DXで拡大を続けるファストカジュアルレストラン
2025年7月15日
海外流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:キッチン管理システム/注文データ分析/採用プラットフォーム/ピックアップレーン

メキシカンフードをベースにした米国カリフォルニア発のファストカジュアルレストラン、CMGが誕生したのは1993年。添加物を極力使わず、ナチュラルで新鮮な食材を使用したブリトー、タコス、サラダボウルなどが人気で、どれもカスタムオーダーが可能です。
今では米国だけではなく、カナダ、英国、フランス、ドイツ、クウェート、アラブ首長国連邦に3800店以上あり(2025年3月現在)、北米とヨーロッパの全店舗を自社で所有・運営する屈指の規模の企業で、13万人以上の従業員を抱えています。
米国ではデジタル技術、テクノロジー、持続可能なビジネスを牽引する業界のリーダーとしての役割を果たしています。
生産性を向上させる「キッチン管理システム」
安心で健康的なイメージが強いCMGですが、その反面、2016年頃は食材廃棄物の増加が課題となっていました。食の安全問題にも直面し、店舗運営や食材管理の見直しを迫られていました。
そこで、食品廃棄物の削減に向けた取り組みを強化し、サステナビリティ戦略を推進。食材の使用最適化を行うため、AIを活用した需要予測で過剰な仕入れを防止するようになりました。
CMGが導入したキッチン管理システムは、食材の管理と調理プロセスを最適化するためのAI技術が使われています。カメラを活用したコンピュータービジョン(画像認識技術)により、厨房内の食材の状態や調理状況をリアルタイムで監視し、適切な補充を指示することで、調理の効率化を実現しています。CMGの主力食材の調理を例に説明すると、以下のような仕組みになります。
- アボカドディップ(グアカモーレ)
AIがアボカドの使用量をリアルタイムで監視し、必要な量を予測します。看板商品の供給を安定させるために、ピーク時に不足しそうな場合は、事前にアボカド処理ロボットを稼働させるように指示を出します。
アボカドの皮をむき、種を取り、半分にカットする作業を自動化。最大25ポンド(約11kg)のアボカドを一度に処理します。処理後の果肉はボウルに集められ、スタッフが手作業でアボカドディップを仕上げます。 - ロメインレタス(サラダのベース)
AIがレタスの消費スピードを分析し、適切な補充タイミングを計算。これにより、常に新鮮なレタスを提供できるようになります。 - ブラックビーンズ(黒大豆)とブラウンライス(玄米)
需要予測を行い、どれくらいの量を準備すべきかをスタッフに通知。ピーク時に不足しないように、事前に炊飯や調理を促します。 - グリルチキン
AIが注文データを分析し、どの時間帯にどれくらいのチキンを焼くべきかを計算。これにより、焼き過ぎによる廃棄を防ぎつつ、スムーズな提供が可能になります。
このように、CMGのキッチン管理システムは食材の使用状況をリアルタイムで監視し、最適な調理タイミングを指示することで、食材の無駄を減らし、効率的な運営を実現しています。
CMGの最高技術責任者は次のように評価しています。「マネジャーには情報に基づいた即時の判断に必要なツールが提供され、スタッフの無駄な作業が減ったおかげで、料理の質とお客様への対応に集中できるようになりました」
注文データ分析とセット
注文データ分析では、曜日や時間帯を考慮して、ピーク時の需要を予測しています。例えば、次のような傾向があります。
- 曜日別の傾向
週末は家族連れやグループ客が多く、サラダボウルやブリトーの注文が増えます。平日はランチタイムにサラダや軽めのメニューが人気。 - 時間帯別の分析
昼食時(11時30分~13時30分)は、オフィスワーカー向けの注文が集中。夕方(17~19時)は、持ち帰りやデリバリーの需要が増加。
AIはこれらのデータをもとに、どの時間帯にどの食材をどれくらい準備すべきかを予測し、スタッフに指示を出します。これにより、食品ロスを最小限に抑えながら、スムーズな提供が可能になります。
CMGでは注文データの分析から、一年のうち3~5月に顧客の注文数が急増することが明らかになりました。この時期は野球シーズンの開幕や、NBA(プロバスケットボール)などのスポーツイベントがあり、観戦時の食事や、気温が上がって屋外での食事やテイクアウトの需要が増える時期です。
2025年には、この繁忙期を「ブリトーシーズン」と名付けて集客を強化。この戦略により、繁忙期の売上を最大化しています。そのために、新規採用とドライブスルー方式のピックアップレーン併設型店舗の拡張を同時に進めました。
これが可能になったのは、2024年10月にAIを活用した採用プラットフォームを導入したことも、大きな要因です。
AIの採用プラットフォーム導入の成果
ブリトーシーズンに向けて、2025年は米国内3,700店を超える店舗で20,000人の追加従業員の採用を計画。応募者数を増やすための新たな採用キャンペーンを行いました。
募集したのは、この時期だけの臨時従業員ではありません。キャリアをスタートし、成長していく従業員を大量採用したのです。
フランチャイズではなく、直営店として会社所有・運営のモデルを採用しているCMGにとって、人材教育は必須です。そのため、採用キャンペーンでは、店舗で働く従業員を起用したドキュメンタリースタイルの全国テレビコマーシャルを3本公開しました。
テレビコマーシャルに登場する3人の従業員は、いずれもスタッフからゼネラルマネジャー(店舗の運営管理)へと昇進しており、CMGではこのようなキャリアアップの可能性があることを紹介しています。これにより、応募者数が倍増したといいます。
採用プロセスではAI採用プラットフォームを使うことで、応募から採用までの平均時間を12日から4日へと大幅に短縮、応募完了率も約50%から85%以上に向上させました。
また、会話型AIを使って応募者とチャットし、質問に答えたり、基本情報を収集したりして、採用マネジャーの面接スケジュールを調整し、マネジャーが選考した候補者にオファーを送信しています。チャットは英語だけではなく、スペイン語、フランス語、ドイツ語にも対応しています。
キャリアアップについては、スタッフから最短3年半でゼネラルマネジャーの最高位である店舗の経営者(日本の店長に相当)へ昇進できる仕組みを提供しています。
数百万ドル規模の成長を遂げる店舗の経営者となれば、約10万ドルの報酬を得る可能性があります。CMGは、このような透明性のあるキャリアアップの機会を提供しており、2024年には23,000人が社内で昇進を果たしました。
ピックアップレーン併設型とアプリ
CMGの2025年第1四半期の業績報告によると、モバイルオーダーが売上の35%以上を占め、新規オープンの57店舗のうち48店舗がピックアップレーン併設型でした。今後も新店舗の80%に併設する予定です。
CMGのアプリは、デジタル注文の利便性とロイヤリティプログラムの充実度で高い評価を受けています。特にCMGのようなブランドでは、「好みに合わせて細かく調整できる」カスタムオーダーが、顧客満足度の向上につながっています。アプリでは店頭で注文するよりも、具材の追加・削除、トッピングの選択がスムーズです。
事前注文により店舗での受け取りがスピーディで、デリバリーサービスと統合し、宅配オプションを強化しています。
デジタル技術、テクノロジー、持続可能なビジネスの3本柱で、年間8~10%の成長率で拡大する計画を立てており、2025年末までに北米で4,000店舗、2030年には7,000店舗を目指しています。
さらに、CMGは持続可能なビジネスにも力を入れており、広大な農地の雑草を昼夜問わず刈り取る自律型ロボット群や、環境負荷の少ない肥料の開発にも投資しています。Z世代の人材を引き付け、サポートする福利厚生制度の強化にも注力しています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

