2025年の外食業界
3つの課題と対応策

2025年2月28日

国内流通トピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:コスト削減/システム化

外食業界は、2023年5月に新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行以後、順調に売上回復傾向にあります。業態によってばらつきは見られるものの、売上、客数はコロナ禍前の水準まで戻ってきました。

今回は、2025年の外食業界が直面している課題と対応策について考えてみます。

売上高と店舗数の伸び率推移のグラフ画像
(出所)一般社団法人日本フードサービス協会
   「外食産業市場動向調査」データを基に編集部が作成

経営環境が一変した中、好調だった2024年の飲食店

2024年は、売上高の前年比の伸び率で見ると、ファミリーレストラン、ファーストフードなど、日常的な外食を提供する業態を中心に好調を維持しました。

パブ・居酒屋、ディナーレストランといった夜中心の業態は、日常的な外食を提供する業態には及ばないものの前年比の売上伸び率は100%を超え、全体的に見れば堅調に推移しているといえます。

特にSNS時代を反映し、この店でしか味わえない一品、デカ盛り、価格破壊メニューなど話題性のある料理を提供する店や、インバウンドの追い風もあって店内を昭和レトロ感覚で演出し、非日常を体験できる写真映えする店も話題となり、大きく売上を伸ばしています。

一方、やや不安な材料としては、コロナ禍前のように通勤風景は戻ってきたものの、帰宅時間が早まり、遅くまで街を歩く会社員の姿が減ってきたことです。

若者を中心としたアルコール離れもあり、パブ・居酒屋では、今まで以上に料理やサービスに重きを置き、前述のようにエンタメ性などで非日常を演出する付加価値アップに取り組む店も増えてきています。

このように2024年は、急激な材料原価の高騰、人手不足、賃金上昇などによって経営環境が一変しましたが、各業態、それぞれの店が創意工夫して逆風に立ち向かう取り組みが目立った一年でした。

売上高前年比推移のグラフ画像
(出所)一般社団法人日本フードサービス協会
   「外食産業市場動向調査」データを基に作成

2025年の重要課題と対策

新しい年を迎えても、これまで苦しめられた原材料高などが急に好転するわけではありません。2025年も引き続き、人手不足と賃金の上昇、原材料費の高騰、それ以外にもあらゆるコストアップによって損益分岐点の上昇が続くものと思われます。

では、①人手不足と人件費増、②仕入価格の上昇、③損益分岐点のアップの3つの課題について考えてみます。

2025年の3つの課題と対応策の表画像

人手不足と人件費の上昇への対応

あらゆる業界が人手不足に苦慮する中、働く人の取り合いは激しさを増し、報酬の引き上げはもちろんのこと、募集費などの採用コストも増加しています。

では、飲食店はどのように対応すべきでしょうか。

一つは、少人数で店舗を運営できるような対策を考えることです。幅広い客層の求めに応じて、さまざまなメニューを揃えてきた飲食店もありますが、提供メニューが増えれば、作業が煩雑になります。ましてや、ギグワーカーやスキマバイトに頼る状況では、オペレーションをシンプルにして誰もが分かりやすくミスなくできるように、仕事を単純化する必要があるでしょう。

オーナーシェフの個人店は別として、パートやアルバイトに頼ることの多い居酒屋や食堂などでは、メニューが増えると使う食材のアイテムが増え、プレパレーションや仕込みも増えます。スタンバイでもミスが増え、料理提供に時間がかかる原因にもなります。

そこで考えたいのが、少人数で運営できるように、専門店化を進めてメニューを絞り込むことです。ここ数年、ファーストフード業界で、カレー専門店、唐揚げ専門店、うなぎ専門店といった専門店化が目立っているのも、こうした理由によるものです。

