ローカル・ゼブラとは?
地域と共に未来をつくる新しい企業のカタチを
わかりやすく解説
2025年6月16日
コラム
■業種・業態:一般オフィス
■キーワード:ローカル・ゼブラ/地域社会/デジタル技術/地域課題/資金調達

急速な人口減少や高齢化が進む日本の地域社会では、これまでの仕組みだけでは立ち行かなくなってきています。そうした中で注目されているのが、「ローカル・ゼブラ」と呼ばれる新たな企業モデルです。地域課題をビジネスとして捉え、持続可能な社会と経済の両立を目指すローカル・ゼブラは、地域に根ざしながら新しい価値を創出しています。
本記事では、ローカル・ゼブラの概要や注目される背景、実際の取組事例までわかりやすく紹介します。
ゼブラとは?
まずはローカル・ゼブラの概要と、ユニコーン企業やゼブラ企業との違いについて確認しましょう。
ローカル・ゼブラとは何か
ローカル・ゼブラ企業とは、地域の社会課題を事業によって解決し、社会的インパクトと経済的持続性の両立を目指す中小企業・小規模事業者のことをいいます。ボランティアのような一時的な関わりではなく、収益性のあるビジネスとして地域に根ざし、持続的に課題に取り組む点が特徴です。
代表的な取り組みとしては、次のようなものが挙げられます。
- 高齢者向けの買い物・交通支援
- 空き家を活用した移住・起業支援
- 地域資源を活かした観光や雇用創出
これらは単なる「地域貢献」ではなく、地域課題をビジネスチャンスと捉え、地域経済の循環を生み出す取り組みです。国もこうした企業を重視しており、「新しい資本主義実行計画」では、ローカル・ゼブラ企業の創出やエコシステム構築を戦略の一つに掲げ、インパクト投資や支援体制の整備が進められています。
ユニコーン企業・ゼブラ企業との違い
ローカル・ゼブラを理解するためには、「ユニコーン企業」や「ゼブラ企業」との違いを知ることが重要です。主な特徴を下記の表にまとめました。
| ユニコーン企業 | ゼブラ企業 | ローカル・ゼブラ企業 | |
|---|---|---|---|
| 主な目的 | 急成長と企業価値の最大化 | 社会性と経済性の両立 | 地域課題の解決と持続可能な地域経済の構築 |
| ビジネスアプローチ | スピード・スケーラビリティ 重視 |
協調・長期視点 | 地域との共創・信頼関係構築 |
| 活動のスケール | グローバル・全国レベル | 社会課題全般 | 地域特化型・地域資源に 根ざした活動 |
| 資金調達の特徴 | ベンチャー型・ハイリターン 志向 |
インパクト投資・共感ベース | 地域金融・補助金・ クラウドファンディング |
ユニコーン企業は「急成長」を追求し、ゼブラ企業は「社会と共に持続的に成長する」ことを重視します。一方、ローカル・ゼブラ企業は、ゼブラの理念を地域密着型に特化させ、住民・行政・地域企業と協働しながら課題をビジネスとして解決していく企業モデルです。
ローカル・ゼブラが注目されている背景
ローカル・ゼブラが注目されている背景には、次の3つが挙げられます。
順に見ていきましょう。
背景1. 地域社会の持続に向けた「新たな担い手」が求められている
少子高齢化や人口減少が進む中、地方では医療・福祉・交通・雇用などの生活インフラの維持が難しくなっています。行政や既存企業だけでは対応しきれず、地域の実情に応じた柔軟で継続的な担い手の存在が求められているのです。
そこで、地域課題をビジネスで解決するローカル・ゼブラ企業が注目を集めています。中小企業庁も、こうした企業を「社会的インパクトと経済性を両立する存在」と位置づけ、政策支援の対象として明記しています。
背景2. デジタル技術が地域ビジネスの可能性を広げている
