通り、カスハラを防ぐために最も重要なのが「初期対応」です。そのために必要なのが、すべてのスタッフの「クレームやトラブルに対する予防・対応スキル」の向上です。このスキルが低いとクレームが減らないだけでなく、お客様の不平・不満も解消されないため、顧客離れを引き起こす可能性があります。

一方、スタッフのスキルアップは、接客に対する自信や安心感をもたらし、離職率の低下や顧客満足度の向上に繋がります(図2)。

設定したガイドラインや方針に沿って、研修やOJTなどを繰り返し行うことが大切です。

お客様のタイプに合わせ対応方法を変える

お客様の「感じ方」は人それぞれであり、性格や状況によっても大きく変わります。カスハラに発展するお客様のタイプを8つに分類したのが図3です。

中でも①の「純粋型」が最も多く、すべてのタイプのベースとなるため、最初はこのタイプを想定して対処します。

純粋型は不都合や不満を感じた時に「〇〇という状態・状況だからなんとかしてほしい」と、文字通り純粋に解決を求めるため、迅速・丁寧に解決案をご提案すれば、カスハラに発展することはほとんどありません。しかし初期対応が遅れたり、接客態度が適切でなかったりすると他のタイプに移行し、解決に時間がかかってしまうことがあります。

また、近年増えているのが、自分の感情を延々と述べる⑤の「シアター型」です。このタイプは合理的な解決策より、自分に対する共感を求めています。そこで、多少大げさに相槌を打ちながら話をじっくり聞いてあげると、比較的早く解決に導くことができます。

それぞれ求めるものや感情の表現方法が異なるため、できるだけ早くお客様のタイプを見極め、適切な対応を取ることが重要です。

記録を取ることで再発防止策に役立てる

クレーム・カスハラ対策で欠かせないのが、しっかり記録を取ることです。記録することで「言った・言わない」を回避するだけでなく、その場では解決できず、次回の話し合いに持ち越した際にも記録を読み返すことで解決策のアイデアが浮かぶことがあります。

ボイスレコーダーなどで会話内容を記録するのも有効です。こじれそうな場合は、ボイスレコーダーを見せて「録音させていただきます」と宣言することで抑止効果も期待できます。

記録を取ることは原因を分析し、再発防止策を講じる上でも役立ちます。そのためにも記録用の統一したフォーマット(図4)を作成し、定期的な分析や検討会などを実施しましょう。その結果を会社の方針や対策のアップデートに生かすとともに現場にフィードバックします。このサイクルを回すことによって、クレームやカスハラに強い組織になってくるはずです。

監修:加藤 義樹(かとう よしき)
クレームコンサルタント

※当記事は2025年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。