仕入れ食材の価格が高騰
食材価格の状況はどうなっている?

2025年2月28日

国内流通トピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:食材価格

食材価格の上昇が、飲食店に大きな影響を及ぼしています。米や野菜をはじめあらゆる食材価格が上昇し、飲食店でもメニュー価格の値上げが必要な状況ですが、客数減少などの影響を心配し、原価上昇分を販売価格に転嫁できずにいる飲食店が多いようです。

食材価格の上昇はいつまで続くのか。食材価格変動の状況について解説します。

飲食店の業況と課題

日本政策金融公庫が2025年1月31日に公表した「生活衛生関係営業の景気動向等調査結果」によれば、飲食業の業況判断DI(*)は、横ばいからやや悪化する見通しになっています(図表1)。

<図表1>

飲食業の業況判断DIの推移
飲食業の業況判断DIの推移
*DIは、Diffusion Indexの略で、企業の業況感や設備、
雇用人員の過不足などの各種判断を指数化したもの
(出典)日本政策金融公庫
「生活衛生関係営業の景気動向等調査結果(2024年10~12月期)」

こうした業況を裏付けるように、飲食店の経営上の問題点では、「仕入価格・人件費等の上昇を価格に転嫁困難」が54.7%と最も多く、次いで、「顧客数の減少」(40.3%)、「従業員の確保難」(19.8%)の順となりました(図表2)。

人件費については、最低賃金の上昇や社会的な要請、そして人手不足で採用コストなどの経費上昇が考えられます。

そして最も悩ましいのは、昨今の食品全般の価格の上昇です。特に温暖化や天候不順などによって、野菜や魚介類の価格が跳ね上がり、円安による輸入食肉価格の上昇なども収益に著しい影響を与えています。

<図表2>

主な経営上の問題点の推移
(出典)日本政策金融公庫
「生活衛生関係営業の景気動向等調査結果(2024年10~12月期)」

主要野菜の価格動向

昨今、毎日のようにニュースで流れている通り、米不足による価格の上昇を筆頭に、最も多用される野菜の価格が上昇。その価格の動きを見通して対応するのは困難だ、といった声を多く聞きます。

農林水産省が2025年2月12日に公表した「食品価格動向調査(野菜)」を基に、2021年(令和3年)4月5日週以降の主な野菜の値動き(キロ単価)を見てみましょう(図表3)。

根菜類の「たまねぎ」「にんじん」「だいこん」は、比較的安定した値動きですが、それでも上昇傾向です。

果菜類の「トマト」は、令和3年頃の1.5倍ほどの値動きになっています。ここ数年の夏の猛暑や、害虫対策などの費用が上がっていることなどが影響しているとのことです。

特に値動きが激しいのは、葉茎菜類の「はくさい」「キャベツ」「レタス」「ネギ」で、気温や日射量などの環境変化の影響を受けやすく、収穫量が変動するため値動きは大きくなります。

令和3年頃と比較すると価格は1.5倍から2倍にまで跳ね上がっていて、こうした食材を利用するメニューの原価には注意が必要です。

図表3の基データは、農林水産省が各都道府県で各10店舗(全国470店舗)の食料品小売店に訪問、調査したものです。全ての野菜で平年の価格を上回りますが、特にトマト、ねぎ、キャベツの上昇が目立ちます。

飲食店では、できるだけ安く仕入れるためには青果市場で購入するのが望ましいのでしょうが、市場へ通う時間や距離の問題から近隣のスーパーマーケットなどで仕入れることも多くあり、食品小売店の販売価格は中小飲食店の仕入れ価格に大きな影響を及ぼします。
実際、地方のスーパーの中には、飲食店による売上高が3割を占めるといった店もあります。

<図表3>

主な野菜の価格推移
(出典)農林水産省「食品価格変動調査(野菜)」(※1)
食品の小売店における価格の動向より編集部が作成

なぜ野菜の価格が上昇するのか

そもそも野菜の価格が高騰する主な要因は、天候不良や猛暑などの異常気温、各種災害、輸送コストの増加などが挙げられます。2024年も夏季の高温や降水量が例年に比べ少なかったことにより、野菜の生育不良や病害が発生し、収量が低下したことが価格に大きな影響を与えました。