AIや5G、クラウド、SNSなどのデジタル技術の進展により、地域課題へのアプローチが大きく変わりつつあります。例えば、テレワークの普及で都市部の人材が地方企業に関わりやすくなったり、SNSを通じて関係人口や共感者との接点が生まれたりしています。
その結果、従来は採算が難しかった領域でも事業として成り立つ可能性が高まり、ローカル・ゼブラ企業にとって大きな追い風となっているのです。
背景3. 社会的価値と収益の両立に注目が集まっている
企業に求められる役割は利益の最大化だけでなく、社会課題への貢献も重視される時代へと移り変わっています。脱炭素や地域福祉、災害対応など、企業の担う社会的責任は多様化し、それが企業価値の新たな評価軸にもなっています。
その中で広がっているのが「インパクト投資」です。インパクト投資は社会課題の解決と収益性の両立を目指す企業への資金供給の仕組みであり、ローカル・ゼブラ企業はその対象として注目されています。
ローカル・ゼブラに取り組むことで得られる4つのメリット
ローカル・ゼブラに取り組むことで得られる主なメリットは、次の4つです。
メリット1. 地域課題を解決しながら安定収益を得られる
ローカル・ゼブラ企業は、高齢化や空き家、交通弱者といった地域の課題を事業で解決しつつ、継続的な収益を確保します。社会的ニーズが明確で、地域密着だからこその安定した需要が期待できるのが強みです。
メリット2. 社会的インパクトの見える化で共感と支援が得られる
ローカル・ゼブラ企業は、活動による社会的インパクトを定量・定性の両面で可視化し、積極的に発信するのが特徴です。例としては「移動支援サービスの利用者増」「空き家活用による移住促進」など、成果が明確なほど共感と信頼を得やすくなります。
こうした見える化は、投資や補助金、人材確保などの支援を引き寄せ、事業の広がりと継続性を支える重要な手段とされています。
メリット3. 多様な主体との連携が新たな価値を生む
ローカル・ゼブラ企業は、行政、金融機関、住民、企業、外部人材など多様な関係者と連携しながら課題解決に取り組む点が強みです。単独では難しい取り組みも、共創によって新たなビジネスチャンスやアイデアが生まれやすくなります。
メリット4. 地域に良質な雇用とやりがいを創出できる
地域に根ざすローカル・ゼブラ企業は、地元の雇用創出に直結します。仕事が地域課題の解決と直結しているため、働き手がやりがいを感じやすく、長く働き続けやすい環境にもなるのがメリットです。
また、移住者や女性、高齢者など、多様な人材が活躍できる場を提供することで、地域全体の活性化にも広がりが生まれます。
ローカル・ゼブラが乗り越えるべき3つの課題
地域に根ざした持続可能なビジネスモデルとして注目されるローカル・ゼブラですが、その実践にはさまざまなハードルも存在します。ここでは、ローカル・ゼブラ企業が直面しやすい代表的な3つの課題を解説します。
課題1. 資金調達と収益モデルのバランスが難しい
ローカル・ゼブラ企業は、地域課題の解決と収益の両立を目指しますが、短期的な利益や急成長を前提としないため、創業初期の資金調達に苦戦することも少なくありません。特に従来型の金融機関や投資家は高い収益性を重視するため、社会性の強いビジネスモデルは理解されにくい場合があります。
最近ではインパクト投資やクラウドファンディングなど新たな資金調達手段も登場していますが、支援体制は地域によって差があり、整備も発展途上です。このような中で、社会的価値と経済性のバランスをどう設計するかが、事業の成否を左右するポイントとなります。
課題2. 多様な関係者との合意形成に時間がかかる
ローカル・ゼブラ企業は、行政や住民、金融機関、NPO、企業など多様な関係者と連携しながら事業を進めるのが特徴です。ただし、それぞれの立場や価値観が異なるため、意思決定には調整が必要で、合意形成には時間がかかることもあります。
