東南アジアの生活に欠かせないスーパーアプリ

2025年4月17日

海外流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:配車サービス/ネットスーパー/金融サービス/配車アプリ

スーパーアプリのイメージ画像

生活を便利で豊かにしてくれるスーパーアプリの利用が拡大しています。配車サービス(タクシー、自家用車、バイク)から始まり、フードデリバリー(レストランや屋台からの食品の配達)、ネットスーパー(野菜、日用品などの配達)、金融サービス(スマホ決済、保険、融資)、広告宣伝など、さまざまなサービスを提供し事業を拡大してきたGについて紹介します。

東南アジア各国に拡がるスーパーアプリ

東南アジアの地図のイメージ画像

Gは、さまざまな投資家から多額の資金を集め、政府や自治体、企業と提携して事業範囲を拡大してきました。

シンガポール、カンボジア、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、タイ、ベトナムの8カ国で事業を展開し、毎月3800万人のユーザーが利用している、東南アジアを代表するテクノロジー企業の一つとなり、東南アジアでは約80%の市場シェアを誇っています。

Gは、ユーザーにとって便利で信頼性が高く、手頃な価格のサービスを提供することで、東南アジアの発展に貢献しています。一つのアプリをダウンロードするだけで、いろいろなサービスを使えるようになるのは、非常に便利だとして支持されています。まさに「スーパーアプリ」というわけです。

実は、2022年7月にGは日本のタクシー配車アプリGOと提携しました。これにより、東南アジアの人たちは日本を訪れても、使い慣れたGを使って、GOのタクシーを呼ぶことができるようになりました。

タクシー配車アプリから始まる

タクシー配車アプリのイメージ画像

Gは2012年、マレーシアの首都、クアラルンプールで創業されました。

米国ハーバード・ビジネス・スクールの卒業生である2人のマレーシア人が、非効率的なタクシーサービスの問題を解決し、乗客が便利かつ確実に乗車を予約できることを目指して設立、タクシー配車アプリのサービスをスタートしたのです。

サービスを展開する中で、Gはユーザーの利便性向上を目的に、事前に料金が確定する仕組みを導入しました。この画期的な機能により、利用者は乗車前に正確な料金を把握できるようになり、急速に支持を集めました。

翌年には、シンガポール、タイ、フィリピンに進出。従来のタクシーサービスよりも安全で効率的な代替手段を求めるユーザーの間で、急速に広がったのです。

2014年に本社をシンガポールに移し、2016年にはユーザーが移動手段として自家用車を予約できるサービスを導入。これにより、東南アジア市場における配車大手のUと競合するようになりました。

同年、メッセージを積極的に利用する東南アジア人のために、アプリ内メッセージング機能「Gチャット」のサービスを開始。Gチャットを通じたメッセージはすべて現地語に自動翻訳されます。5つの主要言語(インドネシア語、マレー語、簡体字中国語、タイ語、ベトナム語)だけではなく、英語(現在では日本語、ハングル語)にも対応して、旅行者にも喜ばれています。

2018年には、Uの東南アジア事業を買収して、東南アジアでトップの配車プラットフォームに躍り出ました。

2020年、フードデリバリーとネットスーパーにも進出、ベトナムやカンボジアなどの国でも存在感を高めていきます。

2021年12月、米国ナスダック市場に上場。この上場は東南アジア企業による米国株公開としては、これまでで最大規模となります。

Gに出資した米国の投資会社のCEOは、「テクノロジーによる経済変化がまだ初期段階にある東南アジアで、Gが主導的な地位にあることが魅力の一つです。同社はまさに、東南アジアのデジタル変革の最前線に立っています」と語っています。

2024年には、Gはレストラン予約プラットフォームのC(シンガポール、ジャカルタ、バリ、バンコク、プーケット、香港、上海の7つの都市で利用可能)を買収し、2025年には消費者に「シームレスな食事の旅」を提供することを計画していています。

うまくいけば、レストランの予約をして、店まで車に乗せてもらい、アプリで支払いをして、家まで送ってもらうことも可能になります。消費者が好む「毎日使うスーパーアプリ」としてのGの重要性も強化されるというわけです。

優先するのはユーザー、パートナー、環境

タクシー配車アプリのイメージ画像

Gは、企業が重視している収益だけにとどまらず、地元のユーザーやパートナー(配達員・運転手・飲食店などの加盟店)、さらに環境にとっても利益となることが、結果的に自社のビジネスにも良い影響をもたらすと考えています。

