AIなどのテクノロジーを駆使して未来都市作りを推進

2025年8月18日

海外流通トピックス

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■キーワード:行動経済学/デメリット/信頼性

未来都市のイメージ画像

人口約5万人の静岡県裾野市では、T社によるスマートシティ「ウーブン・シティ(Woven City)」の開発が進んでいて、ついに2025年秋には最初の住民が入居予定です。AI(人工知能)や自動運転、水素エネルギーといった先端技術を融合させた“未来のまち”として注目されています。

一方、世界に目を向けると、すでにこうしたスマートシティ開発が進んでいる都市があります。北欧のノルウェーの西部のスタヴァンゲル市です。2019年にノルウェー道路局による「Mobility賞」を受賞するなど、社会課題を技術と制度で包み込むモデル都市として注目を集めています。

ノルウェーはEV普及率が世界一

ノルウェー国旗を掲げている建物の一部のイメージ画像

まずノルウェーの概要から説明すると、北欧諸国の中でも特にスマートシティ推進に積極的な国家です。1990年代から電気自動車(EV)普及に向けた「e-モビリティ・プログラム」を積極的に展開。政府は税制優遇や充電インフラ整備を通じて、市民や企業のEV利用を後押ししてきました。

EV普及率が世界トップとなり、環境負荷の低い交通インフラ整備においては、国民、企業、自治体、政府が一体となって未来志向の都市形成に取り組んでいます。

2019年には「スマートで持続可能な都市とコミュニティのための国家ロードマップ」が発表され、全国規模での方向性と実行原則が定められました。このロードマップは8つの原則を軸に展開されています。

すべての施策は市民のニーズや生活の質を向上させることを目的としていて、高齢者や障がい者も含め、誰も取り残さない都市の仕組みづくりとすることなどが書かれています。

この8つの原則は、2015年にスタヴァンゲル市が策定したノルウェー初の「ローカル・スマートシティ・ロードマップ」の理念と実践を基礎に、国家レベルで体系化されたものです。

スタヴァンゲル市の産官民の強い連携

油田のイメージ画像

スタヴァンゲル市は、ローカル・スマートシティ・ロードマップを策定した2015年に、スマートシティ専用オフィスも開設しています。この事務所は、地方自治体の複数の部門や専門分野にわたる活動を促進し、監督するための調整機関として、地元および地域の産業界、学界、市民、地方自治体によって共同設立されたものです。こうした制度整備と協働体制を国家よりも先んじて構築していた点は、特筆すべきといえます。

というのも、スタヴァンゲル市はノルウェーの石油・ガス産業の中心地として知られ、「石油の首都」とも呼ばれる資源都市です。1960年代以降、北海油田の開発に伴って都市は急速に成長しましたが、その一方で、「産業構造の偏り」と「都市空間の硬直化」という2つの問題を抱えていました。

産業構造の偏りとは、石油・ガス関連企業に依存する経済構造となり、製造業・観光・サービス業などの産業の多様性が乏しくなっていたことです。

もう一つの都市空間の硬直化とは、精製所・倉庫など石油関連施設や商業施設が都市の中心部に集中し、市民が住む生活圏との分離が進んでいたことを指します。高齢者や交通弱者にとって、移動しづらい都市構造になっていたのです。

こうした背景から、スタヴァンゲル市では「持続可能なビジネスへの転換」「高齢化による人口構成の変化への対応」を喫緊の課題と位置づけ、スマートシティ戦略が打ち出されました。

もともと産業界との連携基盤が整っていた地域性を活かして、技術・制度・市民の協働によるスマートシティ構想が加速したのです。

行政のスマートシティ担当者も「スマートシティを推進するという決定は、何よりもまず、持続可能なビジネスの必要性と、高齢化の進行や若年層の減少といった人口構成の変化に対応するために行われました」と述べており、都市の自己変革力がこの事業を支えていることがうかがえます。

