2025年に新設、建物費も対象になる「新事業進出補助金」

2025年7月15日

国内流通トピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:新事業進出補助金/事業再構築補助金/高付加価値事業

飲食店のイメージ画像

2025年に新設された「中小企業新事業進出補助金」(以下、新事業進出補助金)。中小企業や小規模事業者が、既存のノウハウや技術を活かして新たな製品・サービスを開発し、新たな市場に進出して成長を図るとともに、賃上げにもつなげる取り組みを支援する制度です。

対象は中小企業者を基本としつつ、一定の条件を満たせば、特定事業者の一部も支援対象に含まれます。

サービス業・小売業(飲食店を含む)であれば、資本金10億円未満・従業員数300人以下で該当する可能性があるため、詳細は事務局へ確認すると確実です。

「事業再構築補助金」とはどう違うのか

焼肉店のテーブルのイメージ画像

新事業進出補助金は、かつての人気制度「事業再構築補助金」と比較されがちですが、目的や要件は刷新されています。

まず大きな違いは、「建物の新築・改修費」が補助対象に含まれた点。例えば、焼肉店の新規出店や、冷凍スイーツの製造に必要な加工場の整備などが、必要性を証明できれば支援対象となります。

事業再構築補助金の新設当初は、建物の新築・改修費も対象となっていましたが、不正受給が相次いだため、途中から制限が強化された経緯があります。新事業進出補助金では、建物の新築・改修費の「必要性の説明」などの観点からの審査が厳しくなっているはずです。

さらに、事業再構築補助金では「売上減少」が前提でしたが、新事業進出補助金では、「新規性、市場性、収益性・持続性」(詳しくは後述)、賃上げ計画といった前向きな成長要素が審査の中心になります。

つまり、事業再構築補助金が「コロナ禍を乗り越える守りの支援」だったのに対し、この新事業進出補助金は、ポストコロナ・成長フェーズに向けた攻めの支援制度。まさに“守り”から“攻め”への転換を示すものであり、経済の再始動を後押しする成長支援策といえます。

補助金額は、事業再構築補助金の最大6,000万円(特例で1億円超)に対し、新事業進出補助金は7,000万円(特例で9,000万円)。ただし、通常の中小企業申請では6,000万円が上限であることが多く、1億円枠は“特別枠”として位置づけられていましたので、むしろ新事業進出補助金のほうが大きいといえるかもしれません。

補助金額は従業員数によって異なり、従業員101人以上の企業ならば7,000万円、大幅な賃上げを行う場合は9,000万円まで支給されます(詳細は図表1参照)。

新事業進出の3つの要件

厨房のイメージ画像

それでは次に、審査で重視される「新事業進出」「高付加価値事業」について、ポイントを解説します。なお、「高付加価値事業」の詳細については、最後の項目で改めて説明します。

「新事業進出」では、以下の3つの要件をすべて満たすことが求められています。

1.製品等の新規性
自社にとって新しい製品やサービスであること(世の中の“初”でなくてOK)

2.市場の新規性
既存事業とは異なる顧客層(新規顧客)に向けた提供であること

3.新事業売上高の一定割合
新事業の売上が、全体の売上の10%以上(または付加価値額の15%以上)を占める見込みであること

「日本料理店が焼肉店を新築・出店」したケース
長年、地域密着型で営んできた日本料理店が、コロナ禍以降の客層変化や外食ニーズの多様化を受け、焼肉業態への進出を決断したとします。新規性の説明は次の通りです。

1.製品等の新規性
これまで提供してこなかった「焼肉」という調理・提供スタイル(無煙ロースター、部位別提供、タレ開発など)を導入

2.市場の新規性
既存の和食顧客(中高年層・会食中心)とは異なり、20〜40代のカジュアル層やファミリー層を新たなターゲットとする

3. 新事業売上高の割合
新店舗による売上が、全体の売上の15%以上を見込む

・建物新築の必要性 についての説明例
既存店舗では焼肉業態に必要な排煙設備・厨房動線・客席構成が確保できないため、郊外に専用の焼肉店舗を新築。建物は無煙ロースター対応の天井設計、個室・半個室中心のレイアウト、バリアフリー対応など、焼肉業態に最適化された構造とする

