宿泊税の導入におけるレジ改修と補助金の関係
2025年10月22日
国内流通トピックス
■業種・業態:宿泊業
■キーワード:宿泊税/レジ改修/補助金/ブランド価値

宿泊税の導入は、制度設計だけでは完結しません。現場で徴収を担う宿泊事業者にとっては、レジ改修や帳票設計など、実務負担が現実の課題となります。自治体による支援の整備が、制度の受容性と納得感を左右する鍵となっています。
宿泊税導入とレジ改修の必要性
宿泊税の導入にあたっては、宿泊事業者の実務負担が避けられず、自治体による支援策の整備が急務となっています。特に徴収業務に直結するレジシステムの改修は、制度対応の要となる部分です。
まず、宿泊税の徴収に対応するためには、既存の会計システムや予約管理システムなどPMS(Property Management System:ホテル管理システム)に対して、以下のような改修が必要になるケースがあります。
1.現地での税徴収
OTA(Online Travel Agent:オンライン旅行代理店)による事前決済ではなく、現地での税徴収になるため、チェックイン時の説明や二重請求の防止策が求められます。
2.領収書の分離発行
宿泊料金と宿泊税、入湯税を明確に分けて記載する必要があり、帳票設計の見直しが必要です。
3.課税方式の複雑化
税額の設定(定額制・定率制・段階定額)、免税対象(修学旅行や民泊、課税下限)、課税範囲(全地域か、一部地域のみか)などの判定処理が求められます。
4.月次報告や納税申告に対応する帳票出力機能の整備
自治体ごとの様式に合わせたデータ管理が必要です。小規模施設では手書き対応も可能とされていますが、実務的には限界があり、人的ミスや対応漏れのリスクが高まります。特に複数のOTAと連携している施設では、自動処理が可能なレジ・PMSの改修が不可欠です。
補助金制度の拡充と自治体の考え方
宿泊税を徴収する宿泊事業者の負担に対して、自治体が補助金制度を設ける動きが全国で広がっています。補助金の申請の際には、宿泊事業者には条例に基づき、特別徴収義務者として登録していることが条件になります。
2026年1月から300円の課税を開始する宮城県では、最大150万円(補助率10/10)の支援制度を宮城県(仙台市以外を対象)と仙台市がそれぞれ導入。レジ改修・構築、PCやプリンターなどハードウェア、POSレジなどの導入・改修、ソフトウェアが対象となっています。仙台市以外の宿泊事業者は、宮城県に申請することになっています。
2026年4月から課税を開始する北海道でも、北海道と札幌市がそれぞれ同じ対象で、最大50万円(補助率1/2)の支援を用意しています。札幌市の宿泊事業者は、北海道にも申請書を作成する必要はありますが、まとめて手続きすることが可能となっています。
導入済みの倶知安町でも、従来の「宿泊料金の2%」から「3%」への引き上げに伴い、北海道の補助金が使うことができます。
倶知安町は補助金制度を設けていませんが、宿泊事業者に「宿泊税特別徴収義務者徴収奨励金」を交付しています。宿泊税を宿泊者から徴収して町に納めるという実務を担う宿泊事業者に対して、その協力への報奨として支払う制度です。現行では、宿泊税収の2.5%相当額が奨励金として、申請に基づいて交付しています。2026年2月宿泊分から2031年2月まで特例として3.5%を交付する予定です。
岐阜県高山市や下呂市では、2025年10月からの宿泊税の導入予定に伴い、仙台市と同じ内容で最大100万円(補助率10/10)の支援を用意しています。
島根県松江市などでも同様の補助制度を導入しており、宿泊税対応のシステム整備を後押ししています。
宿泊税は、徴収制度そのものよりも、現場の実務設計と支援制度の整備が納得感を左右する要素です。補助金制度の拡充は、制度の受容性を高めるうえで不可欠であり、自治体ごとの設計思想が色濃く反映される部分でもあります。
税率設計と観光地のブランド価値
現在、複数の自治体で宿泊税制度の改定も進んでいます。日本では「横並び」や「前例踏襲」が安心材料になりがちで、宿泊税を最初に導入した東京都の100円と200円という安い段階定額を採用しているところが多いのが実情です。
