広がる宿泊税の導入と課題

2025年10月22日

国内流通トピックス

■業種・業態:宿泊業  
■キーワード:宿泊税/条例制定/政令指定都市

宿泊税のイメージ画像

外国人観光客の増加に伴い、全国の自治体で「宿泊税」の導入が進んでいます。観光業の持続可能性を支える財源として期待される一方で、課税の対象や使途の不透明さに対して、地元住民の間に戸惑いや疑問の声も広がっています。制度の拡大が進む今、宿泊税の位置づけと課題を改めて整理する必要がありそうです。

多くの自治体で急速に導入が進む

日本地図のイメージ画像

宿泊税とは、ホテルや旅館の宿泊者に対し、1人1泊当たりの宿泊料金に応じて100~1,000円(2025年9月現在)を課税する、自治体が定める地方税です。国ではなく、都道府県や市町村などの自治体が、条例に基づいて独自に運用しています。

共同通信が2025年夏に実施した宿泊税に関する調査では、32都道府県の92自治体が新たに導入を検討していると回答しており、オーバーツーリズム対策を背景に、制度の拡大が進んでいることが明らかになっています。

全自治体の96%に当たる1,723自治体が回答しており、すでに導入済み、または導入を予定している自治体は、合わせて42に上ります。

自治体で抱えている3つの課題

自治体のイメージ画像

宿泊税に関する自治体の主な課題の声も挙がっていて、次の3点にまとめられます。

1.使途の明示が必要

納税者が納得できる使途の明示が必要。宿泊税の納税者は利用者であり、地元住民とは異なりますが、税収の使い道が不透明だと、地元住民の理解が得られにくいようです。

宿泊税は地方税法に基づく法定外目的税であり、観光振興や受入環境の整備など、使途が限定された目的税として位置づけられています。導入自治体では、税収を活用した事業の内容や成果を公式サイトなどで定期的に公開するなど、透明性の確保に努めています。

2.事務負担の懸念

宿泊税だけでなく、すでに主要温泉地の多くが導入済みの「入湯税」は、事前決済には基本的に含められず、現地での支払いが原則となっています。税金の性質上、宿泊事業者が「預かり金」として徴収し、自治体に納付する仕組みになっているため、宿泊代は事前カード決済でも、宿泊税・入湯税はチェックアウト時に別途支払いをしなければなりません。

領収書が必要な宿泊客には、「宿泊税○○円」「入湯税○○円」と明記しなければならず、自治体への納付を含めて、徴収・報告業務が煩雑になります。
この対応策として、自治体が補助金制度を設ける動きが全国で広がっています(詳細は次回で説明)。

3.条例制定と国の同意

宿泊税を導入するには、宿泊事業者や観光協会など関係者と意見交換を行い、地元住民の理解と合意形成をするという調整を図る必要があります。その上で、自治体が条例案の策定をし、議会に提出して審議・可決。さらに総務省への申請と同意取得、導入後には徴収システムの整備などが求められます。宿泊税のような地方税の条例制定には、一定の時間と段階的なプロセスが必要というわけです。

宿泊税を徴収する宿泊事業者は条例に基づき、特別徴収義務者の登録が必要になります。実際には、市内に住所がある場合は登録不要など、登録を省略できるケースがあり、自治体ごとに異なります。例えば京都市では「市内に住所がある場合は登録不要」として自動的に特別徴収義務者になり、事業者の所在地や宿泊料金の水準によって登録の要否が分かれます。

宿泊税って、誰のためのもの?

考えてる男女のイラストのイメージ画像

自治体が外国人観光客の増加に対応して、観光業を継続させていくには、外国人観光客の受け入れ環境の整備と地域資源の開発が不可欠です。多言語対応の案内表示・観光案内所の機能強化、無料Wi-Fi・キャッシュレス決済の普及、SNSやインフルエンサー活用で海外誘客するなどデジタルマーケティングの強化、ハラール・ヴィーガン対応など食習慣への配慮も必要とされています。

さらに宿泊税は、観光によって生じる地域負荷への対策にも充てられるべきです。導入自治体では、交通整理員の配置、公衆トイレの改修、マナー啓発など、地元住民の生活との調和を図る施策が進められています。

宿泊税は、自治体が条例に基づいて独自に課すことができる法定外目的税であり、このような観光振興など特定の目的に充てることを前提としています。しかし、実際には一般会計に組み込まれるため、使途が不透明になりやすいという課題があります。
特に、財政難の自治体では、地元住民が「宿泊税が赤字補填に使われるのでは」といった懸念が生じやすくなります。

