ロボット・棚札・カートが連携する、
スーパーのDX進化プロセス

2025年8月18日

海外流通トピックス

■業種・業態:量販店  
■キーワード:DX/ロボット/棚札/スマートカート

スーパーで買い物をする家族のイメージ画像

米国で家族経営かつ非公開企業でありながら、100店舗以上を展開するスーパーマーケットチェーンのSC社。

AIなどの先進技術を活用し、業務効率と顧客サービスの質を向上させたことが評価され、2025年5月に「2025年米国ベスト・マネージド・カンパニー」に選出されました。

4年以上連続での受賞により、「ゴールド賞」が授与されています。

今回は、このSC社のDX戦略について詳しく見ていきます。

3つのDX戦略の柱

スーパーの従業員のイメージ画像

SC社は、米国中西部の4州(ミズーリ、イリノイ、インディアナ、ウィスコンシン)にスーパー114店舗を展開、約1万2,000人の従業員を抱えています。

1939年にミズーリ州の都市、セントルイスで設立以来、創業家による家族経営が続いています。

現在のCEOは3代目で、4代目の家族も経営に関わっており、地域密着型のスーパーとして成長してきました。

SC社は小売業界全体で深刻化する人材不足に対応し、顧客サービスの最適化や投資収益率の確保を目指し、ITの導入を積極的に進めてきました。

「在庫監視ロボット」から「電子棚札」「スマートカート」を体系的に事業運営に統合させており、この3つをDX戦略の柱として位置づけています。

顧客サービスの最適化とは、単に接客を丁寧にするという意味ではありません。

テクノロジーを業務フローに組み込み、スタッフの動きのムダやムラをなくし、効率よく回るように組み立て、顧客にとっての利便性・満足度・価値を最大化していることを指します。

店舗に1台で十分なロボットを活用

通路内自走ロボットのイメージ画像

DX戦略の第1弾として導入したのが、棚の在庫と価格、販促状況を監視する通路内自走ロボットです。

2017年に試験運用を開始。2021年には100以上の店舗にこのロボットを全面的に導入することを発表しました。

その後も、毎年行われるITスタッフの店舗調査で、ロボットの機能を改善し続けています。

ロボットは高さ1mのスリムで完全自走型の棚スキャンロボットで、買い物客や障害物を避けながら安全に通路を移動し、バッテリー残量が少なくなると、人の手を借りることなく自力で充電ドックに戻ることができます。

1日3回、店舗を巡回して、店舗の商品約3万5,000点を約3時間でスキャンします。

そして棚の最上段から最下段までの在庫状況・価格・販促の状況をまとめた日次レポートを生成します(価格・販促については後述)。

試験運用の開始当時は、リアルタイムで在庫状況を通知していました。

しかし、リアルタイムで「在庫切れ」と通知されると、スタッフがその都度対応に追われて、かえって非効率になる可能性があるため、日次レポート形式での運用が選ばれました。

在庫状況については、在庫切れ(棚に商品がまったくない状態)・在庫不足(棚に商品はあるが、残りが少なく補充が必要な状態)・置き忘れ(商品が誤った棚やカテゴリーの置かれている状態)の3つを見分けて、日次レポートに反映します。

これには具体的な棚番号と棚の状態(在庫状況、価格ミスなど)、商品名が明記され、「どこで何をすべきか」をすぐに把握できる仕組みになっています。

在庫切れや在庫不足のデータは、店舗のITシステムに連携され、運営スタッフが倉庫の在庫状況を確認し、補充するかどうかのきっかけとして活用されています。

店舗マネージャーは、日次レポートをもとに補充の優先順位を決定し、リスト順に沿ってスタッフに業務を割り当てます。

これにより、スタッフは「自分で棚をチェックして回る」必要がなくなり、マネージャーの指示に基づいて、自走ロボットの指令書に沿って的確に動ける体制が整っています。

1日3回の巡回後にもアプリでデータ提供

日次レポートに加えて、自走ロボットは1日3回の巡回後に収集した棚情報をクラウド上で処理し、モバイルアプリを通じて店舗マネージャーや補充担当スタッフに通知します。

この通知は、業務の優先順位を判断する材料として活用されるだけでなく、スタッフが自らの担当棚の状況を把握し、効率的に作業を進めるための業務ナビゲーションとしても機能しています。

これにより、店舗では日中の棚状況の変化をリアルタイムに近いかたちで把握でき、売れ筋商品の補充や棚の修正も「午後は棚A12を対応」といった具体的な業務計画に落とし込むことが可能になりました。

さらに、棚札の価格表示ミスや販促ラベルの誤配置など、人の目では見落としがちな細かなズレも検知します。

こうした価格表示の精度向上は、ESL(Electric Shelf Label:電子棚札)との連携によってさらに強化されており、POSでの価格との不一致を防ぐ仕組みとして機能しています。

