世界のSNS規制と動向

2025年2月19日

海外流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:SNS規制/ファクトチェック/コミュニティノート

SNSのイメージ画像

オーストラリアで、16歳未満のSNSの利用を規制する法律が成立し、日本でも驚きを持って報道され話題となりました。
さらに、世界ではSNSへの規制を厳しくしたり、緩くしたりする動きがみられます。今回は世界のSNS事情についてリポートします。

16歳未満のSNSを禁じるオーストラリア

オーストラリアの裁判(ガベル)のイメージ画像

オーストラリアの若者の精神疾患が増加しています。理由は不明ですが、証拠がほとんどないにもかかわらず、SNSが主な原因とされています。

こうした声を受けて、2024年11月、オーストラリアの議会は、16歳未満の子どもがSNSのアカウントを持つことを禁じる法律を承認しました。保護者が同意していても、16歳未満であれば禁止の対象となります。

この禁止令は発効までに少なくとも12カ月かかりますが、オーストラリアは16歳未満のSNSを禁止する最初の国となる予定です。

SNSの運営企業には、ユーザーが16歳以上であることを確認するための「合理的な措置」を講じることを義務付け、その措置を講じなかった場合は、最大5000万豪ドル(約50億円)の罰金が科される可能性があります。ただし、保護者や子どもには罰金は科されないことになっています。

規制対象となるSNSは「TikTok」「Facebook」「Instagram」「X(旧Twitter)」「Snapchat」など。教育的な要素があるとして、「YouTube」の利用は認められています。

年齢確認がどのように行われるかについては、多くの課題があります。政府発行の身分証明書を義務付けるという提案は、プライバシーの懸念から却下されました。顔認識技術や生体認証スキャンの使用が検討されており、今後数カ月で、選択肢にあがった手段をテストする予定になっています。

一方で、VPN(仮想プライベートネットワーク)などのツールを使えば、ユーザーの位置情報を偽装し、別の国からログインしているように見せかけることができるため、制限は簡単に回避できるとも警告されています。

ルールを無視する方法を見つけたとしても、子どもは罰せられません。

子どものSNSを禁じる各国の動き

スマートフォンを持つ子どもたちのイメージ画像

オーストラリアのこの法律には、ニューヨーク大学の心理学者ジョナサン・ハイト氏が2024年に発表した著書『The Anxious Generation(不安の世代)』(未邦訳)が、少なからず影響を与えていると言われています。この本では、スマートフォンとSNSが過去10年間の若者のうつ病や不安の増加の原因であると主張しているのです。

影響を受けたのは、オーストラリアだけではありません。

フランスでは2023年、15歳未満の子どもがSNSアカウントを作る際に、保護者の同意を義務付ける法律が制定されました。ただし、利用者の年齢の確実な認証が技術的に難しく、施行されていません。

そして、2024年9月の新学期から約200カ所の中学校で、学生のスマートフォン使用を禁止する「デジタルコンマ」政策を施行しています。学校内にそのためのロッカーを設けて、登校した生徒からスマホを回収、下校する時に返却します。

2025年9月の新学期には、全国的に「デジタルコンマ」措置が施行されるかもしれません。フランスの国民教育省の大臣は「今は国家的な危機状況であり、青少年の健康を守る義務がある」と語っています。

また、ノルウェーは2024年秋に、15歳未満のSNSを禁止する計画を発表しました。

英国では、2023年に「オンライン安全法」が成立。2025年にかけて段階的に法律を施行していくことになっています。この法律は、16歳以下の子どもたちを保護することを目的としており、SNSに対して、児童の性的虐待、暴力的コンテンツ、自傷行為などの有害コンテンツを削除するという大きな責任を負わせ、プラットフォーム上にある年齢不相応なコンテンツへのアクセスを防止するため、年齢認証システムを導入することを義務付けています。

米国では、ユタ州で2023年に、18歳未満がSNSを利用する際には親の同意を義務付ける法律が成立しましたが、連邦判事によって違憲とされ、覆されました。フロリダ州では2024年3月に、14歳未満のSNSを禁止する州法が成立しましたが、言論の自由をめぐって現在、法廷で争われています。