5分前~7日前までの相乗り(ライドシェアリング)の予約をできるのも、その一つです。同じ方向に向かう複数の乗客が乗車を共有し、コストを削減して交通渋滞を最小限に抑えることができる上、環境にも優しい。Gは、東南アジアの巨大都市における渋滞と汚染の問題を解決するためのカギになると、確信しています。実際、すでに渋滞が緩和され、大気汚染の減少が始まっているといいます。

こうしたサービスを支えているのは、高度なデータ分析とテクノロジー主導のソリューションです。
さらに2つの例を紹介しましょう。

1つ目は、運転安全支援プログラム(テレマティクス・プログラム)です。運転手のスピード違反を減らすために、運転行動をデータで追跡・分析し、安全性を向上させることを目的としています。スマートフォンの加速度センサー、ジャイロ(角速度)センサー、GPSなどを活用して、運転手の運転パターンを記録します。

具体的には、以下のような機能があります。

  1. 速度超過の監視
    運転手が道路の制限速度を超えているかどうかを追跡し、速度超過が検出された場合には警告します。これにより、東南アジア全体で速度超過の発生率が35%減少しました。
  2. 急ブレーキや急加速の検出
    危険な運転行動(急ブレーキ、急加速、急なコーナリングなど)を特定し、運転手に改善を促します。
  3. 安全レポートの提供
    運転終了後に安全レポートを生成し、自身の運転行動を振り返り、改善できるように支援します。
    このプログラムは運転手の安全意識を高めるだけでなく、事故のリスクを減らし、乗客にとってもより快適で安全な移動体験を提供することを目指しています。

2つ目は、「Gマップ」です。2025年1月には、運転手が、交通規制や工事中など道路状況をリアルタイムで共有するための音声メモが、アプリで作成できるようになりました。

これまでは、運転手が道路状況を報告するためには複数回タップする必要があり、運転中に注意をそらす可能性がありました。現在はマイクボタンをタップするだけで済むため、リアルタイムで情報提供する運転手が増え、突然の渋滞や地図のエラー、ゲートの開放時間の変更などまで情報が入ってくるようになりました。

このシステムでは、高度なAIが、運転手が報告した音声メモを正確に理解・分類してテキスト化。これらのテキスト化された情報は地図データと統合され、リアルタイムで運転手に共有されます。大きな遅延が発生する前に問題を回避することが可能となり、「Gマップ」は精度の高い地図情報に進化しているというわけです。

補足をすると、Gのようなアプリの場合、地図データの修正や更新は、従来のカーナビシステムよりもはるかに柔軟で迅速に行える仕組みになっています。地図データはクラウドを介して管理されているため、リアルタイムでの更新が可能なのです。

人の運転とAVとの共存

未来の道路のイメージ画像

2025年2月、Gの決算発表で、同社幹部は、「AIとロボットが最優先課題です。今後数年間、自動運転車への移行を支援する上で優位な立場にあると考えています。東南アジア各国の政府と緊密に協力し、推進していくつもりです」と東南アジア全域の規制当局と自動運転車の導入について協議していることを公表しました。

東南アジアの8つの市場で事業を展開するGは、運転手の人数を増やすことを目指すとともに、人間の運転手と自動運転車を組み合わせた「ハイブリッド車両」を追求することを目標としています。
ハイブリッド車両として、次のような問題解決に自動運転車を使おうと考えているようです。

現在、本社のあるシンガポールでは、シンガポール動物園の周辺など観光客に人気のあるエリアで、Gのサービスが利用しづらい状況にあります。その理由を探ってみると、ユーザーの目的地が比較的近距離であることが多く、運転手が好まないルートだったことがわかりました。

運賃が低くなりがちなことに加え、シンガポール動物園周辺のような観光地では、交通量や停車可能なエリアの制約、需要の波などがあります。このような状況の中で自動運転車がその隙間を埋める役割を果たすという提案は、理にかなっているように思えます。

Gの幹部は次のような予想もしています。

「EV(電気自動車)の生産効率が上がることで、自動運転車のコストもゆっくりと削減していく可能性があります。ただし、労働コストが低い東南アジアでは、米国と比べると、その速度は遅くなるでしょう」

ちなみに、EVと自動運転車は密接に関連していますが、必ずしもイコールではありません。自動運転車は運転手の介入なしに走行できる車を指し、その動力源はガソリン、ハイブリッド、または電気という複数の可能性があります。最近のトレンドとしては、環境への配慮や効率性の観点から、自動運転技術を搭載した車両がEVとして設計されることが多くなっています。EV大手のテスラの成功が、そのイメージを強めています。

一方で、貨物トラックなどではガソリンを使った自動運転車も開発されています。

Gが目指すハイブリッド車両のように、どの技術をどのように組み合わせるかは、その地域や用途によって企業が選択することになるでしょう。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年3月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。