価格の不一致は顧客の不満を招く

スーパーで棚の品物を見ている女性客のイメージ画像

まとめ買いやセール品を狙っている顧客は価格に敏感であり、米国では「Price Match Guarantee(価格保証)」を掲げる店舗も多いため、日本よりも価格を細かくチェックする文化が根付いています。

そのため、POSで読み取られた価格が棚の表示と違っていたり、新価格に更新されていない棚札が放置されていたりすると、顧客は不満を持ちます。

従来の紙の棚札は、手動で更新をしなければなりません。販促期間終了後に棚札の更新が遅れたり、販促期間が終了しているのに、「セール」「割引」「BOGO(Buy One Get One:1個購入すると、無料で1個もらえる)」などの販促ステッカーが残っていたりすることもあります。

こうした「価格の不一致(誤表示・更新漏れ)」や「販促ステッカーの貼り残し・更新漏れ」は、顧客の信頼を損なう要因にもなります。

ある消費者団体の調査では、価格の不一致が「不満の上位理由」に挙げられているほどです。

このようなロボットによる在庫・価格・販促の3要素を網羅した自動監査は、店舗運営において非常に重要な役割を担っています。

しかし、紙の棚札では、どうしてもスタッフ対応の負担がかかります。このような日常的な課題を解決して精度を高めるために、SC社が導入したのがESLです。

2023年2月からテストを開始し、同年7月には全店舗への拡大と、IN社のスマートカートの導入を正式に発表しました。

ESLとPOSの連携がもたらす効果

スーパーのお菓子の陳列棚のイメージ画像

SC社のDX推進責任者はESLを単なる紙の棚札のデジタル版以上のものとしてとらえています。

ESLによって次の4つのことが可能になるほか、多くのことが実現できると述べています。ちなみに、ESLの右上にある小さな四角は光るようになっています。

  1. 値下げの柔軟性向上:紙の棚札では困難だった時間別の価格変更や短期販促が可能
  2. 従来の広告サイクルからの解放:これまでの週次・月次広告にしばられず、曜日限定セールや時間帯別販促が実現
  3. Shop-to-Light機能:顧客が探している商品の棚札が光って案内する機能(スマートカートやアプリ連携)
  4. Stock-to-Light機能:スタッフが補充すべき商品を棚札の光で見つける機能(在庫管理の効率化)

SC社では、ESLをPOSシステムとシームレスに統合し、中央管理システムからの指令をリアルタイムで棚に反映する仕組みを構築しています。

この連携により、価格変更だけでなく、プロモーション情報、商品説明、アレルギー表示、在庫状況などもESLに自動で更新され、棚札の表示が常に最新の状態に保たれます。

販促終了後の表示ミスや価格変更の漏れといった人手による棚札交換ミスがなくなり、棚の表示価格とレジ価格の不一致も避けることができます。

加えて、ESLと自走ロボットを連携させることで、価格の誤表示や販促ミスの検知精度をさらに高めています。

さらに自走ロボットは在庫管理システムと連携しているため、棚をスキャンして、商品の有無や在庫切れをリアルタイムで検知。

ESLに「在庫切れ」「残りわずか」などの表示が出るため、顧客やスタッフが棚を見ただけで状況を把握することが可能です。

棚に商品がないときに、顧客がスタッフに対して「在庫はありますか?」と聞くことが激減しました。

スタッフの業務負荷も軽減されることで、業務効率と顧客満足度の両面で大きな効果を発揮しています。

商品を自動認識して支払いまで済ませるカート

スマートカートのイメージ画像

前述したように全店舗へのESLとともに導入したのが、IN社のスマートカートです。

このスマートカートは、AIによる視覚認識技術とセンサー、計量器を組み合わせることで、顧客がカートに入れる商品を自動的に識別。

SC社のアプリと連動しているため、レジの列に並ばずに会計を済ませることができます。

タッチスクリーンも搭載されており、顧客はアプリの買い物リストを追跡したり、プロモーション情報を受け取ったりすることができます。

アプリで商品を検索すると、その商品のESLが点滅するため、商品の場所を簡単に見つけることができます。

顧客は、スマートカートで会員アカウントを使用することで、より便利でパーソナライズされたサービスを受けることができます。

例えば、カートの端末に表示されたプロモーションに簡単に確認でき、売場を回りながら今週のチラシのお買い得情報をチェックすることもできます。

また、2025年4月には、カートの下部トレイに対応する機能を追加したスマートカートも一部導入しました。

顧客は水のペットボトルのケースやペットフードなどのかさばるアイテムをカートの上まで持ち上げることなく、簡単にスキャンして下部トレイに置き、運ぶことができるようになりました。

こうしたSC社の取り組みは、人手不足に直面する日本のスーパーにとっても、大変参考になるものです。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年7月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。