ここまできた!フランスの自動運転バス

2025年6月16日

海外流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:自動運転バス/EV/スマートシティ/IoT

自動運転バスのイメージ画像

日本は、地方の人口減少と高齢化が加速し、過疎地ではスーパーマーケットの撤退が相次ぐなどして、買物困難者が急増しています。

「買物に行きたくても行く手段がない」そうした住民を支えるため、移動販売やネット通販が広がりつつありますが、過疎地における公共交通手段の確保や観光地の移動支援などを目的として、自動運転バスの実証実験が各地で進んでいます。

茨城県境町や沖縄県のリゾート地などでは、自動運転のレベル4での実証実験も始まっています。レベル4とは、一定の条件下では完全に自動運転が可能で、人間の介入なしで走行できることです。

このように日本では実証実験が活発に進められていますが、世界ではすでに商用運行に向けた取り組みも進んでいます。

自動運転バスは、EV(電気自動車)の中で最も早く実用化する可能性が高い、スマートシティ(データやテクノロジーを活用した都市)の形成の核になるなどと期待され、各国政府や地方自治体での導入が進んでいます。

本稿では自動運転バスの現状と、先進国の中でも特に注目されるフランスの動向を解説します。

自動運転バスとは

青空の下で走る自動運転バスのイメージ画像

まずは、自動運転バス(Autonomous Bus)について、簡単に紹介します。自動運転バスは、自律型シャトルや自動運転の小型バス、無人バスとも呼ばれています。

2024年の世界での市場規模は21億米ドルと推定されており、イギリスの調査会社の予測によると、2024年から29年の間に年平均成長率22.4%で、28億8000万米ドルの規模に達するとされています。

2019年から25年の成長率は21.4%でしたので、2024年から29年には業界の成長はさらに加速すると予測されています。

この成長を支えている主な要因は、持続可能で効率的な公共交通システムへの需要の高まりです。世界各国の政府は、交通渋滞やCO2排出量の削減を目的に自動運転バスの導入を推進し、スマートシティの構築に投資を積極化しています。

近年、AI(人工知能)や、あらゆるものがネットにつながるIoTの進歩により、自動運転バスの安全性と信頼性は飛躍的に向上しています。

AIを活用したリアルタイムでの交通解析は、複雑な都市環境での最適ルートの選定を可能にし、IoTによる車両間通信は、運行の効率化と事故リスクの低減に貢献しています。

また、先進的なセンサー技術により歩行者や障害物を高精度で検知し、よりスムーズな運行を実現しています。

そして、前述したように人間が直接制御しなくても、システムが自動運転を実施できるレベル4が可能になり、その採用が促進されているというわけです。

この自動運転のレベル分けは、米国のSAE(自動車技術者協会:Society of Automotive Engineers)によって定められており、国際的な基準として広く採用されています。

EVの実用化はバスが先行するのか

充電スポットのイメージ画像

多くの自動運転バスは、各国政府や地方自治体がカーボンニュートラルの目標達成に向けた取り組みの一環として導入し、電動バスとして運用しています。

レベル4の技術が進展する中、EVは乗用車や商用車の分野で導入が進んでいます。EC市場の拡大に伴い、物流業界の輸送需要が急拡大し、日本をはじめ欧米の主要都市でも運転手不足が深刻化しています。

運転手不足の解消や運行コスト削減の観点から、自動運転バスの普及が加速しており、公共交通の未来を支える重要な選択肢となっています。

そのため、EVの実用化では自家用車よりも自動運転バスの方が有望であり、各国での普及が加速すると予測されています。

さらに、自動運転バスの市場拡大には、新興国(エマージングマーケット)の都市化というもう一つの重要な要素が関わっています。

ブラジルのベロオリゾンテやサンパウロ、コロンビアのボゴタなどでは、人口密度の増加に伴い、交通渋滞や環境負荷の軽減を目的とした自動運転バスの実証実験が進められているのです。

このように世界のさまざまな都市で、スマートシティの実現を支える取り組みの一環としての自動運転バスや、さらには自動運転技術を活用した地下鉄などの公共交通機関の導入も進んでいます。

