AIが「おいしい」を発明する、チリ発フードテック

2025年9月18日

国内流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:AI/フードテック/植物ベース/代替

フードテックのイメージ画像

動物性食品に代わる魅力的な商品を開発するフードテック企業が、世界で話題を呼んでいます。AIを駆使して“本物の味”を再現する企業が脚光を浴びる中、その代表格とも言えるチリ発のフードテック企業NO社です。

動物性食品を避ける人が増えてきた

大豆ミートのイメージ画像

まずは、動物性食品について考えてみましょう。動物性食品とは、動物から得られる食品のことであり、肉、魚、卵、乳製品などが含まれます。

健康志向の高まりや、動物や環境への意識の向上などにより、ヴィーガン(動物性食品を一切摂らない完全菜食主義者)やベジタリアン(肉や魚を避ける菜食主義者)だけではなく、動物性食品の摂取をできるだけ減らす「フレキシタリアン」も加わり、植物ベースの食生活を選ぶ人が増えています。

こうした流れの中、伸びているのが肉や乳製品の代替品に対する需要です。

日本で伸びているのが「大豆ミート」です。大豆タンパクを加工して肉のような食感にしており、ひき肉・ブロック・フィレなどの種類があります。

スーパーで販売しているメーカーのほか、飲食店、さらには学校給食・病院食として展開しているメーカーもあります。

市場は国内中心。大豆ミートの食感や味付けは何度も試作を重ねて改良され、食品メーカーも試行錯誤しています。味の再現は「人の舌」と「経験」に頼っています。

それに対し、チリ発のフードテック企業NOの最大の武器は、AIを活用した商品開発にあります。

その中核を担うのが、Giという名のAIです。AIでレシピを設計するため、例えば「牛乳の味」に近づけるためにパイナップルやキャベツを組み合わせるなど、人間の直感では導き出せない組み合わせを提示します。

この他、開発スピードが圧倒的に速い、味の再現性が高く、グローバル展開しやすいという大きな特徴があります。

世界で注目される代替ミルクのブランド

代替ミルクのイメージ画像

NO社は2015年、チリの首都・サンティアゴで誕生しました。植物由来のマヨネーズベンダーの元創業者がリーダーとなり、米国のハーバード・ビジネス・スクールで出会ったコンピューター科学者と植物遺伝学者の2人を誘って、3人で設立しました。

同社は急速に成長し、2021年にはチリ初のユニコーン企業となりました。ユニコーン企業とは創業10年以内で、10億ドル以上の評価額が付けられている非上場のテクノロジー系のベンチャー企業のことです。

ちなみに、チリは近年、スタートアップ支援やテック分野への投資が活発で、ラテンアメリカの中でも特に技術革新に積極的な国として注目されています。

NO社が最初に開発したのが植物ベースの代替ミルクです。先述したように「牛乳の味」に近づけるために、パイナップルやキャベツだけではなく、エンドウ豆、ココナッツなど複数の植物をベースとしているのが特徴で、初めて飲んだ人の多くが、そのクリーミーな味わいに驚くということです。

2020年11月からは米国に進出。まずはスーパーのWFで販売を開始しました。これには全脂タイプ(Whole)と脂肪分2%の低脂肪タイプ(2% Reduced Fat)の2種類があります。

2020年当時は、代替ミルクを展開するスウェーデンの企業や、大麦プロテインを使ったミルクを開発している米国オレゴンの企業とも競合しましたが、2021年には後述するように二大支援者を獲得し、取り扱い店舗は全米で3,000店舗以上にまで拡大しました。

現在、米国ではNO社が一人勝ちの状況です。2024年には主要スーパーで販売されるようになり、全米で1万6,000店舗以上に展開。無糖バニラ(砂糖不使用の植物性バニラ風味ミルク)やバリスタ向け商品(ラテ、カプチーノなどに泡立てて使う植物性ミルク)も加わり、代替ミルク市場での存在感をさらに強めています。

米国だけではなく、カナダ、メキシコ、ペルー、コロンビアなどの国々に足場を築いています。2021年にAM社とSS社の創業者から支援を受け、米国市場での拡大を加速しています。

NO社のCEOは「消費者が、従来の牛乳と同等の味や機能を持つ植物性ミルクを求めるようになっていることを、私たちは日々の反応から強く感じています。人々は、自分の食が健康や地球に与える影響を意識し始めているのです」と語っています。

動物性バーカー、代替チキンなども商品化

代替チキンのイメージ画像

これまでは「フードテック」と聞くと、遺伝子組み換えや培養肉のような「生物学的に加工された食品」を思い浮かべる人がたくさんいました。

しかし、フードテックの定義はもっと広く、NO社のGiという名のAIを使った植物性食品の開発もその一つに挙げられます。

Giを活用することで、動物性食品に置き換わる理想の植物原料をすばやく特定し、さまざまな原料をマッチングすることで、植物性でありながら動物性食品と同じ味、食感、機能を持つ食品を作り出しています。

代替ミルクに加えて、動物性バーガー、代替チキンなど、さまざまな植物由来の製品を販売しています。
動物性バーガーは、ハンバーガーチェーンのBKで販売されています。代替チキンは、米国の小売店で展開されており、ラテンアメリカではファストフード・チェーンとの提携が進んでいます。

コーヒーチェーンのSTではサンドイッチに、ドーナッツチェーンのDDでは朝食メニューに使用されています。

有名ブランドとのB2B展開も加速

植物由来のシェイクのイメージ画像

NO社はグローバルな展開に加え、外食チェーンや食品ブランドとの共同開発を軸としたB2B展開により、食品業界のDXを加速させています。

注目すべき事例の一つは、2022年5月に米国の人気バーガーチェーンSSと提携し、植物由来のチョコレートカスタードとミルクシェイクを共同開発したことです。代替ミルクを使用して従来の乳製品に近い味と食感を再現しています。

2022年秋には、ニューヨークとフロリダの10店舗限定でテスト販売。乳製品に敏感な消費者やヴィーガンへの対応と、味・食感の検証した後、2023年以降、全米展開を段階的に開始しています。こうした動きの背景には、顧客からの強いニーズがありました。

「そのニーズに応えようと、Sでは商品開発に何年もかけて取り組んでいました。それが、AIを活用して4カ月で作成できたのです」とNO社のCEOは言います。

数年かかるのが当たり前だった従来の開発期間を数カ月に短縮したことで、世界の大手消費財メーカーとのB2B展開も加速中です。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年8月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。