一目瞭然のメニュー分析
メニュー・エンジニアリング・マトリクス

2025年3月18日

お店づくりトピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:メニュー/メニュー・エンジニアリング・マトリクス/マトリクス分析グラフ

レストランでメニューを見ているイメージ画像

メニュー分析の基本はABC分析ですが、売上、出数、荒利をそれぞれ見比べながらメニュー変更などを考えるには、少々経験が必要です。

そこで、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントという、経営分析手法の考え方をもとにして考案されたといわれるメニュー分析の考え方「メニュー・エンジニアリング・マトリクス」について紹介いたします。

メニュー・エンジニアリング・マトリクスとは

スマートフォンでレートを見ているイメージ画像

これは、アメリカのコーネル大学のホテルやレストランのマネジメントを学ぶホテル経営学部で生み出されたメニュー分析手法で、考案者によってメニュー・エンジニアリング・マトリクスと呼ばれています。
ABC分析は、重点管理商品を絞り込むことや商品の動向を読み取るのに有効な手法ですが、どの商品をどのような方向へ変化させていくべきか、簡単に導いてはくれません。

その点、メニュー・エンジニアリング・マトリクスという手法は、個々の商品の位置付けや対策の方向性を明確に示してくれます。

メニュー・エンジニアリング・マトリクスは、縦軸の顧客支持度(Menu Mix)、横軸の利益貢献度(Contribution Margin)によって区分して、①顧客支持率も貢献利益も高いものを「スター(看板商品)」、②顧客支持率は高いけれども貢献利益の低いものを「プローホース(農耕馬)」、貢献利益は高いけれども顧客の支持が低いものを「パズル(問題児)」、そして、支持も利益も得られないものを「ドッグ(負け犬)」として分けることで、各象限に属するメニューの特性と対応策を明らかにします。

メニュー・エンジニアリング・マトリクス
メニュー・エンジニアリング・マトリクスのイメージ画像

分析のポイント

男性がデータを見ながら話しているイメージ画像

それでは、各象限にあるメニューをどのような観点で分析するかをご説明します。

分析の視点
分析の視点のイメージ画像

【スター】
看板メニューですから、鮮度やポーションなどの品質のバラツキは禁物です。
品質のバラツキや安易な価格操作は大きなダメージを受けるので、特に注意が必要です。
また、メニューブックや販促物ではベストな場所に表記し、常にお客様の目に付きやすくします。

【農耕馬】
人気があるだけに出数が多くなるので、作業行程をチェックし効率化を徹底する必要があります。食材コストについては原価の低減に努めることはもちろんですが、熟練した職人の技術に頼る商品は、食材原価だけでなく労務費という原価も意識する必要があります。
また、顧客の認知度は高いのでメニューブックでは目立たない位置に表記し、他のアピールしたい商品を優先するようにします。

【問題児】
顧客に支持されない理由を、仮説を立て検証する必要があるメニューが含まれます。そのポイントは、以下の通りです。

  1. 売価を下げて変化を見る…価格を下げても変化がなければ、その商品自体に顧客は関心を持っていない可能性があります。
  2. ネーミングを変える…メニュー名から受けるインパクトが弱く、シズル感や季節感などの演出が不足していることも考えられます。ネーミングを工夫し、顧客の期待感を刺激するなどして動きを見ます。
  3. 販促を強化する…接客時の推奨販売やPOPを活用するなどして変化を見ます。この象限の商品群は、小さな変更でスター商品となる可能性も秘めています。

【負け犬】
基本的にはメニューの改廃を検討する商品群ですが、スター商品の引き立て役となるものや、副産物として作られる関連商品については留意する必要があります。
また、まれではありますが、売価が低すぎることが影響する場合もあります。売価を意図的に上げて、「問題児」象限へシフトさせて様子見を検討する必要もある商品群です。

メニューマトリクス分析の進め方

グラフのイラストイメージ画像

具体的にメニュー分析をするためには、それぞれのメニューが、どの象限に位置するかを区分しなければなりません。

それには、各メニューの出数、構成比、原価、そしてメニューごとの利益の数値を使用します。
出数と構成比が顧客の支持率を示すマトリクスを縦軸に、アイテム利益がメニューそれぞれの貢献利益を示す横軸に当たります。
そして、4つの象限を区分する分岐点は、支持率分岐点はメニュー出数の平均の70%、貢献利益分岐点は全メニューの平均利益で計算します。この値が、4つの象限に区分する分岐点となります。

ちなみにこの評価の分岐点の計算方法は、コーネル大学での研究によるものです。

では、ワークシートを使って作成例を紹介します。まずメニューごとの出数(B)、アイテム原価(D)売価(E)を記入し、メニューの出数構成比(C)、個々のアイテムのトータル利益(F)を計算します。

次に評価分岐点である、貢献利益分岐点(O)と支持率分岐点(Q)を求めます。図表のチキンソテーを例に挙げると、貢献利益分岐点は、販売した全メニューから得られたトータルの利益(M)を出数(N)で割った平均利益907円30銭になります。

支持率分岐点は、メニュー出数の70%を分岐点としますが、ここでは出数構成比(C)を使って計算していますので、1÷アイテム数4×0.7で17.5%になります。

出数構成比でなく出数を使って分岐点を計算する場合は、出数合計(N)の1000÷アイテム数4×0.7で分岐点は175になります。

それでは、チキンソテーはどの象限に入るか見てみましょう。貢献利益(F)は825円ですから、貢献利益分岐点(Q)の907円30銭より低くなるので「LOW」になります。

顧客支持率を示す出数構成比(C)は42%で、支持率分岐点(Q)の17.5%より上ですから「HIGH」と判断できます。

これを、4つの象限に当てはめてみましょう。貢献利益を示す横軸では「LOW」は左側に、支持率を示す縦軸では「HIGH」は上側になりますから、このチキンソテーはマトリクスの左上の「農耕馬」に入ることが分かります。

以下同様にそれぞれの商品を、出数構成比、アイテム利益を各分岐点と比較して、4つの象限のどこに位置づけられるかを判断します。

マトリクス分析ワークシート
マトリクス分析ワークシートのイメージ画像

一目で分かるマトリクス分析グラフ

虫眼鏡を使ってデータを見ているイメージ画像

ワークシートによってそれぞれのメニューが「スター」「農耕馬」「問題児」「負け犬」のどこに該当するかは明らかになりますが、「スター」に入っても限りなく「問題児」に近いものや、「負け犬」と紙一重といったメニューもあります。

メニュー数が多くなるとワークシートだけでは、こうした細かな位置付けは分かりにくいため、出数構成比、アイテム利益、そしてそれぞれの分岐点を使ってマトリクス分析グラフ(散布図)にすると、各メニューの位置付けが一目で分かり、メニューの特徴や留意点、メニュー改定や販促策などを検討しやすくなるはずです。

散布図グラフをご覧いただければ、同じ「スター」商品でも「問題児」の境界に近いメニューもあることが一目で分かります。

メニューのマトリクス分析グラフ(散布図)の例
メニューのマトリクス分析グラフイメージ画像

以上、少々難解で、表計算ソフトなどでワークシートやマトリクスを作成しようとすると少し時間がかかりますが、非常に有効な分析手法です。

最近は、POSデータの分析システムとして採用されているものもありますので、そうしたシステムを利用されると、さらにさまざまな分析が可能になり、店舗の運営管理に役立つはずです。

(文)飲食店経営 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年2月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。