特に、新しいサービスや仕組みを導入する場合は、地域文化への配慮や住民の理解が不可欠です。対話を重ね、信頼を築くためのコミュニケーション力と粘り強さが求められます。
課題3. 地方では人材の確保と育成が難しい
地方では人口減少や都市部への流出により、必要なスキルや意欲を持つ人材の確保が困難です。ローカル・ゼブラ企業には、ビジネススキルだけでなく、地域課題への共感・社会貢献意識も求められるため、採用のハードルはさらに高くなります。
また、多くの地域では研修やキャリア支援の機会が限られており、育成や定着の仕組みづくりが課題です。中小企業庁は、副業・兼業人材や移住者、関係人口の活用など柔軟な人材戦略の重要性を強調しており、今後は地域と企業が協力して人材の好循環を生む体制の構築が求められます。
国内のローカル・ゼブラ企業事例
地域の課題に向き合い持続可能な仕組みを築いている、国内のローカル・ゼブラ企業の事例を3つご紹介します。
(参照元:ゼブラ企業の創出・育成に向けて|中小企業庁)
事例1. 【長野県・野沢温泉村】株式会社野沢温泉企画
長野県野沢温泉村は古くから温泉地として知られています。しかし、少子高齢化や夏季の観光客減少、使われなくなった民宿の増加など、多くの地域課題を抱えていました。
これらの課題に対し、株式会社野沢温泉企画は空き建物を再活用した宿泊施設や飲食店の整備を通じて、観光の通年化と地域経済の活性化を図る取り組みを実践。また、移住・定住支援、新規事業者の後押し、地域文化の継承などを複合的に進め、雇用創出にも貢献しています。
「水と人が豊かに暮らす郷村」のビジョンのもと、地域資源を活かした持続可能な観光・まちづくりを実現しており、まさにローカル・ゼブラの代表例といえます。
事例2. 【愛知県・名古屋市】千年(ちとせ)建設株式会社
愛知県名古屋市とその周辺では、母子家庭などの住まいの確保と地域コミュニティの希薄化が深刻な課題となっています。千年建設株式会社は、こうした現状に対し、建設会社の枠を超えて「暮らしの再構築」に挑んでいます。
「良質な住まいと繋がり」をキーワードに、経済的に困難な家庭にも手が届く住宅の提供を実施。さらに、住民同士の交流を生む地域イベントを企画し、孤立を防ぎながらコミュニティの再生にも力を注いでいます。
住まいとつながりの両面から都市型の社会課題に取り組む姿勢は、都市部におけるローカル・ゼブラの新たな可能性を示しています。
事例3. 【石川県・能登地域】株式会社御祓川(みそぎがわ)
豊かな自然と文化を持つ一方、能登地域では人材の流出、IT化の遅れ、震災復興など複合的な課題が顕在化しています。株式会社御祓川は、これらの課題に地域密着で向き合っている企業です。
同社は、地域企業の事業継続支援やバックオフィスの効率化、人材育成に取り組みながら、地域外からの関係人口の創出や移住促進にも注力。能登の魅力を伝えるツアーや学びの場を提供するなど、地域の「挑戦する人材」を育てる仕組みづくりを実践しています。
地域内外をつなぎながら、能登の里山里海に根ざしたエコシステムを再構築している好事例です。
ローカル・ゼブラは、地域と共に未来をつくる企業のカタチ
ローカル・ゼブラ企業は、地域の課題に寄り添いながら、持続可能な経済活動を通じて社会に貢献する新しい企業の姿です。急成長を目指すユニコーン企業とも、グローバルな社会課題に挑むゼブラ企業とも異なり、「地域に根ざす」という独自の立ち位置を持っています。
人口減少や地域経済の縮小といった日本各地の深刻な課題に対し、ローカル・ゼブラ企業は住民や行政、企業と協働しながら、地域と共に未来をつくる担い手として大きな期待が寄せられています。
※当記事は2025年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

