補助金申請に必要な「事業計画書」の作成ポイント

2025年9月18日

国内流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:補助金/補助金申請/事業計画書/中小企業基盤整備機構

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中小企業にとって、補助金は新規事業の立ち上げや設備投資、人材育成などを支える重要な資金源です。しかし、申請には「事業計画書」の提出が求められ、これがハードルとなっている経営者も少なくありません。ここでは、補助金申請に必要な事業計画書の作成ポイントを、初心者にも分かりやすく解説します。

はじめに~補助金の流れ~

助成金は要件を満たして申請すれば原則受給できるものが多いですが、補助金は要件を満たして申請しても必ずもらえるわけではありません。複数の外部有識者による申請書類の「審査」があり、補助金の交付に値するものが「採択」され、「交付決定」を経て、事業の終了後に補助金が「交付」となります。その後も年1回、事業化状況の「報告」が義務づけられています。

「事業計画書」は、「審査」において審査員に「この事業は支援する価値がある」と納得してもらい、「採択」されるための重要な書類となります。

「事業計画書」とは?

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「事業計画書」とは、企業が「これから何をするか」「どうやって実現するか」を体系的にまとめた計画書です。補助金申請においては、以下の目的で使用されます。

  • 事業の目的や背景を説明する
  • 補助金の使途と効果を明示する
  • 実現可能性を示す(収益性・持続性など)
  • 経営者の意欲や姿勢を伝える

一貫性や具体性、実現性のある「事業計画書」は、経営の羅針盤としての役割も果たします。そして、PDCAサイクル(計画→実行→評価→改善)を意識した経営に取り組むことで、単なる申請書類ではなく補助金以上に経営の助けになる可能性があります。

補助金申請における「事業計画書」の構成

補助金の種類によってフォーマットは異なりますが、「事業計画書」では一般的には以下のような構成が求められます。

「事業計画書」の一般的な構成項目

STEP 項目 内容 ポイント
1 事業の概要 事業名、実施期間、場所、目的などを記載 簡潔に全体像を伝える
2 背景と課題 業界の動向、自社の現状、課題、事業の必要性を説明 社会的・経済的な背景を整理し、統計や地域の状況を盛り込むと説得力アップ
3 事業の内容 具体的な取り組み、スケジュール、体制など 実行可能な計画であることを示すことが重要、図や表を使うと審査員も理解しやすい
4 期待される効果 売上・利益の向上、雇用創出、地域貢献など 数値で示すと説得力アップ
例:「売上が前年比20%増」「新たに3名雇用」など
5 補助金の使途 使途の明細、自己資金とのバランス 補助金の使い道は明確に記載し、補助対象外の費用は記載しないよう注意
6 収支・資金計画 売上予測、コスト構造、資金調達方法 事業の採算性を示し、収支が赤字にならないように現実的な計画を策定
7 リスクと対応策 想定されるリスクとその対策 リスクを無視せず、冷静に対応策を記載することで審査員からの信頼度が高まる

作成時のポイント

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審査員は、「事業の社会的意義があるか?」「実現可能性があるか?」「補助金の使い方が適切か?」「事業の持続性があるか?」といったポイントで申請書類の審査をしています。

そのため、「事業計画書」の作成時には、特に以下のポイントに留意しましょう。

1.目的と背景を明確に

「なぜこの事業を行うのか?」という問いに、明確かつ納得感のある回答を示すことが重要です。補助金は「社会的意義のある事業」に対して支給されるため、単なる売上拡大ではなく、地域貢献や雇用創出などの視点を盛り込むと効果的です。

2.数字で語る

審査員は「期待値」ではなく「予測値」を求めています。感覚的な表現ではなく、統計や市場調査に基づいた具体的な数値を用いて説明することで、説得力が増します。例えば、「売上が増える見込みです」ではなく、「〇という分析データに基づいて試算すると、△年後には売上が□%増加し、利益率が◇%改善する見込みです」といった形です。

3.補助金の使い道を明確に

審査員は、「このお金が適切に使われるか」「事業の成果につながるか」を重視しており、使途が不明確だと不採択の可能性が高まります。設備投資費、広告宣伝費、人件費、外注費など、費目ごとに金額を記載し、補助金と自己資金の割合や補助対象・対象外の区別も示しましょう。

