世界初、AIでスタイル提案するファッションサイト

2025年2月19日

海外流通トピックス

■業種・業態:衣料店  
■キーワード:ECサイト/ファッショニスタ/生成AI/チャットGPT

ショッピングカートを押すロボットのイメージ画像

米国のアパレルや靴などを扱うファッション通販サイトでは、返品を防ぐためにAI(人工知能)を使ったサイズガイドが、数百のECサイトで導入されています。
これまでAIは効率的にECを運営するために利用されてきたわけですが、その節目になったのが「生成AI」です。テキスト・画像・音楽・映像など、さまざまなコンテンツをつくり出す生成AIによって、リアル店舗でスタッフとおしゃべりをしながら洋服を選ぶような楽しさを、ECで実現したのです。これを最初に行ったECサイトを紹介します。

ファッション好きが支持するECサイト

ECサイトを表示しているスマートフォンのイメージ画像

Zは2008年にベルリンで設立され、現在ではヨーロッパを代表するファッションECサイトに成長しました。アパレルや靴、アクセサリー、スポーツウェアなどを扱い、25の市場(現地言語は20以上)で5000万人を超えるユーザーを抱えています。ウェブサイトとスマートフォンのアプリで提供されています。

Zは直販と、第三者に販売の場を提供するマーケットプレイスの2つで構成されています。ファッションブランドや小売業者にも自社の物流やソフトウェア、サービス機能を開放し、ECビジネス全体を管理・拡張できるプラットフォームとしても展開。

要するに、世界最大のECサイトAと同じビジネスモデルを採用しているというわけです。

異なるのがZはヨーロッパ市場のみを対象としていて、米国、日本などは対象外ということ。ファッションブランドでは、日本では百貨店で扱っているようなヨーロッパや米国のハイブランドを取り揃えているのも、大きな魅力といえるでしょう。

2024年第3四半期には50万人のユーザーが増え、5000万人超となりました。加えて、ECサイトの売上高は4.3%成長し、マーケットプレイスの売上高は11.1%の2桁成長を達成。この好調な業績を支えているのは、「生成AI」を活用したファッションアドバイスだと言われています。

これが最先端のファッションを追いかけている「ファッショニスタ」にも支持されているのです。

「チャットGPT」を開発したオープンAIと提携

スマートフォンでオープンAIとチャットしている様子のイメージ画像

ZはオープンAIと協力して、人それぞれに合ったファッションアドバイスを提案するAI搭載ツール「ZA」を開発しました。Z独自のモデルとオープンAIの大規模言語モデルを搭載しており、現在すべての市場で、ログインユーザーに現地の言語でサービスを提供しています。

オープンAIといえば、人々がより自然な形でコンピュータと対話できるように設計された「チャットGPT」を開発したことで、一躍有名になりました。

オープンAIは米国サンフランシスコに拠点を置く人工知能の研究機関で、もともと非営利団体として設立されましたが、現在は「capped-profit(株主など還元する利益に上限を設定する組織)」として運営されています。チャットGPTや他のAIモデルの開発を通じて、AIの可能性を探求し続けています。

Zに話を戻しましょう。ユーザーがZAに次のような質問をしたとします。「11月にバルセロナで父の60歳の誕生日を祝うには、何を着ればいいですか?」。するとZAは場所、天気、状況などを理解し、情報に基づいたアイテムを提示します。

Zではものすごい数の商品を扱っています。このような幅広い品揃えのネットショップで、求めている物を自然な形で閲覧できるというわけです。

Zの副社長は次のように言っています。

「ユーザーは、単に商品を購入する場だけでなく、最新のファッション情報やスタイル提案を求めています。そのため私たちは、ユーザーが、それぞれ独自のスタイルやニーズに合ったファッションを見つけやすくすることに重点を置いています」

旅先で着る服をAI搭載ツールに提案してもらった

実際にZAをウェブサイトで試してみました。ブラウザの日本語翻訳で試すことができます。画面を開きチャットの入力スペースに「2月にチェンマイへ旅行します。どんな服装が良いですか?」と入力して、実行キーを押したあとに、実際に生成された返信の画面が下図です。

AI搭載ツールで実際に生成された返信画面の画像 1

そして、選択肢の中から「観光用の服」をクリックすると、画面には「お気に入り」を意味するハートのアイコンと、「もっとこんな感じ」をクリックすると、好みの洋服が表示されました。

AI搭載ツールで実際に生成された返信画面の画像 2

他のファッション通販サイトでは、「この商品を見たお客様はこんな商品も見ています」「あなたにおすすめの商品」などと、商品が表示されます。残念ながら、こうした多数の人の履歴に基づいた商品を見ても、ピンとくることは、あまりありません。

ZAのように自分の好みに応じて提案される商品を見ているほうが、圧倒的に魅力的で、刺激的で、もっと見たくなります。

リアル店舗でスタッフに「こんなアイテムはどうですか?」と薦められている感じで、意外な商品が見つかるという喜びもあります。「自分で選ぶとワンパターンになりがちでバリエーションが増えない」といった人には、格好のツールになることでしょう。

2023年にスタート、いまも改善中

通販の楽しげなイメージ画像

Zは、2023年にドイツ、オーストリア、イギリス、アイルランドのすべてのログインユーザーに対してZAのベータ版を公開しました。ベータ版では、ユーザーからのフィードバックや実際の使用状況を基にAIのアルゴリズムを調整し、精度を向上させることができます。

つまり、最初からユーザーのフィードバックに基づいて、繰り返し改良を重ねてきたというわけです。また、社内スタッフと選ばれたユーザーを対象に、広範囲にテストを行ってきました。このような機械学習の過程を通じて、ユーザーは新しい会話を楽しみ、ZAは学習と改善を続けてきました。

2024年からは25の市場すべてに拡大し、現地の言語に対応しました。2025年1月現在でもベータ版となっており、ZAは学習を続け、ユーザーの質問への応答を常に改善しているようです。

ユーザーがフィードバックを提供する方法は、いくつかあります。ZAが提示した商品の中から気に入るものがあれば、ハートのアイコンと「もっとこんな感じ」をクリックすると、それに合った商品が出てきます。

こうしたアドバイスが役に立った場合は「という感じで」を、役に立たなかった場合は「嫌い」をクリックすれば、改善が必要なことを知らせることもできます。「他のアイテムを見ることができますか」をクリックすれば、代替案を提供するように依頼できます。

「私たちは、ユーザーのニーズと好みをさらに理解することに尽力しており、改良を重ねる中で、ユーザーがZAとどのようにやり取りしたいかを学び、可能な限り満足してもらうことに重点を置いています。将来的には、ユーザーの好み、例えばフォローしているブランドやサイズで、入手できる商品などと組み合わせて、よりパーソナライズされた商品のセレクションを提供できるようにしたいと考えています」

このようなZの副社長の話が実現できたら、喜ぶユーザーはたくさんいるはずです。それと同時に、ZAのようなサービスに追随するECサイトは出てくるのか、今後が楽しみです。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。