また、野菜の巨大産地である北海道や千葉、茨城での病害等のダメージが大きかったことも、供給不足の原因となりました。

このように野菜の価格は環境の変化による発育状況が大きく影響するため、先々の価格変動を予測するのは難しいのですが、農林水産省は、野菜の生育状況や出荷価格について主要産地から聞き取りを行い、見通しを公表しています(図表4/※2)。

<図表4>

農林水産省が毎月公表する
需給、ガイドライン、入荷及び価格の見通し等に関する情報(例)
需給、ガイドライン、入荷及び価格の見通し等に関する情報のイメージ画像

直近の価格見通しによれば、葉茎菜類、根菜類を問わず、この先も平年を上回る予想となっています。

地域によりますが、2月、3月はまだ鍋料理を提供する飲食店が多く、人気の定番鍋料理の中でも、はくさいが欠かせない「寄せ鍋」や「水炊き」「キムチ鍋」や、キャベツが必須の「もつ鍋」「キャベツ鍋」、そしてここ十数年で定番となった「トマト鍋」などで使う食材の仕入れ価格の動向を注視し、使用食材の変更なども、引き続き検討する必要がありそうです。

キノコに注目する飲食店が増加

野菜価格の高騰により、野菜の代わりとなる食材への注目が高まっています。

この冬に注目されたのが、ヘルシー食材の代表格ともいえる「キノコ」です。キノコは食物繊維が豊富で腸内環境を整える効果があり、免疫力を高めるビタミンDが豊富に含まれる食材で、キノコを使った料理は女性を中心に人気です。

また、米国では近年、高級食用キノコの市場が急成長。健康維持や免疫力アップなどの効果が期待され、消費が伸びています。世界的に見てもキノコの需要は高まっているのです。

飲食店では特に美容や健康、免疫力といった文言を打ち出すことで、価値を高めることができます。ある飲食店では、珍しいキノコや生産者を明示したキノコを山盛りにして提供し、人気を博しています。

さて、キノコの価格ですが、林野庁の情報では野菜に比べて値動きは安定的です。ただ、国内のキノコ類生産者の戸数は減少傾向です。また、輸入量も海外でのキノコ需要の高まりや円安の影響を受け、例えば椎茸の輸入量が大幅に減少しているように、長い目で見ると今後、国内流通の価格に影響が出てくるものと予想されます。

必須食材の卵も海苔も価格が高騰

飲食店にとって「卵」は必須食材の一つです。卵は物価の優等生と言われ続け、家庭用は長らく1パック200円台と価格が安定的な食材です。

しかし、鳥インフルエンザ感染や飼料の価格上昇といったリスクを抱え、高齢化などもあって廃業する養鶏家も増えているといいます。

いつまでも物価の優等生ではいられないといった声は大きく、需要と供給の関係から考えると価格が上昇する可能性があります。

さらに「海苔」の価格も大きく上昇しています。漁連や漁協が販売する海苔1枚あたりの平均単価は、2020年頃の3倍近くに跳ね上がっているといいます。毎年節分の時に話題となり、スーパーやコンビニで人気の恵方巻きの価格にも影響を及ぼしています。

また、コンビニのおにぎりが値上げされた原因も米と海苔の価格上昇が関係します。

以上、ネガティブな内容ばかりになってしまいましたが、どう調べてみても、残念ながら食材価格が下がってくるといった傾向は見えてきません。

では、飲食店はどう対応すべきなのでしょうか。多くの飲食店を取材すると、「食材価格上昇はもはや周知のところであるから、素直に原価上昇分を販売価格に転嫁すべき」という声が多く聞かれるようになりました。

その転嫁についても、全てのメニューの価格を見直して少しずつ値上げするといった声や、看板メニューは除いて値上げするといった声もなど、さまざまです。

まずは、メニューの出数や原価の分析をした上で、メニューミックスにより価格を変えると全体原価がどう変動するかといった試行錯誤が必要のようです。

(※1)食品価格変動調査(野菜)
https://www.maff.go.jp/j/zyukyu/anpo/kouri/k_yasai/h22index.html

(※2)農林水産省 「需給、ガイドライン、入荷及び価格の見通し等に関する情報」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/yasai_zyukyu/index.html#yasaiseiikujyoukyou

(文)飲食店経営 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年2月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。