2026年7月施行予定のEU「アパレル廃棄禁止規則」
2025年7月15日
海外流通トピックス
■業種・業態:衣料店
■キーワード:エコデザイン規則/アパレル廃棄禁止規則/衣類廃棄禁止法/3R

EUでは、2024年7月に「エコデザイン規則(ESPR)」が施行されました。製品ごとの規制が段階的に導入される予定で、第1弾として2026年7月から衣類と履物を対象とする「アパレル廃棄禁止規則」が施行される予定です。
この法律は、2022年1月からフランスで施行されている「衣類廃棄禁止法」を参考にしています。衣類廃棄禁止法では、企業に売れ残った衣類の廃棄を禁止し、寄付やリサイクルを義務付けています。
アパレル廃棄禁止規則が施行されることで、EU全体に統一した基準が確立されます。さらに、EUの新規則に対応する形で、フランスの法律がより厳しくなる可能性もあります。
持続可能な製品開発を推進する「エコデザイン規則」
まずはエコデザイン規則から簡単に解説しましょう。エコデザイン規則は、EUにおける製品設計・生産・廃棄の環境負荷を減らし、持続可能な製品開発を推進するために制定されました。
ポイントとなるのは、従来では重視されてこなかった製品の設計段階での持続可能性を強化したということです。加えて、加盟国間の法律の違いを減らし、統一基準のもと、廃棄削減を推進しています。
家電、照明器具などを対象としてエネルギー効率の向上を目的としていた、それまでの「エコデザイン指令(ErP指令)」(2009年施行)に代わるものであり、食品・飼料、医薬品などを除いて、ほとんどの製品に拡大されました。
エコデザイン規則では、耐久性・循環性が重視され、製品のライフサイクル全体が考慮されています。具体的には、次の4つに関する情報提供が求められています。
- 再製造(Remanufacturing):製品や部品を再利用し、新品同様に再生するプロセスを促進
- 保守(Maintenance):製品の長寿命化を目的としたメンテナンスの推奨
- リサイクル(Recycling):製品の材料を再利用し、廃棄物を削減
- 修理(Repair):修理可能な設計を義務付け、消費者が製品を長く使えるようにする
売れ残り商品の廃棄を防ぐ「アパレル廃棄禁止規則」
ヨーロッパでは、アパレルは食品、住宅、運輸に次いで4番目に環境負荷が大きい業界といわれています。この4つの中で、エコデザイン規則の対象となるのはアパレル業界のみです。
そのため、第1弾としてアパレルに対する「アパレル廃棄禁止規則」が施行されることになったというわけです。
環境への影響が最も深刻である食品は、フードロス削減や持続可能な農業など、別の規制や自主的な取り組みの中で進められています。
なお、住宅に使われる建材、窓、断熱材、照明、暖房設備などはエコデザイン規則の対象ですが、住宅業界は対象外です。建築基準法やエネルギー効率規制など、別の法律で管理されています。
運輸も同じく、タイヤ、バッテリー、照明などはエコデザイン規則の対象ですが、運輸業界は対象外です。CO₂排出規制や燃費基準など、別の法律で管理されています。
アパレルの3Rを求める規則
アパレル廃棄禁止規則では、売れ残った衣類や履物を廃棄せずに以下の4つの方法で処理することを求めています。主にReuse、Remanufacturing、Recyclingの3Rと言えます。
- 再利用(Reuse):そのまま再販や寄付などで活用
- 再製造(Remanufacturing):素材を活かして新しい製品に作り直す
- リサイクル(Recycling):繊維を分解し、新しい布地や素材として再利用
- エネルギー回収(Energy Recovery):焼却してエネルギーとして活用(ただし優先度は低い)
先述したエコデザイン規則の4つの要素とは、異なる方法が採用されています。エコデザイン規則は製品のライフサイクル全体を対象とした包括的な規制である一方、アパレル廃棄禁止規則はその一部として過剰生産や大量廃棄の抑制を目的としているためです。