メタはファクトチェックを廃止

ノートパソコンの上に乗った天秤のイメージ画像

2025年1月には、SNSの規制を緩くする動きがありました。
「Facebook」「Instagram」「Threads」を擁するSNS大手のメタは、1月7日に米国での第三者機関によるファクトチェックを終了し、X(旧Twitter)と同様に、ユーザーが評価する「コミュニティノート」を採用すると発表しました。

2025年1月20日に大統領に就任するドナルド・トランプ氏に歩み寄ることになったのです。トランプ氏の支持者は、コンテンツモデレーション(投稿監視・削除)は検閲の道具だと、長らく非難してきたからです。

米国の政治は日本と異なり、共和党と民主党の二大政党制で、これが政治的な分極化を生んでいます。選挙や政策に関する議論が激しくなることが多いのです。

選挙時や重要な政策を発表したときなどは、フェイクニュースが広がりやすく、特に選挙期間中には候補者や政党に関する誤った情報が拡散されることがあります。

そもそもSNSの普及により、誰でも簡単に情報を発信できるようになったことが、フェイクニュース流布・拡散の土壌になっています。

SNS上では誤った情報が瞬時に広がることがあり、これが社会全体に大きな影響を与えることがあります。そのためメタは、2016年からファクトチェックを重視してきたのです。

時間が経つにつれ、政治コンテンツが制限され、人々の正当な政治的発言や討論でも検閲されることになり、テレビや議会の場で発言できるのに、メタのプラットフォームでは発言できない状況にありました。

今後はファクトチェックを終了した上で、モデレーションシステムを「重大度の高い違反」に重点を置き、その他の違反についてはコミュニティノートというユーザーからの報告に頼ることに方針を転換したのです。

つまり「重大度の高い違反」、すなわち麻薬、テロ、児童搾取・虐待などに関連するコンテンツは、今後も積極的に管理していくということです。

コミュニティノートとは何か

「LIE」と「TRUE」と書かれた積み木と「LIE」を示す指のイメージ画像

コミュニティノートは、トランプ氏の盟友となったイーロン・マスク氏が買収して名前を変えたXが、2022年から始めた機能です。

外部のファクトチェックから、ユーザーが他のユーザーの投稿に対してコミュニティノートを追加できるシステムに切り替えました。投稿が誤解を招く可能性があったり、説明不足だったりした場合に、ユーザーが有用な追加情報を提供する仕組みです。

多様な視点を持つ多数のユーザー同士で評価し合い、偏りを防ぐ設計となっています。言い換えれば、正しくない発言に対して正しい情報を提示し、それを皆で評価して対抗していこうとする行動なのです。

メタは、コミュニティノートの作成や表示の選択には関与しない方針です。この機能は米国内で今後、数カ月間で段階的に導入しつつ、1年かけて改善を進める予定となっています。

コミュニティノートが提供されるとはいえ、こうしたメタの動きは、大人も子どもも同様にさらなる誤情報にさらされる可能性があることを示唆しています。

一方、EUでファクトチェックを終了する予定はすぐにはないということですが、EUではSNSが配信するコンテンツに対して責任を持つようにする法律を強化しており、オンラインの言論に関する溝は広がっていくかもしれません。

実際に、米国でメタのファクトチェック終了が発表された4日後の1月10日に、ドイツの60以上の大学や研究機関が、Xの利用を中止すると発表しました。

その理由を「Xのアルゴリズムは、所有者であるマスク氏の世界観に一致するコンテンツを優先するよう操作されるようになり、中立性と信頼性が損なわれています」と、主張した大学があります。

ドイツの大学に先立ち、実はヨーロッパの研究機関もXのプラットフォームからの離脱を発表しました。そのうちの2つは、パリ・サクレー大学とオランダ科学研究機構です。
こうした動きが、EUやオーストラリアなどにも拡大することも大いに考えられるでしょう。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。