ニューヨーク州でレストラン予約席転売防止法が施行
2025年3月18日
海外流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:レストラン予約席転売防止法/ボット/予約アプリ/店頭予約

2024年6月、ニューヨーク州議会は米国初となる、飲食店の予約の無許可での転売を制限するレストラン予約席転売防止法案を可決しました。法案を支持する人は、転売によって、有名人や焦った人たちが、飲食店の予約をとるためだけに数百ドルも支払うという文化が生まれてしまったと主張していましたが、この法律が施行されることで状況が大きく代わりそうです。
本稿では、この法律が生まれた背景から、ニューヨークの飲食店の予約状況なども含めてレポートします。
レストラン予約席転売防止法とは
2024年12月に、ニューヨーク州キャシー・ホークル知事がレストラン予約席転売防止法(Restaurant Reservation Anti-Piracy Act)に署名したことで、法律として発効されました。
レストラン予約席転売防止法では、第三者の予約サービスが、飲食店との書面による合意なしに「予約の宣伝、促進、販売」を行うことを禁じています。違反者には1件につき最高1000ドルの罰金が科せられることになります。
2025年2月には規則委員会に委ねられ、正式に施行されるまでには、さらなる審議や手続きが必要になります。
ニューヨークの飲食店の大きな問題
ニューヨークは世界でも有数の飲食店が集まる街ですが、実は3つの問題を抱えています。まず、人気の飲食店の予約をとる競争が激しくなっていること。予約が難しくなったのは、電話をするだけで予約できた数年前とは異なり、今では予約する方法が無数にあるためです。
次に、予約をとろうとすると高額な費用がかかること。そして最後に、飲食店の経営者にとって予約の無断キャンセルが異常に多いことです。
レストラン予約席転売防止法は、飲食店の予約枠がオンラインで公開されるとすぐに買い占められ、それが高額で販売されてしまう「闇市場」と呼ばれる状況に対処するために制定されました。
ある日の闇市場では、例えば、ニューヨークの高級住宅街、ウエストビレッジのとある高級イタリアンのテーブル予約料金が340ドルなのに対し、ほぼ2倍の650ドル転売されていました。
このように、飲食店の予約をオンラインで販売する闇市場が登場し、予約はオークション形式で販売されていました。これは飲食店の承諾なしに行われていたため、この法律の取り締まりの対象となったのです。
この法律の対象は飲食店から許可を得ていない予約アプリのみで、飲食店から許可を得ている予約アプリは対象外です。
コロナ後、飲食店の経営者はスタッフ不足、値上げ、その他の課題を乗り越えながら、顧客獲得競争を繰り広げていました。その中には予約アプリなど、デジタルサービスをどのように使うかも含まれていました。
飲食店の予約を転売できるアプリ
ニューヨークの飲食店で、予約の無断キャンセルが多くなり始めたのは2022年からと言われています。そのキャンセル率は25%にも達したそうです。
少しの無断キャンセルであれば、当日の順番待ちリストで補えますが、長期的に見れば、無断キャンセルの件数が増えると飲食店の予想収益が消えてしまう可能性があります。飲食店は損失を被り、従業員はチップを失うことになります。
あるとき、その経営者は、飲食店の予約などのあらゆる種類の予約を売買できる「AT」というアプリを知りました。そのアプリが闇市場をつくっていて、無断キャンセルの増加を招いているのではないかと気づいたのです。
予約を奪い取る転売屋がいると、一般の人が予約するのは難しくなり、特に人気の飲食店ではなおさらです。
ある予約アプリには、テクノロジーを駆使して飲食店の予約をとり、それを転売したり、買ったりする人たちが集まっています。人気の飲食店になると1000ドル近くの価格で販売されることもあります。その一方で、売れない予約は無断でキャンセルされることが多くなるのです。
この予約アプリサービスを提供する会社は、2021年に創業し販売価格の約20〜30%の手数料を取り、2023年は600万ドル以上を売り上げたということです。
予約アプリでボットを使う転売屋
予約の売買をするアプリが、どうして成立しているかといえば、「ボット」と飲食店の予約アプリがあるからです。ボットとは「ロボット」の略で、プログラムによって自動的に動作するものです。
予約をとるのにボットが使われ、オンラインで公開されている予約日はもちろん、突然の空きがないかを1分間に最大100回もチェックするように設計されたボットもあり、それを使っている転売屋もいます。
また、特定の予約アプリ専門のボットも登場しています。多くの飲食店では、毎日新しい予約枠が公開されますが、ボットに時間を設定すると予約が可能になるタイミングを狙って起動し、数秒間で予約を取得しようと何度も試みます。
一方、飲食店や予約アプリは、こうしたボット対策に取り組みはじめています。
ボットを排除するための店頭予約
飲食店にとってボットは長い間やっかいな存在でしたが、ここ数年で、ボットの無断キャンセルを回避できるようになりました。2023年から、予約料金を設定するようになったからです。飲食店は25~50ドルの予約料金を課すことで、顧客にも予約をすることの責任を持ってもらおうとしています。また、事前決済をしてもらう店も増えています。
さらに、ほとんどの飲食店では、一部の席に関してオンラインでは予約を受け付けていないといいます。これを常連客やVIP席にしたいと考えているからです。
食事を終えて帰る際に、次回の予約を入れてくださるお客様には、そのVIP席を用意するなどして昔ながらの方法に戻る対応もとっています。
しかし、こうした動きもあるものの、2024年末には飲食店予約のオークションアプリがリリースされたり、某クレジットカードでは最も広く使われている飲食店予約アプリの1つを買収して、プラチナ会員のために特定のテーブルを用意出来るようにするサービスを提供したり、といった新たな動きも出てきています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年2月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

