飲食店予約サービスを強めるクレジットカード

2025年4月17日

海外流通トピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:ライフスタイル/食生活/ミレニアル世代/Z世代/ロボット

クレジットカードとスマートフォンを持つ人のイメージ画像

米国は、食費に占める外食の比率が日本よりも高く、米国・農務省経済調査局の食品支出によると、2023年には、外食店での名目支出(インフレ調整なし)が総食品支出の58.5%を占めました。日本の外食率は35%ぐらいなので、米国の外食率は日本の1.7倍ぐらい外食をしている割合が多いと考えられます。
この巨大市場を巡り、クレジットカード会社Aは2019年に飲食店の予約アプリRを買収した後、2024年6月にも予約アプリTを買収しました。背景には、米国特有の外食文化と、巨大市場を巡る熱い競争が見え隠れします。外食産業が1000億ドル規模に成長すると見込まれる今、その戦略の真意を紹介します。

飲食店が予約アプリを使うメリット

予約アプリのイメージ画像

近年、米国の飲食店では予約アプリを使うのが一般的であり、新たに開店するときには、経営者はどこの予約アプリと契約しようかを考えるようです。ユーザーにとって利用しやすいだけではなく、スタッフにとっても大きな助けとなり、双方の負担を軽減してくれます。

まず、忙しい時間帯の予約数を事前に把握できるため、スタッフのシフトを適切に組んだり、食材・飲料など在庫が切れないように事前に十分な量を準備したり、テーブルや座席の配置を整える準備ができます。その他、次のような利点があります。

  1. キャンセル待ちの設定ができる
    予約アプリには「キャンセル待ち」を受け付ける機能があり、空席が発生した時点で自動的にユーザーに通知を送信します。無駄な空席を減らし、収益を確保できます。ユーザーは待機リストに登録することで、「席が空いたら通知を受けられる」という安心感を得られます。特に人気の高い飲食店では、この機能がユーザーの満足度向上に寄与しています。
  2. 顧客サービスの向上
    予約アプリを通じて、特別なリクエスト(アレルギー、誕生日や結婚記念日などの特別なイベント)を事前に収集する機能を活用できます。これにより、個々のお客に合わせたサービスを提供し、リピート率を向上させることが可能です。
  3. マーケティングに役立てる
    予約データを分析して、どの時間帯や曜日が人気なのか、どんなメニューが好まれるのかを把握することができます。これを基に、特定の時間帯やシーズンに合わせたキャンペーンを実施するのも可能です。
  4. 公開する予約枠の数を事前に決定できる
    100席ある店だとすると、30席を予約アプリ分にして、70席を常連客や新規客のために空けておくという使い方も可能です。また、予約アプリには、「ウェイトリスト管理機能」も含まれていて、来店順や待ち時間を整理することもできます。

ただし、デメリットとして、無断キャンセル(ノーショー)が挙げられます。収益減となる可能性がありますが、予約アプリは多くの場合、この問題を軽減するためのツールがあります。クレジットカードによるデポジットや、ピーク時には少額のキャンセル料を要求するキャンセルポリシーを導入しています。

米国の飲食店の予約事情

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米国の飲食店で予約が発生するのは、大半が夕食です。高級店や人気店では、多くの人が事前に予約して確実に席をキープしようとします。カジュアルな飲食店では受け付けていない場合もあり、この場合は直接来店して席を待つことになります。

特に大都市では、飲食店の予約競争は激しくなっています。米国では、忙しいライフスタイルと外食文化が根付いており、レビューサイトで高評価のイタリアンや話題のフライドチキン店などでは、予約が数週間前から埋まることがよくあります。

最も激しいのがニューヨークで、一人で食事するときにも予約アプリを使って予約する人が年々増えているといわれます。

特に注目すべきは、ニューヨークのソーホー、アスペンやイーストハンプトンなどの高級住宅街の飲食店が、地元住民よりも他の地域の住民や観光客にアピールする傾向が増していることです。これには、口コミやレビューサイト、最近ではTikTokやInstagramなどのSNSが大きく影響しています。そのため、地元住民でさえ、事前に予約を確保するのが必須になっています。

ロサンゼルスでも、人気の高い飲食店の予約が取りづらい状況が続いており、予約争奪戦が激化。特に高評価の飲食店や話題の新店舗では、予約がすぐに埋まってしまうことが多く、キャンセル待ちや当日枠を狙う人々が増えています。