しかし、観光地としての魅力や課題は自治体ごとに異なります。
宿泊税の納得感は、課税対象の価格帯と制度設計の整合性によって左右されます。特に高額宿泊者への段階課税は、税の公平性と地域還元の意義を伝えるうえで有効です。
京都市では、2026年3月から宿泊料金1人1泊当たり10万円以上の場合に、1万円の宿泊税を設定する予定です。オーバーツーリズム対策などに充てるため、上限額を1万円に引き上げることにしたようです。
税率区分は5段階の定額制を採用し、1人1泊当たり6,000円未満の場合は200円、6,000円以上2万円未満は400円、2万円以上5万円未満は1000円、5万円以上10万円未満は4,000円と、観光都市としてのブランド価値と税率が見事に連動する設計になっています。
ちなみに現在は、2万円未満の場合は200円、2万円以上5万円未満は500円、5万円以上は1,000円です。
京都市では税収の用途を明確に宣言しています。「国際文化観光都市としての魅力向上」など、2025年度以降は、観光地の混雑緩和、地域文化の保全、案内表示の多言語化などにも力を入れ、観光客と地元住民の双方にとって快適な環境づくりが進められています。
国際リゾートとしての独自路線と課税設計
国際リゾートとしての独自性と課税自主権を強く打ち出しているのが、北海道倶知安町とニセコ町です。北海道が2026年4月から課税を開始することで今後、税率は変わりますが、2019年の導入時から俱知安町は1人、1部屋または1棟の宿泊料金(食事料金などを含まない素泊まり料金)の2%の定率制を採用しています。
ニセコ町は2024年11月から5段階の定額制を採用しており、1人1泊当たりの宿泊料金10万円以上の場合に2,000円の宿泊税と、独自の路線をとっています。5,000円以下の場合は100円、5,001円以上2万円未満は200円、2万円以上5万円未満は500円、5万円以上10万円未満は1,000円としています。
どちらも外国人観光客をメインの客とする高額宿泊施設が多いため、税収の主力は中〜高価格帯の宿泊客からの徴収となります。これにより、観光地としてのブランド価値と税負担が連動し、地域の魅力向上や観光インフラ整備に使える財源として機能しています。
特にニセコ町では、富裕層向けのヴィラやコンドミニアムが増加しており、1泊10万円を超える宿泊料金が珍しくありません。段階定額制によって価格帯に応じた税負担が設計されており、地域の持続可能な観光政策と財源確保が両立されています。
倶知安町も同様に、国際的なスキーリゾートとしての整備が進む中で、定率制による税収の安定性と、道との制度調整による実務負担の軽減が意識されています。
SNSと住民感情、調整財源としての宿泊費
外国人観光客の動向に大きく影響を与えるのがSNSです。観光客の増加を歓迎する声は、多く見られます。しかし、ボーダーラインを越えると、地元住民からの苦情が急増します。ゴミの放置、騒音、生活道路の混雑、無断撮影など、生活空間への侵入が問題化するケースもあります。最近ではスーツケースの無断放置が社会問題となっています。
このような現象は、SNSによって突然増大する人の流れや行動パターンが引き起こすものであり、従来の観光施策では対応が難しい側面があります。
宿泊税のような制度は、調整財源として機能する可能性があります。税収を活用して案内表示の整備、マナー啓発、生活空間との境界づくりなどを進めることで、観光と地元住民生活の調和を図ることができます。
以上、宿泊税は、自治体によって徴収制度が異なりますが、そのことよりも、ホテル旅館の現場の正確性の担保と業務負担の軽減、そしてお客様に対してスムーズな接客が出来るようにシステムを整備することがサービス品質だけでなく、お客様の納得感を左右します。そのためには、レジシステム等の管理システムの整備が求められます。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

