ラストワンマイルをカーゴバイクに転換するフランス
2025年6月16日
海外流通トピックス
■業種・業態:物流業
■キーワード:カーゴバイク/物流/ラストワンマイル

EC(電子商取引)の市場拡大によって、世界で大きく変化したものの一つは物流です。Bob(企業間取引)と異なり、BtoC(消費者向け)の「ラストワンマイル」では、消費者への細やかな対応が求められ、配送の複雑化やコスト負担の増大が課題になっています。
ラストワンマイルとは、物流の最終工程で、商品が消費者の手元に届くまでの配送プロセスを指し、倉庫や物流拠点から個人宅への配送がそれに当たります。
都市部ではEC拡大による配送車の増加が交通渋滞の悪化を招いており、物流の効率化が大きな課題になっています。
特に、軽トラックや宅配車両の増加が顕著で、ラストワンマイルの負担が高まる一方で、配送の遅延やドライバーの労働環境の悪化も問題になっています。この対応についてフランスの取り組みをレポートします。
日本では2025年4月から物流改革がスタート
日本では「物流効率化法」と「貨物自動車運送事業法」が改正され、2025年4月1日から施行されています。
物流効率化法は、荷主や物流事業者に対して物流効率化の努力義務を課す内容で、国が判断基準を策定し、物流の最適化を促進することを目的としています。
一方、貨物自動車運送事業法は、トラックドライバーの労働環境改善を目的とし、運送契約の適正化や荷待ち時間の短縮などの規制が強化されています。
この2つの法律は、物流業界全体の改革を進めるために連携して施行されており、物流の効率化とドライバーの働き方改革を同時に推進する形になっています。
パリ協定を実現するためのフランスのLOM法
フランスでは、LOM法(モビリティ基本法)が2019年12月に施行されました。先の日本の2つの法律と比べると、スケールが大きい政策体系になります。
この法律は、交通・運輸部門の長期的な戦略を定める包括的な枠組みであり、フランスの交通輸送の未来を形づくる重要な指針となっています。
目標として、2050年までに「カーボンニュートラル」を達成することが掲げられています。カーボンニュートラルとは、排出したCO₂を森林や技術で吸収・除去することで、トータルの排出量をゼロにすることを指します。
その一環として、2040年までにガソリン車やディーゼル車などの化石燃料車の販売が禁止される予定です。
この目標の実現に向け、環境負荷の低い交通手段(電気自動車や自転車など)の推進、公共交通の改善、交通データの透明化など、多岐にわたる施策が盛り込まれています。
つまり、フランスは2015年のパリ協定で掲げられたカーボンニュートラルの目標を、具体的な政策として積極的に展開しており、物流とモビリティの分野において世界をリードする国の一つといえるでしょう。
LOM法は多岐にわたる施策を含んでいるため、段階的に導入されます。円滑な移行を図るために、具体的な実施スケジュールが設定されています。
なお、Uberなどのライドシェアサービスのドライバーや配達員の労働環境の改善や、プラットフォームとの契約関係の透明化も、LOM法では進められています。
カーゴバイクによるラストワンマイルを促進
フランス全体のモビリティ戦略を形づくるLOM法の中で、冒頭のラストワンマイルと関連する施策の一つが、自転車が都市交通の中で占める割合を3倍に増やすことを目指した「自転車推進計画」です。
学校での自転車教育の強化、自転車インフラの整備(専用レーンの拡充、駐輪場の増設)などのほか、2025年2月までは自転車購入補助金も個人に出されていました。
さらにフランスでは「サイクリング文化」を促進するため、2021年から毎年5月、1カ月間にわたって全国でサイクリングイベントが行われていて、その専用サイトまで設けられているのも興味深いところです。2024年は5000以上のイベントが国内で行われていたそうです。
この中で注目されるのが、「カーゴバイク配送促進(Climactic')」です。「カーゴバイク」とは、大きな荷物を運ぶことができる自転車のことで、都市部の配送に適しています。
フランスでは、ECは年率15%で成長しており、5年ごとに配達される小包の数が倍増しています。軽トラックが市内中心部の渋滞を引き起こすような従来の配送方法は、時代遅れになりつつあるのかもしれません。
このプロジェクトには、荷送人(荷物を発送する企業や個人)と都会型物流事業者(カーバイクを使った物流業者)の他に、カーゴバイクによる積極的なラストマイルを開発するために自治体(住民5万人以上)も加わっており、すでに23の自治体がプログラムに参加しています。
カーゴバイクによる積極的なラストワンマイルを開発するために、自治体(住民5万人以上)も加え、すでに23の自治体がプログラムに参加しています。
荷送人と都市物流事業者を支援
2025年(延長される見込み)まで展開されるカーゴバイク配送促進は、国の自転車推進計画や参加している自治体の財政支援が実施されています。
そして、このプロジェクトの柱となるのが、財政支援です。カーゴバイクで配達される小包ごとに、都市物流事業者にはボーナスが支給されます。
ボーナスは配送ポイントごとに2ユーロが支給され、配送時間あたり最大10ユーロを上限としています。
都市物流事業者は荷送人への請求書から一部を差し引く形でボーナスを適用し、荷送人にとっては、その分が支払いから減額されるという制度です。互いに利益があり、カーゴバイクの活用が促進されるという狙いがあります。
都市物流事業者には配送アプリが提供され、アルゴリズムが配送データを分析して、例えば、都市の中心部で複数の荷物をまとめて配送するなど密度の高い配送ルートを構築し、効率的な配送を実現します。
また、駐車場や「マイクロハブ(小規模な物流拠点)」の場所、サイクリングルートなどを計画するのに役立つ配送密度やフローマップも生成します。マイクロハブは、都市部や地方の配送ネットワークの効率化を目的として設置されることが多いです。
カーゴバイクは、従来のトラックやバンの配送車両よりもCO2排出量が少ないため、環境負荷を減らせます。
さらに渋滞の影響を受けにくく、短距離配送ではコスト削減にもつながるため、物流の競争力が向上するなどの効果もあります。
2020年に、ある都会物流事業者がAmazonと提携して、パリやボルドー、リヨンなどの都市で大規模なカーゴバイクの実験を行ったことがあります。
その目的は、カーゴバイクの導入によって環境負荷を減らしながらも、従来のトラックやバンによる配送と同等のコストで運用できるかどうかを試すことでした。実験によって、効果的であることが証明されました。
ただし、都市部での従来の四輪配送の30%を受け入れることができるカーゴバイクの物流モデルを構築するには、雇用の面で大きな課題があるとされています。
都会物流事業者は、運転免許を持っていない若者をたくさん雇用しており、これが彼らにとっての初めての仕事になります。そのため、離職率が高く、専任の継続的なサポート体制の整備が求められています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年5月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

