人気業態のラーメン店がM&Aで海外進出の
チャンスを広げる
2025年8月18日
国内流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:M&A/ラーメン店/人手不足/原価高/海外進出

外食業界ではラーメン店のM&Aが盛んに行われています。例えば、2024年12月にはカレーハウスチェーンを展開するC社が豚骨ラーメンチェーンを買収。
また、牛丼チェーンのY社は事業の第3の柱としてラーメンを据えて、今後、M&Aを積極的に行っていく方針を打ち出しています。なぜ今、ラーメンに注目が集まるのか、その背景を見ていきましょう。
人手不足と原価高に直面するラーメン店
飲食店には、さまざまな業態がありますが、昨今話題の米の値上がりをはじめ、天候不順などにより乱高下する野菜の価格、さらに円安が進み輸入肉の価格も上昇するなど、原価高が飲食店を苦しめています。
また、人手不足も長期化しており、原材料費の高騰と人手不足は飲食業界に大きなダメージを与えています。
中でもラーメン店は、使用食材のほぼ全てが値上がりする状況にある上、気温の高い厨房での仕事は決して楽ではなく、消費者からの人気は絶大ではありますが、慢性的な人手不足が続いています。
原材料費でいうと、ラーメン店の場合、油や小麦、豚肉、野菜の高騰の影響が甚大でした。
あるラーメン店主によると、「以前と比べて油と小麦の価格が1.5倍になった」という話もあります。
昨今、光熱費の上昇も激しいため、短期間で損益分岐点はかなり上がっているでしょう。
一方で、人手不足についていうと、働き方の影響が大きいようです。
働き方改革の動きは飲食業界でも広がっていて、短時間労働者を活用してシフトを埋めたり、職場環境の改善を行っています。
しかし、ラーメン店は立ち仕事で、きつい仕事というイメージが強いようです。
また、厨房は暑く、過酷な現場になりやすいことから、もともと人手不足になりやすい業態でした。
ホールでなら仕事をしたいという方は多くいますが、キッチンの仕事の希望者は少なく、他の業界よりも人手不足が深刻になりやすい傾向があります。
そうした背景を受けて、大手ラーメンチェーンではDXの推進が盛んです。
配膳ロボットや調理ロボットを導入し、人手不足に対応しているラーメンチェーンも増えています。
しかし、ある程度のコストがかかるのも事実です。そのため、中小、個店には難しく、資本力によって、DXの推進に差が現れています。
その大きな原因がいわゆる1,000円の壁です。1,000円を超えると高いと感じる消費者心理の影響が働き、原材料費が高騰したとしても価格に転嫁できず、中小、個店を中心に苦しい経営を強いられています。
その結果、利益が出づらく、薄利多売のビジネスモデルになっている現状があります。
こうした状況を受けて、売却や、どこかの傘下に入りたいと考えるオーナーがいたとしても不思議ではありません。
海外進出をにらみラーメン店のM&Aが進む
外食業界ではコロナ禍以降、経営の多角化が進んでいます。インバウンド需要があるとはいえ、人口減少のインパクトは大きく、今後、国内の外食市場は大きく成長する見込みはありません。
その中で、収益を最大化するため、さまざまな業態を持つことが重要となっています。ブランドポートフォリオを強化すれば、リスク分散も図れるなど、メリットは大きいのです。
現に、コロナ禍前、上場も果たした単一業態を展開するチェーン店が、コロナ禍をへて、多業態戦略に舵を切っています。
一方で、単一業態戦略を続ける、餃子を主役にした居酒屋D社は、既存店客数の前年割れが続き、利益も伸び悩んでいます。
多くの飲食企業が多業態戦略を推し進める中、なぜラーメン店なのかというと、海外での人気が大きいでしょう。豚骨ラーメンチェーンのI社をはじめ海外で高い人気を獲得するチェーンは数多くあります。
国内市場の成長が限界を迎えているからこそ、企業が成長し続けるためには、いずれかのタイミングで海外展開をしないといけません。
そのとき、ラーメンは強力な武器になるのです。こうした背景を踏まえ、経営の苦しいラーメン店が、比較的資本力のある企業に売却あるいは買収される流れが生まれています。
苦しい経営を強いられているラーメン店にとって、資本力のある企業に吸収されることで、経営が安定するのはもちろん、DXの推進をはじめとした設備投資や、ブランド力の強化、従業員の待遇向上など、さまざまなメリットがもたらされます。
例えば、設備投資なら、AIによる発注システムや、自動調理ロボットなどを導入し、生産性の向上を期待できるでしょう。
中華料理チェーンのO社では、調理ロボットを導入した結果、生産性の向上だけでなく、離職率や損益分岐の改善にも成功しています。
また、セントラルキッチンの活用や一括仕入れで、原材料費の高騰にも対応していくことができるでしょう。
セントラルキッチンでスープを冷凍するフリーザーを導入すれば、各店舗でのスープを用意する手間が省けるのはもちろん、テイクアウトや通版での販売など、新たな販路を切り開くことができます。
現に、豚骨ラーメンチェーンのI社は、通販などの販売を伸ばしています。
これからのラーメン店は、テクノロジーの活用による業務効率の向上や緻密な原価コントロール、人材の定着と育成、多販路戦略など、経営の高度化が不可欠です。
国内外に多くのファンを持つ大人気の業態だけに、今後も国内での経営統合や海外進出をにらんだラーメン店のM&Aは盛んに行われていく可能性が高いと考えられます。
(文)飲食店経営 副編集長 三輪大輔
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年7月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

