商品選びの進化:検索エンジンから生成AIへ
2025年5月20日
海外流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:SNS/ハイパーパーソナライゼーション/ECサイト

生成AIは、買い物の仕方を変革しつつあります。米国の調査会社が2025年1月に発表した世界中の買い物客1万2000人を対象に実施した調査によると、ユーザーが何を買うかを決める際にSNSや生成AIを利用するのが当たり前になりつつあります。
買い物するときに検索エンジンを使うのは古い!?
SNSを通じて新商品を購入しているのは、Z世代が最も多く、半数以上の53%となっています。そして、ミレニアル、X世代と続きます。
SNS経由で新しい商品やブランドを購入するユーザーは、2023年後半には24%でしたが、2024年後半には32%に増加しています。特にTikTokとInstagramがトップのプラットフォームとなっています。この背景にはインフルエンサーの影響力とSNSの使いやすさが大きく関係しています。
インフルエンサーは、フォロワーとの信頼関係や個性を活かして商品を紹介します。彼らのレビューや体験談は、フォロワーにとって説得力があり、「自分に合いそう」と感じさせる効果があります。
先の2つのSNSは、短い動画やビジュアルコンテンツが中心のため、商品の良さを直感的に伝えやすいのが特徴です。また商品検索から購入までの流れがスムーズです。アルゴリズムがユーザーの興味や購買履歴を分析し、パーソナライズされた広告を表示するため、コンテンツの一部に見えるように工夫されています。
いずれにしても、商品の発見から購入の決定、小売業者とのやりとりまで、慣れ親しんだSNS上でシームレスに移動できることは効率的であり、若い世代にとって非常に魅力的だと言えそうです。
世代に関係なく支持される生成AI
SNSは若い世代が買い物するのに利用しているのに対し、生成AIは世代に関係なく、支持されています。
実際にユーザーの60%が、検索エンジンを生成AIに置き換えています。
その理由として大きいのは、検索エンジンやSNS、ECサイトからの検索結果を集約して、「ハイパーパーソナライゼーション」してくれるからです。生成AIの強みは、検索エンジン、SNSなどのデータを集約し、その情報をもとにして個々人の好みに合わせた提案をリアルタイムで行えるという点にあります。
従来の検索エンジンでは一般的な結果が返されるだけですが、生成AIはユーザーのニーズや「コンテキスト」(後述)に基づいてカスタマイズされた結果を提供するため、より効率的で満足度が高くなります。このようなハイパーパーソナライゼーションは、特に購入意欲があるユーザーにとって、検索の手間を省きながら最適な選択肢を導き出すという点で、大きな価値を持っています。
深く掘り下げる「ハイパーパーソナライゼーション」
従来の「パーソナライゼーション」は過去の履歴に基づいて商品をおすすめしますが、ハイパーパーソナライゼーションは、ブラウジング(かつてのネットサーフィン)と、リアルなコンテキスト(Context)を使うため、深く掘り下げることができます。
コンテキストとは、ユーザーの行動や好みに影響を与える周辺の状況や背景を指します。場所、時間帯、天気、嗜好などのデータを活用することで、単なるパーソナライズではなく、まさにその瞬間に適した提案が可能になります。
例えば、雨の日に近隣の傘を売っている店を紹介したり、夜の時間帯にリラックスできる商品をすすめたりします。
それでは、ハイパーパーソナライゼーションで使われるデータを細かく見ていきましょう。
- ブラウジング
どのウェブページや商品ページを訪れたか、サイトでの滞在時間やクリックしたリンクの種類、商品検索結果から詳細ページへのクリックなどページ間の移動方法。 - 場所(ユーザーの現在地や過去の位置情報)
観光地にいる場合は、観光やアクティビティ、地元のグルメなど、関連する商品やサービスの提案をします。 - 好み
過去の購入履歴や評価した商品の傾向。スポーツウエアを好む人には、最新のランニングシューズを優先的に表示します。 - 天気
晴れの日にはアウトドア用の商品、雨の日には室内向けのアイテムをおすすめしたり、近くの屋内施設の情報を通知したりします。 - 時間帯
昼間にはアクティブな商品、夜にはリラックスできるアイテムを提案します。午前中にスポーツをする人には、朝の時間帯に合わせた栄養食品やスポーツイベント情報を提供します。
さらに、生成AIは会話形式で質問ができるため、直感的で使いやすいと感じる人が多く、予想外の選択肢やアイデアがユーザーに新しい発見をもたらし、選択肢を広げることがあります。
このような利便性や機能をユーザーに提供しているため、従来の検索エンジンから生成AIへシフトする要因となっています。
小売りのECサイトで注目される広告
商品検索で見逃せないのは、小売業者のECサイト(アプリやウェブサイト)です。以前から力を入れていますが、最近では広告が特に注目されています。その理由は、ECサイトでの検索時に表示される広告が注視されていることが、データで示されているからです。
商品を検索する際、67%のユーザーが小売業者のサイトやアプリ上の広告を認識するといいます。SNS上の広告の認識度も63%と高く、その差はわずか4%です。
しかしSNS上の広告は、必ずしも購入目的で見ているわけありません。ECサイトの広告は、ユーザーが購入を検討しているタイミングで表示される可能性が高く、より商品探索と直接関連する場面で注目されやすくなっています。
食品メーカーが広告を出すならば、SNSよりもECサイトのほうが有効な戦略になる可能性があります。こうした広告戦略で小売業者のECサイトをリードしているのが、米国最大級のディスカウントストア、Tです。
Tは顧客の購買履歴や行動データを分析し、生成AIを活用して個々の顧客に最適な商品を推薦するシステムを構築。ECサイトでは、次のような広告を表示する仕組みを取り入れています。
- 関連商品広告
ユーザーが検索した商品に関連する商品の広告を表示します。例えば「ピザ」を検索した場合、ピザと一緒に楽しめるガーリックブレッドやサラダ、さらにはマッシュルームやペパロニなど人気のピザトッピングといった、食事を充実させる商品を提案します。 - ターゲット広告
購買履歴や閲覧履歴を基に、生成AIを活用して、パーソナライズされたターゲット広告を自動生成します。広告制作の効率化と効果的なマーケティングを実現しています。 - プロモーション広告
季節のセールや割引商品の情報が検索画面に表示され、購入を促進します。時間限定のキャンペーンに役立ちます。 - ブランド広告
特定のブランドがスポンサーとなり、その商品やサービスを優先して広告を表示する場合もあります。
今後も、商品検索をするときに、ハイパーパーソナライゼーションと「シームレスに移動」ができるSNS、生成AI、ECサイトを利用する人がさらに増えそうです。
ちなみにTでは、SNSの流行を、いち早くECサイトや店頭に取り入れています。2024年にヒョウ柄デザインがTikTokで流行しているのを発見したとき、関連商品を数日以内にECサイトで公開し、数週間以内に店頭に並べたということです。
このようなTikTokを代表とするSNSでの人気を受けて、ファッション業界全体に広がりを見せるという流れは、さらに拡大していくと予想されます。
Tの広告戦略は、SNSのトレンドを迅速に活用し、ECサイトや店頭への展開をスムーズに行うことで、ユーザーとの関係をさらに深め、大きな売り上げ拡大を狙っています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年4月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