また、いくつかの店を展開している場合は、一箇所で集中調理することで効率を上げることができます。セントラルキッチンの活用です。

場合によっては、一次加工を外部に委託するのも、人手不足と賃金上昇が続く中では効果的といえるでしょう。

そして、店内で、人でなくてはできない仕事は何なのか、逆に不要にできる作業はないのかを徹底的に突き詰めて考える必要があります。

その上で、さらに考えるのがITやロボットの活用です。導入コストも掛かるので費用対効果を検討しなくてはなりませんが、業務改善、業務改革を進めた上で、セルフオーダー、セルフ会計、そして配膳ロボットなどのシステム化を進めるのは効果的です。

結局のところ、3S+1Cといわれる標準化(Standardization)、単純化(Simplification)、専門化・専任化(Specialization)の3つと、集中化(Centralization)というチェーンストア理論の大原則を参考に業務改革を進め、さらにセルフオーダーやセルフ会計などのITやロボットの活用を進める必要がありそうです。

セルフ会計、配膳ロボットのイメージ画像

食材価格の上昇への対応

帝国データバンクが行った食品主要195社の価格改定動向調査によれば、2025年2月の飲食料品値上げは1656品目で、前年同月から30品目・1.8%増加。値上げ1回当たりの平均値上げ率は月平均14%で、特に加工食品(589品目)が最多となったようです。

2025年通年では、累計値上げ予定品目数は、前年同時期に比べて9割増のペースで推移し、飲食料品における値上げの勢いは強まっているとのことです。

では、飲食店でも最も使われることの多い野菜について見てみましょう。

農林水産省が、東京都中央卸売市場に出荷される野菜の生育状況及び卸売価格の見通しについて、主産地等から聞き取りを行った調査結果によれば、主要な野菜の生育、出荷及び価格は、ほとんどの主要野菜が引き続き平年を上回って推移する可能性が高いといいます。

野菜はあらゆる料理に使われる主要食材だけに、農林水産省や価格の変動公開されている卸売市場の主要野菜の卸売価格の推移などを参考に、メニュー開発や価格改定も検討する必要がありそうです。

こうした価格上昇の要因は、異常気象や自然災害による農林水産品への影響や、燃料価格、物流コストの上昇、円安の影響などが絡み合っています。今後さらに求められている賃金引き上げに対応するための動きも重なり、2025年も食品価格の上昇は続くものと予想されます。

野菜価格の平年比推移のグラフ画像
(出所)農林水産省 「食品価格動向調査」より編集部が作成
・平年比とは、食品価格動向調査業務による調査価格の過去5カ年平均価格と比較したもの
・価格は、各都道府県10店舗(全国470店舗)について訪問調査したもの

こうした中で必要なことは、仕入れ原価がどれだけ上昇しているか、また、逆に安定しているものは何かなど、実態を把握することです。

その上で、メニューの見直しや絞り込みを検討し、食材価格上昇による影響を少しでも回避できるようにしてはいかがでしょう。

そして、いつも同じルートや近隣の店で野菜を買っているようであれば、多少足を伸ばしてでも青果市場で仲買の話を聞きながら買い付けることや、最近増えている産直市場やディスカウントスーパーなどでの仕入れるも視野に入れると効果的でしょう。

損益分岐点は固定費の見直しが効果的

経費が上がれば、自ずと損益分岐点が上昇します。計算された方であれば、既存店の損益分岐点を下げるのは容易でないことがお分かりかと思います。それは固定費の引き下げが最も効果的だからです。読んで字のごとく変動できないのが固定費ですが、それでも家賃交渉して上げ幅を抑えることに成功している店もあります。

また水道光熱費や通信費など、変動費的な側面の強い固定費は、諦めずに細かく見直すことも効果的です。そしてまた、人手不足でシフトに出られる人には全員出てもらうという店も増えていますが、POSデータを活用するなどして日別・時間帯別に来客数を予測し、少しでもシフトに柔軟性を持たせるよう検討することも不可欠でしょう。

以上のように、あらゆるコストが上昇する中、厳しさが増している飲食店の経営。来客数を伸ばして売上アップを図ることは最も大切なことですが、一方でムリ・ムダ・ムラを減らす努力を続けることも、併せて考えたいところです。

(文)飲食店経営 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年2月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。