AI導入でファストフード業界をけん引
2025年1月20日
海外流通トピックス
■業種・業態:量販店
■キーワード:AI/ファストフード/ネット注文/効率化

米国のファストフード業界は、AIとロボットによる自動化の進歩によって大きな変革を遂げています。その先頭に立つ企業のひとつであるD社では、AIを活用しユーザーの注文開始時点で注文完成のタイミングを計画し、調理をスタートするなどして成果を上げています。今回はこちらのD社の取り組みについて紹介します。
米国ではネット注文が80%以上

D社は、世界最大のピザ会社で、宅配と持ち帰りの両方でビジネスを展開しています。米国と世界の売上規模はほぼ同じで、世界トップクラスの上場レストランブランドに数えられ、90以上の地域で2万店以上の店舗を展開しています。その店舗の99%は、独立したフランチャイズオーナーによって経営されています。
2022年にデジタルチャネルを介した販売を開始し、スマートスピーカーをはじめ、スマートTV、スマートウォッチ、SNSのメッセージ注文といったさまざまな媒体を通じてピザの注文ができる「AnyWare」を開発しました。
注文したいピザの種類、住所、電話番号、クレジットカード情報などを事前に登録しておくと、その内容にもとづいて注文を受けられるという仕組みです。
そして同年、米国ではネット注文が売上高の80%以上、世界では売上高の約3分の2にまで拡大しました。
2023年には、公園や野球場、ビーチなど、これまで配達ができなかったところまでエリアを拡大し、新しいテクノロジーの「ピンポイントデリバリー」によって、ほとんどの場所でピザを受け取れるようになりました。
世界最大級のECサイトにAIを導入するハードルの高さ

D社の大きな課題は、AIをECサイトと業務システムのそれぞれに導入することでした。
ECサイトと業務システムのそれぞれにAIを使うことは、非常にハードルの高いもので、大きな課題でした。これにはいくつかの理由があります。
まずECと業務プロセスはそれぞれ異なるニーズや要件を持っており、それぞれに適したAIソリューションを開発する必要があることです。
効果的なAIモデルを構築するためには、多種多様なデータを収集して、統合・管理する必要があります。AIモデルは常に学習と適応が必要です。顧客の嗜好や業務プロセスは時間とともに変化するため、それに合わせてAIを調整し続けることが求められます。
そしてさらに、異なるAIソリューションを既存のシステムやプラットフォームに統合するのは複雑で、カスタマイズが必要です。
これらの課題に対処するため、2023年10月から大手ソフトウエア会社と協力して、AIテクノロジーとクラウドコンピューティングを活用し、次世代のピザ注文と店舗運営を行うことになりました。
ピザ注文から配達、さらにはバックオフィス業務まで、AIを駆使して業務の効率化と顧客サービスの向上を図っているのです。
ネット注文の途中から調理を開始し提供時間を短縮

「ネットで注文を受けると、ある時点で当社のアルゴリズムが注文の準備ができていると判断しピザを作り始めます」とD社のCEO(最高経営責任者)は、2024年5月の同社の業績報告会で投資家に語っています。
AIアルゴリズムが、ユーザーの注文開始時点で注文完成のタイミングを計画し、ピザの調理を自動的に開始するのです。これにより、ピザの提供時間が大幅に短縮されています。
従来は注文から15分程度かかっていた提供時間が、わずか5分程度に短縮されたと報告されています。
これにより、配達ドライバーの待ち時間も減らし、より速い配達を実現しています。AIがあれば、配達ドライバーは駐車場を探してピザを受け取るのに時間を費やす必要がなくなります。従業員が配達ドライバーのところまでピザを届けてくれるからです。
「ピザをより早く作れれば、配達ドライバーもより速く派遣できます。配達ドライバーはより早く走れるようになり、チップも増え配達も速くなります。そして、それがまたお客さんを呼び戻すのです」とCEOは語ります。
最終的には、配達ドライバーが足りないなど、ピザを作るのを控えるべきときを、店舗マネージャーが判断するのではなく、AIが検出できるほど賢くなることを目指しているそうです。
AIアシストが注文を気軽で確実にする

注文受付システムには、AIアシスタントを導入しています。このシステムは、ユーザーの好みや注文履歴を学習し、最適なピザの提案を行うため、AIアシスタントとのやり取りで簡単にピザの注文ができるようになります。
注文プロセスが大幅に簡素化され、ピザの注文がより手軽になったと評判です。
CEOは、「AIアシスタントをピザのコンシェルジュサービスのように思ってもらいたい」と語っています。
このAIアシスタントは、顧客が注文を追跡できる「オーダートラッキングシステム」とも連携しています。「オーダートラッキングシステム」とは、リアルタイムで注文の進捗状況を確認できるシステムです。
注文の受付から、ピザが配達されるまでの各ステップをユーザーが追跡できるようになっています。例えば、注文が受け付けられた時点、ピザが作成されている時点、そして配達員がピザを持って出発した時点などを確認できます。
食べ物の準備と配達という特殊なプロセスをリアルタイムで確認できることにより、ユーザーは注文状況を把握しやすくなり、顧客サービスが向上することが期待されています。
さらに、AIカメラを活用してピザの品質管理にも取り組んでいます。AIカメラがピザの外観を分析し、品質基準に合っているかどうかを判断するのです。
これにより、人手による品質チェックと比べて、より正確かつ迅速にピザの品質を確認できるようになりました。ピザの品質向上は、リピート率の向上にもつながっています。
バックオフィス業務の効率化を目指す

バックオフィス業務の効率化については、在庫管理、材料の発注、スタッフのスケジュール管理など、店舗マネージャーが日常業務に費やす時間を節約できるようにするためのAIアシスタントを開発しています。
店舗マネージャーの業務をAIアシスタントが自動化できるようになれば、業務負担が大幅に軽減されます。本業に集中できるようになり、店舗運営の質的向上にもつなげることができます。D社のCEOは、次のように抱負を述べています。
「今後5年間のM社との協力により、当社は数百万の顧客に一貫性のある魅力的な注文方法を提供していきます。それと同時に、店舗運営の効率と信頼性を高めるツールで、直営店、フランチャイズ店、および、それぞれのチームメンバーをサポートできるようになります」
言い換えると、D社はAIアシスタントにより、業務と顧客サービスがシームレスに連携し、全体的な運営効率と顧客満足度が向上することを目指しているのです。
この動きはD社以外にも、W社、I社、C社などの他のファストフード大手にも波及し、業務効率の向上と顧客の店へのロイヤルティを高めるために、AIの活用と調理システムとの統合を急速に進めています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2024年12月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。