テイクアウト専門カフェの可能性

2025年5月20日

国内流通トピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:カフェ/テイクアウト専門/ローコスト運営/韓流ブーム

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帝国データバンクの調査によると、2024年度の「喫茶店(カフェ)」の倒産件数が増え、過去最多になっています。その大きな原因が、人件費や原材料費をはじめとしたコストの高騰です。特にコーヒー豆の仕入価格の上昇の影響は大きく、アラビカ種の価格は2024年度平均で1キロ900円を超えました。前年度からは1.4倍、コロナ禍の2020年度に比べると2.5倍と大幅に急騰しています。倒産までいかずとも、原材料費や人件費の高騰を価格に転嫁できず、苦しい経営を強いられているカフェが多くあるようです。
そうした中、今後、台風の目になりそうなカフェが韓国から上陸しました。テイクアウト専門のカフェチェーンM社です。2025年1月に虎ノ門に一号店をオープンさせると、リーズナブルで大容量のドリンクで大きな話題を呼んでいます。今回は、その強さの秘密を解説していきます。

韓国で人気カフェチェーンが日本上陸

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M社が韓国で一号店をオープンさせたのは2012年です。当時、韓国では日本と同様にスペシャリティコーヒーのS社が大きな人気を集めていました。

1999年に一号店がオープンして以来、コーヒーの専門店が増えてブームになりましたが、価格帯が高いのも事実です。

そこでMの創業者たちはリーズナブルでおいしいコーヒーを提供することを思い付きます。

高級路線のお店と差別化するため、コンセプトは毎日通えるカフェにし、価格も抑えるためテイクアウト専門店での出店を決めました。その頃、韓国ではテイクアウト文化がまだ醸成されていませんでしたが、大容量のサイズとリーズナブルさで大ヒット。

特にコロナ禍で店舗数を伸ばし、現在、800店舗を超えるまでになっています。

日本への進出を決めたのは、コーヒーの専門性が高いにも関わらず低価格のカフェチェーンがあまりなかったからです。そこで2024年3月から市場調査を始め、同年5月には日本法人を立ち上げます。その結果、韓国と同様にマーケットがあるのではないかと判断し、進出を決意しました。

出店場所を虎ノ門にしたのは、韓国でビジネス街での成功事例があるのはもちろん、毎日コーヒーを飲む層も多いと考えたからです。

緻密な市場調査の甲斐もあり、その予想は見事に的中し、早速繁盛店となっています。

他店を圧倒するローコスト運営、低価格商品

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M社の強みはFLR(Food Labor Rent)コストのうち、Labor(人件費)とRent(家賃)を抑えられる点です。一般的なカフェの場合、FLRで70%が目標といわれていますが、M社はFoodコストが20%、Laborコストが30%、Rentが10%です。しかし、原材料費や人件費、地代などが上がっているため、目標値に収まらないケースも増えています。

それでも、同店の場合、セルフレジやモバイルオーダーを活用しているので最小限の人員で営業できる上、5坪もあれば営業ができるので地代もそれほどかかりません。つまり、それだけ利益が出やすいモデルということです。

コスト高の今だからこそ、今後、その存在感はさらに高まっていく可能性があります。

同店ではLabor(人件費)とRent(家賃)を抑えた分、リーズナブルな価格にし、コストパフォーマンスの高さを実現しています。同店の看板メニューは「アメリカーノ」で、エスプレッソの風味をしっかりと感じながらもすっきりとした味わいが特徴です。

オーダー率は30%と高く、同店を象徴するメニューになっています。価格はSが190円、Mが250円、そしてLが400円です。アイスのLが940ml、ホットは氷がない分、少なくなっていますが、それでも630mlもあります。某コンビニのアイスコーヒーはLが270mlで180円なので、M社のコストパフォーマンスの高さがお分かりいただけるのではないでしょうか。

また、「カフェラテ」も人気商品で、乳脂肪分が3.6%以上の北海道産の牛乳を惜しみなく使っています。日本でもカフェラテの人気は高いですが、ここまで質の高い牛乳をふんだんに使ったものは多くありません。それにもかかわらずSが310円、Mが380円、Lが600円と、他店と比べてはるかにリーズナブルな価格で楽しむことができます。

カフェラテはアーモンドミルクやオートミルクへの変更もできて、そうしたカスタマイズも非常に人気が高いです。

韓国のお店では、ドリンクだけで70種類近いメニューがそろっています。また、フード系のメニューも充実していますが、日本ではまだ提供していません。最初に全てのメニューをそろえるとオペレーションが大変なだけでなく、お客も何をオーダーしていいのか分からず混乱してしまう危険性があります。

そうした背景も踏まえて、M社というブランドを認知してもらうためにも、まずは人気の高いメニューを選んで提供しています。

今後、日本でのニーズをみながら少しずつメニューのラインアップを増やしていく予定です。

韓国のブランドは日本に根付かない常識を変えられるか?

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これまで日本では、下記のように韓流ブームが4回あったと言われています。

  • 2003年頃 第一次ブーム 「冬のソナタ」で韓流という言葉が定着
  • 2010年頃 第二次ブーム KARA・少女時代・BIGBANGでK-popが定着
  • 2016年頃 第三次ブーム チーズドッグ、チーズタッカルビがSNS発で大ヒット。新大久保が聖地に。
  • 2020年頃 第四次ブーム 「愛の不時着」や「梨泰院クラス」など、ネット配信のドラマが大ヒット

それに併せて、韓国料理も広がり定着してきましたが、韓国から日本に進出してきたチェーンが根付くことはありませんでした。日本へのローカライズが不十分だったり、ブームに過剰に乗りすぎていたりと、その原因はさまざまです。ただ、あえて一言で集約するのならマーケティング不足だったといえるでしょう。

M社は韓国から来たブランドである点をPRしていません。あくまでもいちカフェチェーンとして日本で勝負し、ブランドとして根付くように挑戦をしています。また、今後の展開も首都圏を中心に直営で展開していく計画です。

つまり、緻密なマーケティングをもとに、自店が受け入れられる立地を探し、少しずつファンを獲得していこうとしているのです。こうした地道な展開は、これまでの韓国チェーンには見られませんでした。その点だけでも、M社の今後の展開に注目する価値があるといえるでしょう。

現在、テレワークをやめて、出社を要請する会社が増えてきており、同店に対するニーズは高まっていく可能性は大きいようです。

テイクアウト専門のカフェとして、韓国のような存在感を日本で発揮してもおかしくはありません。

(文)飲食店経営 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年4月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。