この他、注目されるのが次の都市です。

サンフランシスコ(グルメな街として知られ、高評価で予約が困難な店が多い)、シカゴ(ミシュラン星付きの飲食店が多く、特に週末は予約競争が激しい)、ワシントンD.C.(政治家や観光客が多く集まるため、高級店の予約が取りにくい)、ラスベガス(観光の拠点として話題のダイニング体験が人気で、特にショーと組み合わせたディナーの予約が早く埋まる)。

全体として、「予約の激戦」といわれる状況を主導しているのは地元の米国人であり、国内の旅行者と争って、日常的に飲食店の予約アプリを使っているというわけです。

4つの飲食店の予約アプリの特徴

予約アプリを使う人のイメージ画像

飲食店の予約アプリの雄といえるのがOTです。1998年にサービスが開始され、飲食店業界で確固たる地位を築いています。カジュアルな飲食店までをカバーして、世界で5万以上の飲食店と提携。難点がコストの高さで、アプリの利用料は月額149~499ドル必要です。

Rはニューヨークやロサンゼルスなど大都市の高級店を対象としていて、キャンセル待ちリストに追加したり、飲食店とテキストメッセージで連絡したりすることも可能です。世界200以上の都市にある4000以上の飲食店と提携しています。

Yは飲食店の口コミが大人気ですが、予約システムに改善の余地があると感じるユーザーもおり、実際の予約ではOTを利用するケースもあります。

Tはミシュラン星付きや人気の高いお試しメニューを提供する飲食店で「チケット制」を導入しているのが特徴です。独自のチケット制で無断キャンセル防止を実現した上、例えばワインにこだわりのある店が、そのこだわりを反映したイベントなども企画しやすくなっています。米国の7000の飲食店やリゾート施設などと提携していて、月額699ドルまたは月額199ドル+オンライン販売手数料2%と高額です。

カード会社と予約アプリの関係

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カード会社のAがRを買収後に開始したサービスがGDAというもので、対象としているのは、申し込み制カードの中で最高峰のステータスカードのP(年会費695ドル)とその上の招待制カードのS(入会金1万ドル、年会費5000ドル)です。一般カードやゴールドカードは対象外です。

高級店がひしめき、予約競争が世界一激しいニューヨークで、Rは予約アプリ市場のリーダー的存在です。GDAは、人気の飲食店のディナーの独占予約、テーブルが空いたときの優先通知だけでなく、Rのアプリのプロフィールにバッジが表示され、飲食店にはGDAのメンバーであることが知らされます。富裕層にとって、極めて魅力的なサービスとして評価されています。外食はAの戦略において、さらに大きな位置を占めるようになりました。Aの幹部は次のように話しています。

「2023年には、外食が1000億ドルの規模になると見込まれています。2019年7月のRの買収から2023年末までに、利用客数を3倍に、飲食店数を5.4倍に増やし、客数を着実に伸ばしてきました。飲食店は、プレミアムで高額消費の顧客基盤と、事業運営に役立つRのテクノロジーを利用できることを高く評価しています」

Aが、2024年6月にも飲食店の予約アプリTを買収したことで、さらに利便性が高まることになりました。Tは、飲食店やリゾート施設だけではなく、劇場やコンサートホール、ワインセラー、アートギャラリーや博物館とも提携していますので、特別なディナーイベントや文化的な体験を組み合わせた企画もこなせます。

他のカード会社も黙って見ているわけではなく、2024年7月には予約アプリのOTとカード会社のVが提携しました。Rがニューヨークで強いのに対し、OTはカリフォルニアでの確固たる基盤があり、ロサンゼルスで圧倒的に首位の座にあります。

対象となるのは、Aと同じく、申し込み制カードの中で最高峰のステータスカードのVI(年会費400~500ドル、発行会社によって異なる)、さらにその上の招待制のVIP(年会費1000ドル以上)です。このサービスでは、人気飲食店での優先予約や特別なイベントへの招待などが米国、カナダ、メキシコで展開されています。

日本でも、東京の飲食店の予約が激化したら、カード会社が同様のサービスを開始するかもしれません。この競争がどのように展開するか、そしてそれが飲食店予約の仕組みにどのような影響を与えるか、非常に興味深いテーマといえます。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年3月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。