Z世代・α世代の購買行動を読む:
デジタルネイティブが変える市場構造
2025年7月15日
国内流通トピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:デジタルネイティブ/Z世代・α世代/購買行動/SNS

2020年代以降、消費市場の主役は急速に若年層へと移行しています。特に注目すべきは、Z世代(1990年代後半〜2010年頃生まれ)とα世代(2010年以降生まれ)です。
この二つの世代は、「デジタルネイティブ」と呼ばれ、生まれた時からスマートフォンやSNSが生活の一部となっています。そこで、彼らの購買行動、そして市場構造に与える影響について整理しました。
デジタルネイティブの特徴
従来の消費者とは異なる価値観と行動様式を持つ彼ら「デジタルネイティブ」には、以下のような特徴があります。
- 情報収集と意思決定のスピード
Z世代・α世代の最大の特徴は、情報収集から意思決定までのスピードの速さです。彼らは、SNSや動画プラットフォームを駆使し、必要な情報を瞬時に取得します。GoogleやYahoo!などの検索エンジンよりも、TikTokやInstagramのリール、YouTubeのレビュー動画を信頼する傾向が強く、視覚的・感覚的な情報に反応しやすいと言えます。また、彼らの購買行動は、テレビCMや新聞広告を見た上でお店に行って購入するといったような順番通りの流れではなく、SNSで偶然見かける→友人と話す→別の動画で再確認する→購入する、というように、複数のチャネルを行き来しながら商品やサービスの情報を入手し、直感的に判断しています。
- 「所有」より「体験」へのシフト
彼らはモノを「持つ」ことよりも、「使ってみる」「共有する」「体験する」ことに価値を見出しています。サブスクリプションサービスやレンタル、シェアリングエコノミーの利用が増加しているのは、その表れと言えるでしょう。例えば、シェアリングエコノミーについては、情報通信総合研究所と(一社)シェアリングエコノミー協会との共同調査によると、2024年度の市場規模が3兆1,050億円と過去最高を記録しています(図表1)。<図表1>シェアリングサービス市場規模の推移
出典:(一社)シェアリングエコノミー協会HP「シェアリングエコノミー関連調査2024年度調査結果(市場規模)」 これは、彼らの「必要なときに、必要なだけ使う」という柔軟な消費スタイルが、消費者の新たな購買行動として定着してきていることを示しています。また、ブランドのストーリーや社会的意義、サステナビリティへの取り組みが彼らの購買動機となることも多く、単なる機能や価格では心を動かされません。
購買行動の具体的変化
デジタルネイティブが台頭してきたことで、消費者の購買行動がどのように変化してきているのかを以下にて掘り下げました。
- SNS起点の購買行動
総務省の「令和6年版 情報通信白書」によると、日本国内のSNS利用者数は2023年時点で約1億580万人、2028年には1億1,360万人に達すると予測されています。(図表2)。<図表2>日本のソーシャルメディア利用者数の推移及び予測
これは、SNSが若年層だけでなく、全年代に広がる社会インフラ的存在となっていることを示しています。
出典:総務省「令和6年版 情報通信白書」 - オンラインとオフラインの融合
デジタルネイティブは、オンラインで情報を集め、オフラインで体験し、再びオンラインで購入するというように、オンラインとオフラインを行き来して比較検討する購買行動を自然に行います。その他にも、リアル店舗で商品を見てからネットで最安値を探す「ショールーミング」も一般的となっています。このような行動様式に対応するため、リアル店舗は「販売の場」から「ブランド体験の場」へと役割を変えつつあり、ポップアップストアや体験型イベントの重要性が高まっています。
- サステナビリティとエシカル(倫理的)消費
環境問題や社会課題への関心が高いデジタルネイティブは、企業の姿勢を厳しく見ています。消費者庁の「未来の消費生活に関する調査報告書(令和6年)」によると、デジタルネイティブの中核をなすZ世代は「サステナビリティ」「倫理性」「透明性」を重視する傾向が強いとされており、彼らはフェアトレードやリサイクル素材、動物福祉など、社会的責任を果たすブランドを選ぶ傾向があります。そして、企業の姿勢や商品・サービスの背景に敏感であり、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)やESG(Environment=環境、Social=社会、Governance=企業統治、を考慮した投資活動や経営・事業活動の取り組み)が購買の動機となります。彼らにとっては、単なる価格や機能ではなく、「共感できるか」が重要な判断基準となっています。
市場構造へのインパクト
このような購買行動の変化は、企業のマーケティング戦略だけでなく、流通、商品開発、ブランディングの在り方にも大きな影響を与えています。
- マスマーケティングの限界とパーソナライズの台頭
大多数の消費者に向けて同じ商品・サービスやメッセージを一斉に発信する従来のマスマーケティングは、デジタルネイティブには響きにくくなっています。彼らは自分の価値観に合った情報を求め、AIによるレコメンドやパーソナライズされた広告に反応します。そのため、企業はビッグデータを活用し、個別最適化された体験を消費者に提供する必要があります。
- ブランドコミュニティの重要性
最近の消費者は、「自分と似た価値観を持つ人々とのつながり」を重視する傾向があります。そして、ブランドは単なる商品・サービスの提供だけではなく、そのブランドへの共感を軸にした「コミュニティの中心」となることが求められます。企業は、ブランドコミュニティの運営を通じてブランドロイヤリティの向上、マーケティングコストの削減、商品開発や改善へのフィードバックなど、様々な効果が期待できます。
- リアルタイム性と透明性の追求
情報の拡散スピードが速い現代では、企業の対応力と透明性が問われます。炎上リスクを避けるためにも、誠実な情報発信と迅速な対応が不可欠です。最近では、消費者の「嘘や隠しごとを暴こう」とする傾向が強まっているため、企業は自らの姿勢を消費者に対して積極的に開示する必要があります。Z世代・α世代の購買行動は、単なる若年層の流行ではなく、今後の市場構造のスタンダードとなる可能性を秘めています。企業は彼らの価値観を深く理解し、共感を軸にしたブランド戦略を構築することが求められます。その中で重要なのは、「売る」ことではなく、「選ばれる」存在になることです。彼らデジタルネイティブ世代との対話を通じて企業自身も進化し続ける姿勢が、これからの時代の競争優位を築くカギとなるでしょう。
(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