・高付加価値化の工夫の説明例
地元産黒毛和牛を使用し、「和食の目利き×焼肉」の融合を打ち出す。タブレット注文・自動配膳・予約管理システムなど、DX要素を導入し、業務効率と顧客満足度を両立。

このように整理すれば、「既存の強みを活かしつつ、新市場に挑戦する成長志向型の事業」として、補助金の審査でも高く評価されやすくなります。

居酒屋がテイクアウト専門店も併設したケース

居酒屋店内のイメージ画像

もう一つ、「居酒屋が健康志向のテイクアウト専門店も併設」するケースも考えてみましょう。夜営業のみの居酒屋が、昼営業のみのテイクアウト専門店を店舗の一部で運営することにします。

1.製品等の新規性
低糖質弁当・ヴィーガン対応など、これまでにない商品ラインアップ

2.市場の新規性
夜の飲み客層とは異なる、健康志向のビジネスパーソンや女性層

3. 新事業売上高の割合
新事業による売上が、全体の売上の15%以上を見込む

・建物新築の必要性
新築なし。既存厨房を一部改修し、予約アプリやスマートレジなどを導入
以上の「時間帯・商品・顧客層」のすべてが新しく、設備費・外注費・広告費などを中心に申請できます。

新事業進出補助金は、広告宣伝・販売促進費も経費に含まれます。ポイントは、新事業に関する広報であること。ホームページの新規作成費・改修費、SNS広告、新聞・雑誌・Web媒体への広告掲載費など、販促費が経費になるのは、これまで持続化補助金だけでした。

事業計画書での証明が必須の「高付加価値事業」

事業計画書のイメージ画像

次に、「高付加価値事業」について考えてみましょう。

こちらは「新事業進出」の3要件とは別で、事業計画書の中で求められる成長性の指標にかかわってきます。

  1. 付加価値額の年平均4%以上の増加
  2. 給与支給総額の年平均2.5%以上の増加

こうした数値目標を達成する「事業モデル」や「収益構造」を、この補助金では高付加価値事業とみなします。これらに加え、以下の賃上げ要件のいずれかも満たす必要があります。そして、3つの要件すべてを、補助事業終了後の3~5年間の事業計画で達成する必要があるというわけです。

  1. 1人あたり給与支給総額の年平均成長率が、店舗のある都道府県の最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上
  2. 給与支給総額の年平均成長率が、全国一律で2.5%以上

要件は決して簡単とは言えません。ただし、要件が類似している「省力化投資補助金(一般型)」の第1回採択率が約68.5%と高かったように、制度新設の初年度にはチャンスが広がりやすい傾向があります。関心があれば、ぜひチャレンジを。

なお、図表2に記載したように第1回の申請受付が6月に始まったばかりなので、今後のスケジュールは、中小企業新事業進出補助金のサイトで随時確認しましょう。

<図表1> 中小企業新事業進出補助金の支給内容

対象 支給額 対象経費 限度
従業員20人以下 経費×1/2 建物費、建築物費、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、広告宣伝・販売促進費 2,500万円(3,000万円)
21~50人 4,000万円(5,000万円)
51~100人 5,500万円(7,000万円)
101人以上 7,000万円(9,000万円)

カッコ内は大幅な賃上げを行う場合。事業場内最低賃金を50円以上増加させ、給与支給総額を6%以上増加させること。申請時に賃金引き上げ計画を従業員に表明すること。
図表の詳細については、中小企業新事業進出補助金(https://shinjigyou-shinshutsu.smrj.go.jp/)を参照下さい。

<図表2> 公募スケジュール

  公募開始 申請受付 締切 採択発表日
第1回 2025年4月22日 4月17日 7月10日 10月頃
第2回以降 未定

(文)飲食店経営 編集部
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年6月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。