また、宿泊税は地域や宿泊料金によって異なりますが、基本的には宿泊者全員に課されます。外国人観光客を主な対象とした制度であるにもかかわらず、日本人宿泊者にも課税されます。特に観光目的でない出張や、冠婚葬祭・通院などで近隣のテルに泊まることを想定すると、「実質的な値上げだ」と納得しづらいという声もあります。

政令指定都市の特権を活かした仙台市

仙台市のイメージ画像

宿泊税は導入する自治体が自由に制度設計できるため、異なる税の仕組みがとられています。その前に、政令指定都市について触れておかなければなりません。

政令指定都市は、地方税法の特例により、道府県税の一部を市が課税できる立場にあり、「併課」モデルを制度的に選択できる唯一の自治体区分です。一般市町村では「単課」または「連携」モデルのみが選択可能であり、制度的自由度には差があります。

政令指定都市の特権である併課モデルを活かして、宿泊税の制度が設計されたのが仙台市です。
仙台市と宮城県はそれぞれが条例設定して、2026年1月から課税する予定です。仙台市の宿泊事業者は、宿泊税として1日1人当たり6,000円以上の宿泊料金に対し、300円(仙台市200円+宮城県100円)を徴収し、両自治体に分けて申告・納税します。

一方、仙台市以外の市町村は、同様の宿泊料金に対し、300円(宮城県分のみ)を徴収し、宮城県に一括申告・納税します。

宮城県内で突出して観光客を集めている仙台市が、「県と市がそれぞれの役割を持ち、税も別々に徴収する」という併課を採用したのは当然ともいえます。

宿泊事業者の処理は面倒になるため理解を得るのは大変ですが、制度の見直しや税率の変更の自由度が増します。仙台市の条例には「施行後3年を目途に見直し」という規定があり、税率変更の余地を残しています。

札幌市は北海道と連携

北海道地図のイメージ画像

札幌市は仙台市とは異なり、北海道との「連携」モデルで宿泊税を折半します。2026年4月から導入予定で、1人1泊当たりの宿泊料金に応じて段階的に課税されます。

  • 2万円未満:300円(札幌市200円+北海道100円)
  • 2万円以上5万円未満:400円(札幌市200円+北海道200円)
  • 5万円以上:1,000円(札幌市500円+北海道500円)

「道と市が連携して制度を一本化し、補助も折半する」ので、札幌市の宿泊事業者は札幌市役所に納めれば、道税は市が代理納付することになっています。

北海道では外国人観光客が多い倶知安町とニセコ町が先行して導入していることもあり、まずは道内の主要観光地を中心に制度の普及を図ろうとしたと考えられます。

制度設計のアプローチが仙台市とはまったく違うのが面白いところです。この違いが、次回説明する補助金にも表れてきます。

一般市町村にも広がる宿泊税導入

他の政令指定都市でいえば、京都市は市単独で導入済みで府は未導入。熊本市も市単独で条例制定し、2026年7月施行予定です。

政令指定都市ではなく、一般の市町村でも独自に宿泊税条例を制定し、総務大臣の同意を得て制度化することは可能です。北海道では、前述したように倶知安町とニセコ町が導入済みで、2025年12月には赤井川村が導入予定(詳細不明)です。

2026年4月の道税導入に合わせて、倶知安町は札幌市と同じように、宿泊事業者は倶知安町役場に納めれば、道税は町が代理納付することになっています。ニセコ町も連携モデルへの移行が予定されています。

税制度の具体的な設計要素

ホテルの部屋のイメージ画像

これまで見てきたように、宿泊税は、自治体の観光戦略や地域事情に応じて設計が異なるのが特徴です。主な違いは、税額の設定(定額制・定率制・段階定額)、免税対象(修学旅行や民泊、課税下限)、課税範囲(全地域か一部地域のみか)などに表れます。

なかでも「課税下限」は一定額未満の宿泊料金には課税しないという免税点の制度です。例えば大阪府では、制度改正前は「1人1泊当たり7,000円未満は非課税」で、2025年9月に「5,000円未満は非課税」へと課税対象枠が広げられました。高価格帯の宿泊者への配慮や、徴収事務の効率化を目的としています。

2002年に全国で初めて宿泊税を導入した東京都では、1人1泊当たり1万円未満の宿泊には課税していません。ビジネス利用や冠婚葬祭などでの宿泊への配慮が見られます。

なお、東京都の宿泊税は都内全域に適用されていますが、伊豆諸島・小笠原諸島は課税対象外です。観光振興の重点地域が都市部にあることや、徴収・納税の事務負担が大きくなること、さらに離島振興法など別の支援制度が存在することが背景にあります。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。