ID-POSデータ活用で進化する棚割作成
2025年5月20日
国内流通トピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:ID-POS/棚割/POSデータ/ISM

ITの進展にともない、ID-POSデータを蓄積する企業が増加しています。そして、これまでPOSデータに基づき作成していた棚割についても、卸売業・メーカーとともにID-POSデータを活用する動きが高まっています。
ID-POSデータを活用した棚割作成について、POSデータとの違いを比較しながらまとめました。
小売業における棚割の位置付け
小売業・卸売業は日本の産業を支える重要な業種であり、企業数は非一次産業全体の約5分の1と非常に大きな割合を占めます(図表1)。
<図表1>非一次産業の産業別企業数(民営)
出典:経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」
その小売業・卸売業において、商品が店頭で売れるようにするためのマネジメント手法を「ISM(In-Store Merchandizing)」と呼んでいます。
ISMとは、「①小売店頭で」、「②市場の要求に合致した商品及び商品構成を」、「③最も効果的で効率的な方法によって、消費者に提示することにより」、「④資本と労働の生産性を最大化しようとする活動」を指します。
分かりやすく言い換えれば、「店内の売場における商品の陳列と品揃えの構成などについて、各種データに基づき客観的に検討した上で、顧客の購買特性に合わせることで収益を最も高くするための活動」ということになります。
一方、商品を製造して小売業・卸売業に販売するメーカーにおいても、小売業におけるカテゴリー全体の収益最大化を通じて自社商品の収益と自社カテゴリーのインストア・シェア増加を目指すという視点で、ISMは重要な考え方です。
ISMは、店頭における品揃えと商品群の配置を通じて商品を露出し、中長期的な視点から売場生産性を高める「スペース・マネジメント」と、値引きや演出という形の売場装飾と商品打ち出しを通じて商品に付加的な刺激を与え、短期的な売上増加を狙う「インストア・プロモーション」に大別されます。
特に、スペース・マネジメントはISMの中核的な概念であり、店舗全体における各カテゴリーの配置位置や通路幅などを決めていく「フロア・マネジメント」と、各カテゴリーの売場全体における商品のグルーピング、ゾーニング、フェーシングなど決めていく「シェルフスペース・マネジメント」があります。
このシェルフスペース・マネジメントが、一般的にカテゴリー全体売上の7~8割を占めると言われ、小売業・卸売業・メーカーともに重視する「棚割の作成」に該当します。
また、インストア・プロモーションには、価格操作によって商品をプロモーションする「価格主導型」と、商品の効用や利便性など商品自体の魅力を伝えることで購買意欲を刺激する「非価格主導型」があります(図表2)。
<図表2>ISM(In-Store Merchandizing)の全体像
従来の棚割作成の問題点
小売業では、棚割作成の際に商品管理体系でカテゴリーやサブカテゴリーを設定してしまうことがあります。
ペット関連用品部門を例に挙げると、ペットフードが加工食品、ペット用品が雑貨というデパートメントに振り分けられ、それぞれ菓子や日用品と同じ括りで商品管理してしまうというケースが該当します。確かに商品管理上は、ペットフードも菓子も同じく加工された食品だし、ペット用品も日用品も同じく雑貨です。
ただし、ペット関連用品の売場に来た買い物客は、「自分の飼っているペットのために」ペットフードとペット用品を一緒に購入する機会が多いことは明らかです。そうなると、ペットフードやペット用品で売場がコーナー展開されているよりも、「ペットの種類は?」、さらに「ペットの何を?」という括りでグルーピングしてカテゴリーやサブカテゴリーを設定した方が、顧客にとって利便性の高い売場になるでしょう。
具体的には、ペットケアというデパートメントでペットの種類ごとにカテゴリーが設定されてグルーピングされており、それぞれのカテゴリーで食品やヘルス、アクセサリー、ご褒美といったようなサブカテゴリーがゾーニングされていれば、「ペットフードを買ったついでにご褒美のおもちゃを買おう」といった買上点数の増加が期待できます(図表3)。
<図表3>カテゴリー体系の考え方(例:ペット関連用品部門)
また、小売業では棚割作成における品揃えの参考指標としてPOSデータを使用することが多いですが、POSデータの売上や利益の多寡のみで品揃えを決めてしまうと顧客ニーズを満たさない棚割となってしまう危険性が高まります。
例えば、チューハイ売場では、ここ数年のレモンブームでレモンサワーの売上や利益が非常に大きくなっていますが、POSデータだけで判断するとレモンサワーに品揃えが偏ってしまうでしょう。
一方、チューハイカテゴリーの商品を購入する顧客には「特定のフレーバーだけでなく、様々なフレーバーを楽しみたい」という購買特性(バラエティシーキング)を持った顧客も存在します。そういった顧客にとって、品揃えの極端な偏りはお店から足が遠のく大きな要因となります。
ID-POSを活用した棚割作成
最近では、ITの進展にともない棚割作成にID-POSを活用する小売業が増加しています。主な活用方法について、以下にて挙げていきます。
(1)CDT(消費者意思決定ツリー:Consumer Decision Tree)
CDTは消費者(Consumer)の購買決定(Decision)要因を樹形図(Tree)で表現したもので、ID-POSデータの併買分析から作成することができます。
具体的には、顧客の併買状況を基に商品のクラスタリングを行い、各まとまり(クラスター)を樹形図で可視化することで、顧客の購買意思決定に基づくカテゴリーやサブカテゴリーを設定しやすくなります(図表4)。
<図表4>CDT作成イメージ
(2)同時併買と期間併買によるグルーピングと品揃え
ID-POSデータの併買分析には、顧客がある期間中に購入した商品の組み合わせを分析する「期間併買分析」と、顧客が同じレシート(バスケット)で購入した商品の組み合わせを分析する「同時併買分析」の2つがあります。
例えば、商品Aと商品Bの期間併買率と同時併買率が高ければ、これらの商品は同じサブカテゴリーとして棚割でグルーピングすることで、顧客が商品を探しやすくなり、ストレスなく買い物ができる環境が整います。
一方、商品Aと商品Bの期間併買率は高いものの同時併買率が低いという場合、商品Aがなければ商品Bを購入するという「代替購買」が生じている可能性があります。
このケースでは、どちらかの商品を品揃えしておけば、顧客のニーズを一定水準満たすことができそうです。
このように、この2つの併買分析を組み合わせることで、顧客の意思決定に基づく品揃えが可能となります。
(3)ABCL分析
品揃えの選定に際し、POSデータを使ってA~Cランクに商品を分けて売れ筋を把握する「ABC分析」がよく使われますが、それにID-POSデータで分析した商品ごとの「リピート率」を加えてロイヤリティー(L)の高さを表したのが「ABCL分析」です。
ABC分析で購入個数や購入金額の構成比で確認し、さらにリピート率から固定客がついている商品であるか確認することができます。
例えば、構成比が高くてもリピート率が低い商品、チラシ特売や推奨販売などの実施にともない一時的に売上が増加した可能性が高いため、同じような売上構成比であればリピート率の高い商品を優先的に品揃えするといった活用が考えられます(図表5)。
<図表5>ABCL分析のイメージ
少子高齢化や根強い節約志向など、小売業や卸売業、メーカーを取り巻く環境が厳しさを増す中、今後さらにID-POSを活用した顧客の購買意思決定に基づく棚割作成が重要となってくるでしょう。
(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年4月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

