韓国発・AI肌診断、美容から医療へ

2025年10月22日

海外流通トピックス

■業種・業態:小売業  
■キーワード:AI肌診断/美容/医療/スマホ

化粧水を顔に付けている女性のイメージ画像

美容大国・韓国で生まれたAI肌診断が、美容領域を超えて医療分野へと拡大しています。ソウルのビューティテック企業、LU社開発したこの技術は、スマホによるリアルタイム解析から、皮膚疾患の予測まで対応。肌の状態を数値で可視化できるようになっています。

LU社のAI肌診断ソリューション

接客する女性たちのイメージ画像

まずは、LU社の歩みから説明しましょう。
ソウル市にあるLU社は、S電子の社内ベンチャーを経て2017年に独立しました。

その翌年に開発したのが、AI肌診断ソリューションです。デバイスを使って顔の画像データを取得し、AIで解析して、それぞれに適した化粧品を推薦します。

最初は鏡型の肌診断機でした。鏡を見るという自然な動作から始まり、2019年には手に持って肌に向けるガンタイプを開発。測定の精度と操作性が高まり、使い方も変わりました。

20cmほど離れた位置から顔に向けると、カメラや距離センサー、光モジュールなどを用いて、照度を補正しながら表面の状態を読み取ります。

測定された肌データは、ディープラーニング技術によって解析され、シワ、ニキビなど7つのカテゴリーで採点。その結果をもとに、AIが気候の変化なども加味しながら、最適と思われる化粧品を選び出します。この間、十数秒に過ぎません。

2019年には、ソウルの明洞(ミョンドン)の百貨店1階などにある売場に「AIビューティーストア」をオープン。

AI肌診断を通じて、個々の肌状態に合った化粧品を提案。提案した商品はその場で購入可能としたのです。ユーザーは、自分の肌の健康状態について貴重なアドバイス得ることができ、情報に基づいたスキンケアを提案してもらえるようになったのです。

その後、2024年には、ソウルの東大門(トンデムン)に初の無人売場をオープン。AI肌診断ソリューションを誰でも体験でき、その肌分析をもとにしたおすすめの化粧品が出てきて、希望すれば、その場で決済から配送サービスまで利用できるようになっています。

スマホへのAI肌診断へ拡大

スマートフォンのイメージ画像

LU社がスマートフォンでのAI肌診断に本格的に取り組み始めたのは、2024年後半から2025年初頭にかけてのことです。

2024年8月のベルギーに本社を置くSP社との技術提携を契機に、肌分析がモバイルへと拡張し始めました。

SP社はマルチスペクトルイメージング技術の専門企業として国際的に知られています。

マルチスペクトルセンサーとは、簡単にいえば、従来のRGB(赤・緑・青)カメラの3色だけでは捉えられない複数の波長帯の光(スペクトル)を捉える技術で、これにより色素沈着、血流、水分量などの生体情報を含む光の成分が検出できるようになります。

SP社はベルギーの研究機関からスピンオフした企業で、同社のセンサーは、スマホカメラに使われる小型・低消費電力のイメージセンサー技術、CMOSベースで製造されており、スマホカメラとの技術的な接続性が高く、導入が容易です。

LU社のAI解析とSP社のマルチスペクトルセンサーが技術的に統合したことで、「肌の状態を見える化する」だけでなく、スマホで専門機器レベルの診断が完結する構造が整ったというわけです。

スマホ診断は新たな導線として整備されつつありますが、これまでのAI肌診断もソウル・東大門の無人店舗をはじめ、クリニックや個人のエステティックサロンで導入が進んでおり、利用環境に応じた柔軟な診断が可能になっています。

2025年1月以降、LU社のWebサイトでは、AI肌診断がスマホでできるようになっています。また、9月中旬からは専用アプリによる診断を開発中とのことです。

AI肌診断でわかること

鏡を見る女性のイメージ画像

LU社のAI肌診断は世界200万人以上の肌データを学習済みであり、スマホによるAI肌診断は、肌の色や顔立ちだけではなく、性別にも左右されず、全人種・全肌タイプに対応します。

まず、LU社のサイトで名前や電子メールアドレス、生年月日や国などを入力してプロフィールを完成させます。

その後、スマホのカメラが自動で起動し、画面上にガイド枠(顔の位置合わせゾーン)が表示されます。顔を枠内に収めると、AIが即座に肌状態を解析。

日焼け止めの使用時間などの質問に答えると、約10秒で9項目の診断結果が表示されます。分析するのは、次の9項目です。

LU社のスマホによるAI肌診断でわかる9つの肌分析

英語 日本語訳 肌の説明
winkles シワ 深さ・分布・密度を解析、加齢や乾燥の影響を分析
pores 毛穴 毛穴の開き・黒ずみ・詰まりの状態を検出
trouble 肌トラブル ニキビ・赤み・炎症などの異常を識別
pigmentation 色素沈着 くすみ・シミの濃度と面積を測定
dark circles クマ 目元の影・くすみ・血流低下を検出し、疲労や睡眠不足との関連性を探る
redness 赤み 血流による紅潮の分布と強度を解析し、敏感肌を評価
sebum 皮脂 テカリ・分泌量・分布を測定し、肌タイプの判定に活用
glow ツヤ 水分量・光の反射率・滑らかさを統合
texture キメ なめらかさ・凹凸・均一性を解析

これらの項目をそれぞれ10点満点で評価し、部位別に丸で囲んで可視化されます。

また、乾燥肌、脂性肌、混合肌、敏感肌など肌タイプに応じたスキンケアアイテムを提案。例えば、保湿重視の美容液、皮脂コントロール化粧水などが表示されます。

ユーザーの肌状態が“施術向き”と判定された場合、例えば、色素沈着や深いシワなどが検出された時には、AIが「医療機器によるケアが適している」と判断し、クリニック機器を提示する仕組みです。

そうした施術が受けられる整形外科、美容皮膚科などともリンクしていて、Webサイトから予約もできるようになっています。

世界も認めるAI肌診断

AI肌診断のイメージ画像

LU社は、肌データ取得からAI解析アルゴリズム、可視化システムまでを一貫して自社開発している、世界でも稀有なビューティテック企業です。

現在では、皮膚疾患と疾患予測にも業務を拡大し、国内外の有数の大学病院や研究機関と共同で、アトピー、乾癬(かんせん)、白斑(はくはん)など写真や肉眼では判断が難しい慢性皮膚疾患を対象に、AIによる診断・予測技術を開発しています。

米ラスベガスで開催される世界最大級の電子機器見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」では、2019年から4年連続でイノベーション・アワードを受賞。AIによる肌診断技術の革新性が、国際的な評価基準を超えて認められています。

さらに2024年には、LVグループ が主催するスタートアップ支援プログラムに選定され、国際展示会で紹介されました。ラグジュアリーブランドが求める技術水準に達していることの証明ともいえるでしょう。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。