現金値引よりポイント還元が好まれるワケ
数ある商品やサービスの中から、私たちはなぜそれを選んでしまうのか?
2025年4月17日
お店づくりトピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:行動経済学/割引率/現金値引/ポイント
割引率では現金値引の方がお得
「10%ポイント還元」「ポイント5倍セール」など、世の中にはポイントを利用した販促活動が溢れています。クレジットカードや電子マネーなどのポイントを積極的に貯め、買物などに利用しようという「ポイ活(ポイント活動)」も流行しています。
あるスーパーマーケットのPOSデータを元にした分析によると、1%の現金値引は3.3Hの売上増加効果しかなかったのに対し、1%のポイント還元は12%の売上増加効果がありました。ポイント還元は現金値引の3.6倍(12%÷3.3%)の販促効果があったことになります。
消費者の観点で現金値引とポイント還元を比較すると、実は現金値引の方がお得です。例えば、10%の現金値引で10万円の商品を購入すると、1万円の値引になるので割引率は文字通り10%になります。
一方、10%のポイント還元の場合は10万円支払って11万円分の買物ができることを意味するので、還元率は差額の1万円を11万円で割った9.1%になります。ポイントが20%なら実際の還元率は16.7%(2万円÷12万円)となり、その差はポイントが大きくなるほど広がります。
ポイントは貯まるほど喜びが持続
このように計算上は現金値引の方がお得なのに、なぜポイント還元の方が魅力的に思えるのでしょうか。一つは「大きな損失と小さな利得は、統合するより分離する方が消費者の満足度が高くなる」という行動経済学の理論によって説明できます。つまり、ポイントは次回以降の購買に利用できるため、今回の購入とは別の(分離された)利得と見なされる傾向が強くなるのです。
ポイントが人気を集める理由は、人はいったん手にしたものは持ち続けたいという「保有効果」も関係しています。現金値引の場合は、そのときは得したと喜んでもすぐに忘れてしまいますが、ポイントは貯まった金額をいつでも確認でき、貯まれば貯まるほど喜びが持続します。ある程度まとまった金額になったときに使う人が多いことからもそれが裏付けられます。ポイントは決まった店舗でしか利用できないため、お客様の囲い込みやリピーター獲得に効果的であり、売り手にも便利な仕組みといえるでしょう。
監修:阿部 誠(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)
※当記事は2025年4月時点のものです。
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