さらに、大企業には下記のような4つの売れ残り商品の廃棄に関する報告義務を課しています。中規模企業は2030年7月から対象となり、小規模企業は免除されます。
- 消費者向けの売れ残り製品(衣類や履物)の廃棄状況(種類・カテゴリー別の数量、重量、割合)
- 売れ残り製品の処理方法(再利用、再製造、リサイクル、エネルギー回収など)
- 売れ残りを防ぐための対策(過剰生産を防ぐための在庫管理の最適化、リサイクルの仕組みを構築、寄付やアウトレット販売の促進など)
- 廃棄理由(品質不良や有害物質の含有などにより、廃棄が許される場合があるが、この適用を受けるには、企業が適切な証明を提供する必要がある)
フランスの「衣類廃棄禁止法」との違い
フランスの衣類廃棄禁止法では、先述した詳細な報告義務は明確には規定されていません。さらに、企業に再利用、リサイクル、寄付のいずれかを義務付ける仕組みになっています。寄付制度は、衣類の廃棄を減らし、循環型経済を促進する重要な役割を果たしています。
消費者を積極的に関与させている点も特徴で、フランス国内には約4万6,000カ所の回収所があり、その多くが歩道などに設置された専用回収ボックスです。ここに寄付用の衣類を入れることで、再利用とリサイクルを含めた適切な処理が行われる仕組みになっています。
EUのアパレル廃棄禁止規則では回収ボックスの設置は義務ではありませんが、2025年からEU全加盟国で衣類の分別回収が義務化されるため、各国で独自に回収システムを整備する動きが進んでいます。
EUの規制がフランスの既存の法律とどのように統合されるか、今後の展開に注目する必要があります。
EUのアパレルの実情
ここ数年、アパレル業界に関する不都合な真実が明らかになっています。高級ブランドだけでなくファストファッションも含めて、売れ残りや返品された衣類を大量に破棄していることが判明したからです。
現在のファッション小売システムは、トレンドの移り変わりの速さ、安価な大量生産、値引きによってビジネスモデルを構築していて、過剰生産を招いています。
もう一方では、売れ残った商品を破棄することで過度な値下げ競争を抑え、高級ブランドの価値を高く保っているという現実もあります。これは、エコデザイン規則が目指す資源効率の高い循環経済の理念と明らかに矛盾しています。
現在では、衣料品のオンライン販売の増加に比例して返品も増加しており、平均返品率は約20%と推定されています。つまり、オンラインで販売された衣料品の5着に1着は返品されているというわけです。
オンラインで販売された商品の返品率は、実店舗で販売された商品の最大3倍にもなります。欧州環境機関(EEA)の推定では、オンラインで返品された衣料品の22~43%、つまり平均で3分の1が最終的に廃棄されています。
靴の平均返品率はさらに高く、EU全体では約30%と推定されています。
返品された商品は、定価で再販売されるものはごくわずかで、値下げ販売せざるを得ない、あるいは再販不可能なものもあります。再販不可能なものは、慈善団体に寄付されるか、仲買業者に売却されるか、破棄されます。再販売されたり、二次市場に流通したりした商品の中には、最終的に破棄されるものもあります。
ヨーロッパではオンライン販売での大量の返品に加え、売れ残り生地も大量に発生しています。こうした生地は、オンラインでも実店舗でも販売されていません。売れ残り生地が発生する原因は、ファストファッションの影響が大きいといわれています。
売れ残った製品の多くは、最終的にヨーロッパからアフリカやアジアに輸出され、再利用またはリサイクルされます。アフリカでは多くの製品が廃棄物として廃棄され、その多くは野外埋立地で処理されるか、野外で焼却されるため、ろ過されずに毒素が直接放出されている兆候が見られます。
これが大きな問題の一因となり、結果としてアパレル廃棄禁止規則の制定に至ったと考えられます。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