国からMobility賞を受賞

トロフィーのイメージ画像

毎年8月に開催される国内最大の政治・社会イベントで、2019年にノルウェー道路局はMobility賞の授与とともに、スタヴァンゲル市を「ノルウェーで最もスマートな都市」と公式に認定しました。

スタヴァンゲル市はスマートシティ戦略の一環として、主に次の3つを推進して、これらが「持続可能で包摂的な都市交通モデル」として高く評価されたのです。

  1. KO社による自動運転バスの導入計画
    2022年春にスタヴァンゲル市中心部で試験運行を開始しました。
  2. IoTセンサーによる都市環境のモニタリング
    海辺の水泳エリアでは水温や水質のリアルタイム監視が行われており、他にも空気質、騒音、交通量、エネルギー消費など多岐にわたるデータが収集・分析されています。これらの情報は、市民向けアプリや公共のディスプレイを通じて共有されています。
  3. 市民参加型の交通設計
    市民が参加するワークショップや協働設計を通じて、住民・企業・自治体職員が交通ルートやインフラ整備の意思決定に関与しています。

スマートシティ担当者は、「スタヴァンゲルが受賞したのは、複数の新しい革新的なプロジェクトと、新たな働き方や自治体職員、市民、企業との連携を組み合わせた取り組みが評価された結果です」と説明します。

単なる技術導入ではなく、制度設計・市民参加・都市空間の再編などの包括的な取り組みが評価対象になっていることから、都市の社会的成熟度を示す指標にもなっています。Mobility賞は、ノルウェー国内では非常に権威ある賞であり、北欧のスマートモビリティ分野における先進性を象徴するものとして位置づけられています。欧州のスマートモビリティ政策に影響を与える象徴的な出来事でもありました。

スマートシティの象徴「自動運転バス」

自動運転バスのイメージ画像

※写真はイメージです

2022年春以来、KO社はスタヴァンゲル市で、米国自動車技術者協会が定めたレベル4の自動運転バス(一定の条件下で運転手なしに走行できる高度な自動運転技術)を用いた定期運行を開始しました。

このバスは、トルコのKA社製で、最大52人乗り・全長8.3mの電動車両です。KO社と共同で運行を担い、遠隔監視ソフトウェアにより運転手不在でも安全かつ効率的な運行が可能となっています。
当初は市街地の短距離ルートでの試験運行から始まりましたが、現在では交通量の多い幹線道路やトンネルを含む複雑なルートにも対応しています。

自動運転車はセンサーで周囲を検知するため、通信を制限されるトンネル内は相性のよくない環境です。高度なマッピング技術により、トンネルを通過できるヨーロッパ最初、かつ唯一の自動運転公共交通機関となりました。

昼夜を問わず、あらゆる気象条件下で時速50kmまでの運行を目指しており、バス停に停車したり、乗客の乗降管理をしたり、信号機を通過したりするなど、これまで人間の運転手が行っていた作業を自律的に実行しています。速度と交通面の課題への対応の両方に関して世界的リーダーともいえます。

自動運転バスの導入により、マイカー依存の低減と公共交通の再活性化が進行しています。特にスタヴァンゲル市では短距離ルートでの定期運行が実現し、市民の日常の買物など移動習慣を変えつつあります。

このプロジェクトは、単なる技術実証ではなく、公共交通の再活性化、交通安全の向上、運転手不足への対応といった社会的課題の解決を目指すものです。さらに、高齢者や障がい者を含む、すべての市民が安心して移動できる都市交通の実現を目指しており、社会包摂・生活支援・都市政策の象徴的な取り組みとして位置づけられています。

AIを駆使した自動運転バスは、人と都市をつなぎ直す未来の交通インフラであり、みんなが安心して暮らせるスマートシティの可能性を推進する上で欠かせない存在となっています。

こうしたノルウェーのような取り組みが拡がることで、日本でもスマートシティ構想の推進や物流の自動化などを後押しすることになるのではないでしょうか。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年7月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。