4.実現可能性を示す

過去の実績、社内体制・人材、資金計画の妥当性、スケジュールの現実性、外部連携・支援体制など、「この事業は本当に実行できるのか?」という審査員の疑問に対して納得できる根拠を示すことが重要となります。

5.読み手を意識する

審査員には、申請した事業が含まれる業界について詳しくない人がいる可能性もあります。また、審査員は、限られた時間で「事業計画書」を読み、公平な評価をする必要があります。そのため、「背景→課題→解決策→効果」の論理的な構成を意識した上で、長文や回りくどい表現、専門用語を避け、図表や写真を積極的に活用するなど、分かりやすい表現を心掛けましょう。どんなに良い事業でも、伝わらなければ採択されません。

採択事例から学ぶ「事業計画書」のポイント

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(独)中小企業基盤整備機構の運営する「補助金活用ナビ(https://seisansei.smrj.go.jp/)」では、各種補助金の概要や補助金のメリット、補助金を活用する際の注意点などの情報の他に補助金の活用事例を掲載しています。
申請が採択された企業の事例を学ぶと、どのような視点が審査員に評価されたのかが明らかになり、自社の事業計画をよりよい内容にするヒントが得ることができるでしょう。

補助金の採択事例

企業名 業種 内容
ramen BIRDMAN ラーメン店 完全独学で鶏白湯ラーメンを追求し続けた夫と代表者である妻が、地域に根ざしたラーメンブランドを確立のため、事業拡大に向けて「小規模事業者持続化補助金」を活用し、セントラルキッチンを導入
株式会社ブランカッセ ケーキ店 後継者が事業を引き継ぐ際に事業計画を策定し、店舗の改装と内部設備の導入に「事業承継・M&A補助金」を活用、事業承継から2年間で事業の大幅拡大と生産性向上による働き方の改善に成功
合同会社アイリスバリー 放課後等デイサービス 子供たちの受け入れ数の増加にともないスタッフの事務作業も増加し、子ども達の支援に充てる時間の確保に悩む経営者が、「IT導補助金」を活用して支援記録や請求管理が可能なITツールを導入し、事務作業を効率化

出典:(独)中小基盤整備機構「補助金活用ナビ」

これらの事例に共通するのは、「具体性」「実現性」「独自性」の3点であり、これらの視点に注目して採択事例を学ぶことが自社のよりよい「事業計画書」作成につながります。

また、中小企業庁は、商工会議所や金融機関、認定支援機関などを通じて、「事業計画書」作成の支援を行っています。これらの事例の一部にも記載されていますが、第三者の視点を取り入れることで、「事業計画書」に磨きがかかります。

「事業計画書」作成の際のお役立ちツール

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中小企業庁が推奨する以下のツールは、事業計画書の構想段階で非常に有効です。

1.SWOT分析

自社の強み(Strength)、弱み(Weakness)、機会(Opportunity)、脅威(Threat)を整理することを目的としており、事業の背景や課題、戦略の根拠を明確にするために使います。

2.経営デザインシート

経営デザインシートは、内閣府が提供している「これからの経営(ビジネス)をデザイン(構想)するためのツール(フレームワーク)」です。

(参考:https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/keiei_design/index.html
事業の目的・価値・提供方法・収益構造などを一枚にまとめることで事業の全体像を整理し、計画書の構成を考える際に役立ちます。

また、(独)中小企業基盤整備機構は、企業の財務データを入力するだけで自社の経営状況を分析できる「経営自己診断システム」というツールを提供しています。200万社以上のデータと比較することで、自社の強みや弱みを把握できます。
(参考:https://k-sindan.smrj.go.jp/

以上、補助金申請に必要な「事業計画書」の作成ポイントについて解説させて頂きましたが、補助金申請における「事業計画書」は、単なる申請書類ではなく、企業の未来を描く設計図です。

しっかりと準備し、誠実に作成することで、補助金の採択だけでなく、経営の質の向上にもつながります。「伝わる事業計画書」を目指して、一歩ずつ取り組んでいくことが大切です。

(文)田中イノベーション経営研究所
中小企業診断士 田中勇司
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年8月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。