コロナ禍、コスト高を乗り越えてV字回復を図るカフェ業界
2025年10月22日
国内流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:カフェ/二流立地/フードメニュー/Z世代/お茶カフェ

一口にカフェと言っても、日本全国には大手チェーンから地域に密着した小規模チェーン、個人経営の喫茶店まであります。
2020年にはコロナ禍の影響で市場規模が前年の7割以下にまで縮小しましたが、2022年以降は一転して回復基調となり、市場規模は右肩上がりで拡大しています。
コンビニのコーヒーをはじめ異業種との競合も激化し、コスト高にも直面する中、市場拡大の背景の一つにあるのが、新タイプの個性的なコンセプトカフェが各地にオープンし、話題を提供していることです。そうした新時代のカフェのトレンドを見ていきます。
コロナ後のカフェ市場が見せる「明」と「暗」
2025年3月に帝国データバンクが「街の喫茶店で倒産が急増している」という見出しで、調査結果を発表しました。記事によると、2023年度を上回るペースで、過去最多だった2018年を超える可能性もあるとのことでした。
コーヒー豆や小麦粉、乳製品などの原材料価格のほか、エネルギーコストや人件費その他の店舗運営コストが大きく増加していることが要因と考えられます。
しかし、コロナ禍で著しく縮小したカフェ業界の市場規模は2022年から回復基調にあります。過去3年の間、市場規模そのものは着実な足取りで回復を見せています。
そうしたなかで、コロナ後の新しい時代を迎えたカフェ業界の店舗戦略は、どのような方向に向かうのでしょうか。
いくつかの事例を通して見えてきたトレンドを解説します。
<図表1>カフェ業界の市場規模推移
新たな価値を提供する「体験型カフェ」と「感動型カフェ」
近年、業界内外で注目を集め、成功事例も目に付く「体験型カフェ」。これはコーヒーなどのドリンクやフードの提供だけでなく、来店客に特別な体験やユニークなサービスを提供するカフェのことで、コンセプトカフェとも呼ばれています。
例えばシェフと一緒に調理の過程を体験し、できあがった料理を自ら楽しめるというサービスを売りにするカフェ。
また世界のボードゲームをドリンクとともに楽しむボードゲームカフェ。さらに、ドリンクを楽しみながらゆったりと陶芸やアートの創作活動にいそしむアート&クラフトカフェも登場しています。
それらは顧客の「飲食する楽しさ」を増幅し、ティータイムに新たな価値を提供する業態です。
一方、そうした本格的な「体験型カフェ」とは少し違いますが、ちょっとした「感動」や「驚き」を店舗で体験できるカフェが増えています。
一例を挙げると、世界的なリゾート地をモチーフにして、駐車場から店内随所に至るまで、それが感じられる設計を施したカフェ。
ここでは店舗の外観や空間づくり、そして様々なインテリアにまで、来店客の目を惹きつけるものを用意しています。
店の価値を高めるには、空間にコストをかけなければならないというのが、同店のコンセプトのひとつ。それらを見ることによる驚きが「感動」となり、次回は「2時間待ちでも利用したい」と思うのです。
また「感動型カフェ」には、あえて店舗ごとにレイアウトを変えているケースもあります。それぞれの店が、地域に合った個性を発揮するように設計されているのです。
チェーンストア理論に従えば、均一の店舗仕様によってコストダウンを図らなければなりません。
しかしその会社では、個々の店舗の立地や客層に応じた店づくりで「感動」を最大化することを優先しているのです。
一等エリアの二流立地への出店
近年、「一等エリアの二流立地」が改めて注目を集めています。
地域の一等地に店を構えれば、地域最大の集客力を確保することが容易になります。しかし人の流れの多い一等エリアの中心部は賃料が高く、また店舗づくりや運営の自由度が低い場合が少なくありません。
そのため以前から、今後伸びていこうという新しい店や若い経営者の多くが、「一等エリアの二流立地」にまず出店しました。
すなわち、集客力の高いエリアの中心部から脇道へ1本入った立地への出店です。その場所で顧客を増やしていき、ついに一等エリアの一流立地に店を構え、地域一番店になった小売店や飲食店の例が全国に見られます。
現在、何度目かのブームを迎えている「横丁」も、「表通りから横に入った細い道」であり、その起源は終戦直後、全国で同時多発的に始まった「闇市」にさかのぼります。
闇市は当時の食糧管理法に触れる違法行為でしたから、表通りで堂々と行うわけにはいかず、横丁で営まれたのです。
ところが最近、資金力豊富な大手外食チェーンが、集客力の高いエリアの中心部ではなく、あえて一本裏に入った通りに積極的にカフェを出店しています。その立地の方が、周囲の景観を気にせずにコンセプトを体現した店づくりがしやすいからだそうです。
また結果として、大通りから一本裏に入ることで家賃が低く抑えられるケースが多いので、その分、空間にコストを掛けることができます。コスト増加による利益圧迫が続く中、「一等エリアの二流立地」はますます注目を集めていくでしょう。
フード店とのコラボで「新しい日常体験」を提案
フードメニューを強化拡充するカフェが増えています。コーヒーの原材料などの高騰により、利益確保の必要に迫られているという事情もあるでしょう。
一方で、カフェオーナーの多くには、ドリンクを中心とする「新しい日常体験」を提案するために、フードメニューの拡充が必要不可欠だという考えもあります。
スイーツなども人気専門店とのコラボで、シェフパティシエ監修のケーキを提供するカフェが増えているのです。
また、セルフサービス型カフェや従来型喫茶店の多くが、季節の素材を使った新たなフードアイテムや、店オリジナルのメニューを取り入れています。
2024年のカフェにおける夕食時の1人当たり平均支払金額は、ファストフード店の約1.8倍と、決して低額ではありません。
とはいえ、ファミリーレストランよりも安く、フルサービスレストランの7割程度の金額です。
そのため、節約志向が高まる昨今では、カフェでの食事は美味しくて手頃な夕食の選択肢として、存在感が高まっているのです。
「お茶カフェ」ブームが定着へ
コーヒー豆(アラビカ種)の価格は、いずれ値下がりすると言われながら、依然としてコロナ前の数倍で高止まりしています。そのため日本中のカフェの収支構造が急速に悪化しています。
そこでカフェ事業者の多くが目を向けたのが、比較的原価が安定し、しかも日本で昔から広く愛飲されてきた「お茶」でした。お茶は緑茶や麦茶、抹茶、ほうじ茶、麦茶、紅茶など種類が多く、それぞれの味や香りの違いも明確です。
また健康志向の流れにマッチしていて、美容にも効果が期待できるなど、メリットの多さが際立った食品だと言えるでしょう。
紅茶の専門店事業を新たにスタートさせたカフェの大手チェーンでは、集客力の弱かった20~30代女性の取り込みを狙ったといいます。
実際に、紅茶や抹茶をメーンに据えた「お茶カフェ」は、Z世代(およそ1997年~2012年頃に生まれた世代)や若い女性に人気があります。
特に彩の映えるフルーツやミントなどを加えた紅茶などはSNS映えすることから、そうした世代の人たちの心を掴み、すでに人気が定着したと言えるでしょう。
このようにカフェ業態は、経営環境が大きく変化する中でも、立地や店作り、提供商品の革新を続け、 新しいカフェ楽しみ方を提供し、新たな顧客の開拓に成功しています。
(文)流通ジャーナリスト 渡辺米英
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年9月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