これらの技術革新は都市の持続可能な発展に寄与し、次世代の公共交通システムの礎となりつつあります。

フランスでは自動運転バスを実用化

街中を走る自動運転バスのイメージ画像

自動運転バスの運用において世界をリードしているフランスは、2019年12月に施行されたLOM法(モビリティ基本法)により、2020年から本格的に開始され、公共交通の選択肢が広がりました。

ワインで有名なボルドーでは、N社の自動運転バスが公道で運行されており、大学キャンパスやビジネス地区での移動手段として活用されています。

フランスの工業都市で、ミシュランの本社がある都市として知られているクレルモン・フェランでも、N社やE社の自動運転シャトルが導入され、公共交通の一部として運用されています。その他の都市にも導入され、交通渋滞の緩和や移動の選択肢拡充に貢献しています。

実は、フランスでは2015年から自動運転バスの試験運用が開始されており、他国よりも早く公道での実証実験を進め、実用化へのステップを着実に踏んできました。

N社とE社は共に創業2014年で、N社のシャトルは日本、サウジアラビア、米国などで導入されており、公共交通機関や企業の敷地内で活用されています。

一方、E社は世界30カ国以上、300以上のエリアで走行実績を持ち、大学構内や都市部での運用が進んでいます。E社は、車両の製造を行わないファブレス企業(生産設備を持たない製造業者)として、独自の自動運転ソフトウェアを開発。

「都市部のシャトルサービス」「工場や空港内の輸送」「大学構内の移動」など、明確な用途に特化して、事業者に向けて自動運転システムを提供しています。

特に、同社のソフトウェアは自動車メーカーやバス会社、鉄道会社などの交通事業者向けOEMソリューションとして採用されており、グローバル市場での競争力を高めています。

2025年3月には、PACTE法(企業の成長・変革のための行動計画法)の適用により、なんと中国企業W社がレベル4の自動運転許可を取得し、現在、試験運用を行っています。

フランス市場に中国企業の参入が進んでいる点でも注目すべき動きです。

W社は2017年に設立された中国・広州を拠点とする自動運転技術企業で、ロボタクシーや商用車向けの自動運転システムを開発し、グローバル市場での展開を進めています。

PACTE法は、企業の成長と技術革新を促進するために導入された法律であり、自動運転技術の開発環境の整備にも寄与しています。

つまり、フランスでは技術・安全面はLOM法、開発面はPACTE法が担い、この両輪が自動運転バスの発展を力強く支えていると言うことができます。

5Gが変革する自動運転バスの運行エリア

運行中の自動運転バスのイメージ画像

フランスには、スマートモビリティの最前線ともいえる先進技術が導入されているエリアがあります。

パリ市内から電車で約30分のヴェリジー・ヴィラクブレーでは、5Gを活用した自動運転バスがすでに5年以上運用されており、実証実験が行われています。この都市では、M社の自動運転バスが運行されています。

同社は2017年にフランスで創業し、都市や郊外向けの自動運転シャトルを開発・運用している企業です。

ファブレス企業のため車両の製造ではなく、ソフトウェアと監視システムの開発に注力しており、5Gの特性を最大限に活用しています。

ヴェリジー・ヴィラクブレーの自動運転バスは、フランス政府の「5G Open Roadプロジェクト」の一環として実証実験がスタートしました。

2022年3月~24年9月の間に、市街地の交通速度に適応しながら走行し、減速を最小限に抑える高度な制御を実現しています。

これは、5Gの超低遅延通信によるリアルタイム情報処理が可能になったことで実現した技術革新です。

中でも重要なのは、遠隔監視技術の向上によって、安全オペレーターを不要にすることを目指した点です。

これまでの自動運転バスは、センサー情報のみを頼りにして走行していましたが、5G技術の導入により、周囲の交通状況やインフラデータを瞬時に取得できるようになり、より安全な走行が可能になりました。

また、5Gの導入によって、監視システムや路側センサーとの連携も進んでいます。これにより、ラウンドアバウト(環状交差点)や複雑な交差点の通過がスムーズになり、従来の自動運転バスよりも交通渋滞の緩和や移動の効率化が期待されています。

フランスで広く普及しているラウンドアバウトは、信号機を使用せずに交通の流れを調整できるシステムです。

これが5G技術と組み合わさることにより、さらに高度な交通管理が可能になりました。これらの技術革新は、完全自動運転の実現を加速させ、持続可能な都市交通の未来を形づくる鍵となるでしょう。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年5月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。