時代の追い風を受けて店舗数が急伸
令和時代のポスト御三家の実力
2025年3月31日
国内流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:居酒屋/低価格
コロナ禍では唐揚げやフルーツサンド、ハンバーガーといった業態が人気を集めていました。しかし、コロナ禍が明けた今、そうしたお店はあまり見かけなくなり、新しい社会環境に合わせて人気を獲得する飲食店も変化しています。現在、外食業界で存在感を高めているのが「ポスト御三家」といわれる居酒屋です。今回、なぜ今ポスト御三家が人気を集めているのかを、居酒屋業界の歴史を振り返りながら迫っていきたいと思います。
居酒屋御三家から新御三家までの流れ
外食業界で「居酒屋御三家」という言葉が使われ出したのはSAA社、SBB社、SCC社の三社が隆盛を極めた頃です。三社が登場するまで、居酒屋は個人経営のお店が多かったのですが、御三家の三社の登場で、そうした状況が一変します。
ピーク時にはSAA社が約1800店舗、SBB社が約1000店舗、そしてSCC社が約900店舗とかなりの店舗数を誇り、存在感を発揮しました。日本の居酒屋文化は1970年代以降、居酒屋御三家の発展に合わせて出来上がったといってもいいでしょう。
しかし、90年代に入り、バブルが崩壊すると徐々に潮目が変わり、今度はHAA社、HBB社、HCC社の「新御三家」が隆盛を極めます。各社の代表的なブランドはいわゆる「総合居酒屋」と呼ばれ、駅前の一等地に大型店舗を構え、サラダや刺身、焼き鳥、揚物、つまみ、ご飯ものなど、幅広いメニューを提供で多様な客のニーズに応えながら成長しました。
御三家の頃は、SCC社が酎ハイの提案に力をいれて若者に受けていたものの、どちらかというと居酒屋はまだまだ男性のものでした。しかし、新御三家の登場で居酒屋が身近な存在になり、女性客が増えるとともに、お客の年齢層も一気に広がります。
その成長の裏には、いわゆるグルメ情報媒体の登場も深く関係しています。クーポンを使った販促がまだ珍しかったこともあり、そうした方法も活用した集客で大成功を収めました。実際、ピーク時にはHAA社は500店舗、そしてHBB社に至ってはグループ全体で2000店舗の展開をしていました。
ただ、総合居酒屋は損益分岐点が高いビジネスモデルです。駅前の一等地なので家賃が高いのはもちろん、大型店舗なのでスタッフをたくさん抱える必要があったり、さらにメニューが多いので仕入れ数も膨大だったりします。そうした弱点がデフレ経済下で痛手となり、だんだんとその姿を見かけなくなりました。
ポスト御三家の強さの秘密に迫る
そして現在、コロナ禍が明けてから、「ポスト御三家」とも呼べる新しいタイプの居酒屋が台頭してきています。その間、焼き鳥や餃子、串カツといった単一業態の専門店が存在感を高めたり、コロナ禍では卓上にサワーサーバーを設置した焼き肉酒場が勢いを増したりしました。そうした流れ踏まえて誕生したポスト御三家は、客単価が2000円ほどで驚きの安さで、それぞれ明確な強みがあるという共通点があります。
その3社がRAA社、RBB社、RCC社です。それぞれの特徴を見ていきましょう。
まずRAA社の創業は2015年です。同店の特徴は、2時間の食べ放題と飲み放題が付いて、2000円という価格設定です。同店は料理とドリンクで、それぞれ70品ほど用意しているので、メニュー数を絞って低価格を実現しているわけではありません。
そうではなく、テクノロジーを活用したデータ分析で徹底した効率化を進め、コストが高騰する中でも低価格を実現しているのです。例えば、提供時間の詳細なデータもとっています。ですので、ある店舗で提供時間の遅れが発生していたら、店内カメラでスタッフの動きを確認し、最適な時間で提供ができようにオペレーションの細かなブラッシュアップを行っています。
価格のインパクトは大きく、比較的、家賃が安いといわれている2階以上の空中階で成功している点も多いです。家賃の高騰が続いている今、比較的家賃をおさえた場所に出店できるメリットは大きく、現在、20店舗を超えるまで成長をしています。
次に、RBB社のブランドは2010年に一号店が誕生しました。同店は愛知県名古屋市で誕生したブランドです。名古屋といえば、全国に名を轟かす有名な飲食チェーンを数多く輩出しています。つまり、舌の肥えた名古屋人に評価されたら、全国でも勝負できるということです。実際、RBB社は名古屋で高い人気を獲得した後、満を持して東京に進出。2018年6月にオープンした秋葉原本店では月商4250万円を叩き出しています。
同店の看板メニューは伝串(鶏皮を波型に串打ちして油で揚げた鶏皮串)です。同店ではピラミッド型にして提供しており、そのインパクトが受けて一度の来店で何本もオーダーする人が多いです。その他にも生ビールを190円で提供するなど、客単価が2000円ほどとあって全体的に低価格です。それにもかかわらず月商4250万円を叩き出したのですから、その人気のすさまじさが分かるのではないでしょうか。2024年8月には200店舗を達成。現在、フランチャイズの加盟希望が増えていて、グループで500店舗の達成を目指しています。
最後に、RCC社です。同店は全国で80店舗ほどを展開しているブランドです。同店はレモンサワーが50円、ハイボールが99円と、ドリンクの安さが大きな売りです。飲み放題付きのコースが2000円で楽しめたり、単品の飲み放題の「時間無制限」が2000円だったりと、とにかくアルコールを楽しめる点に注力しています。また、同店の特徴は、御茶ノ水や水道橋、日吉など、学生街の近くで出店を重ねていることです。中でも、早稲田大学が近くにある高田馬場店は、同店屈指の売上を誇っています。若者のアルコール離れが叫ばれて久しいですが、同店の成功から、提案によっては学生に指示をされ店舗数を伸ばすことも、まだまだできるということが分かります。
飲食店の在り方には社会環境が反映される?
飲食店の成功には、業態自体に力があることはもちろん大切ですが、時代の波を味方につけることも必要です。誕生したばかりのグルメ情報媒体を味方につけた新御三家など、その最たる例ではないでしょうか。
その意味で、飲食店は社会を映す鏡です。現在、人気を獲得しているポスト御三家は低価格で、かつ総額が分かりやすいという特徴を持っています。その背景には、賃上げはあったものの物価高などの影響で生活に余裕がない方が多いという理由が隠されているかもしれません。飲みに使うお金が以前に比べて減っている中、低価格で総額の分かる居酒屋の存在は非常に心強く、使い勝手もいいと感じるでしょう。
原材料費の高騰による値上げの動きは、今後も多くの業態で進んでいくと予想されています。そうした状況を踏まえると、ポスト御三家のような居酒屋のニーズはさらに高まっていくはずです。
(文)飲食店経営 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年3月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

