ロスを減らして利益を増やす!
POSデータに基づく「仕入れ・在庫計画」

2025年11月20日

国内流通トピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:POSデータ/売上分析/在庫回転率/ロス削減

電卓を操作しているイメージ画像

昨今、飲食店の経営者の皆さんが頭を悩ませているのが、仕入れコストの上昇です。メニュー変更や値上げも必要と言われますが、以前より重要な課題の一つと言われているのが「食材ロス」です。POSデータを活用することで、仕入れ・在庫の適正化をはかり無駄を減らすための計画作りについて解説いたします。

なぜ食材ロス削減が重要なのか

野菜のイメージ画像

食材ロスは、直接的な利益の損失だけでなく、仕入れコスト、保管コスト、廃棄コストという三重の負担を店舗にもたらします。一方で、過度な在庫削減は品切れによる機会損失を招き、お客様の信頼を失うリスクもあります。

<食材ロスの実態>

飲食店の平均ロス率:5〜10%
月間売上300万円の店舗の場合で計算すると

  • 食材費(原価率30%):90万円
  • ロス率8%の場合:7.2万円/月の損失
  • 年間損失:86.4万円

この損失を削減することは、実質的な利益増加に直結します。POSデータを活用した正確な需要予測により、適正在庫を維持しながらロスを最小限に抑えることが可能になるのです。

POSデータによる需要予測の基本

検索のイメージ画像

曜日別販売傾向の分析

まずは、過去のPOSデータから曜日別の販売傾向を把握しましょう。

居酒屋「A店」の曜日別売上分析例(過去3ヶ月平均)

曜日 平均客数 平均売上 売上指数 主力商品販売数
月曜日 45人 13.5万円 75 刺身盛り合わせ 15皿
火曜日 52人 15.6万円 87 刺身盛り合わせ 18皿
水曜日 60人 18.0万円 100 刺身盛り合わせ 22皿
木曜日 68人 20.4万円 113 刺身盛り合わせ 25皿
金曜日 95人 28.5万円 158 刺身盛り合わせ 38皿
土曜日 88人 26.4万円 147 刺身盛り合わせ 35皿
日曜日 72人 21.6万円 120 刺身盛り合わせ 28皿

売上指数の計算式

売上指数 = 各曜日の平均売上高 ÷ 基準日(水曜日)の売上高 × 100
この分析により、金曜日が最も忙しく、月曜日が最も静かであることが分かります。この傾向を仕入れ計画に反映させることが重要です。

時間帯別販売パターンの把握

次に、時間帯別の販売パターンを分析します。

カフェレストラン「B店」の時間帯別分析例

時間帯 客数比率 売上比率 主力商品 販売個数/日
8:00~11:00 15% 12% モーニングセット 25個
11:00~14:00 40% 45% ランチセット 80個
14:00~17:00 10% 8% デザートセット 15個
17:00~21:00 35% 35% ディナーセット 55個

この分析から、ランチタイムに集中的に食材を消費することが分かり、生鮮食材の配送タイミングや在庫保管方法を最適化できます。

売れ筋・死に筋商品の特定方法

アルファベットのイメージ画像

ABC分析による商品分類

POSデータを活用してABC分析を実施し、商品を重要度別に分類します。

イタリアンレストラン「C店」の商品分析例(月間データ)

ランク 商品名 販売数 売上金額 累積売上比率 在庫回転率
A マルゲリータピザ 450枚 54.0万円 25% 30回
A カルボナーラ 380皿 53.2万円 49% 28回
A ペペロンチーノ 320皿 38.4万円 66% 26回
B シーフードピザ 180枚 25.2万円 78% 15回
B ボロネーゼ 150皿 22.5万円 88% 12回
B サラダセット 200食 14.0万円 94% 20回
C 限定メニューA 45皿 6.75万円 98% 3回
C 季節メニューB 30皿 5.4万円 100% 2回

ABC分類の基準

  • Aランク:累積売上比率70%を占める商品(重点管理)
  • Bランク:累積売上比率70〜90%の商品(通常管理)
  • Cランク:累積売上比率90〜100%の商品(簡易管理または廃止検討)

在庫回転率の計算と活用

在庫回転率の計算式

在庫回転率 = 月間販売数 ÷ 平均在庫数
※平均在庫数:(月初在庫数+期末在庫数)÷2

具体例:マルゲリータピザ

  • 月間販売数:450枚
  • 平均在庫数:15枚分の材料
  • 在庫回転率:450 ÷ 15 = 30回

在庫回転率が高い商品ほど、鮮度管理が重要であり、小まめな発注が必要です。

適正在庫量の計算方法

①発注点と安全在庫の設定

適正な在庫量を維持するため、発注点と安全在庫を計算します。

②発注点の計算式

発注点 = リードタイム中の消費量 + 安全在庫

③安全在庫の計算式

安全在庫 = 安全係数 × 需要の標準偏差(経験値で設定など) × √リードタイム

具体例:牛肉の在庫管理
基礎データ
  • 1日平均使用量:5kg
  • リードタイム:2日(発注から納品まで)
  • 需要の標準偏差:1.2kg
  • 安全係数:1.65(欠品許容率5%)
計算
  • リードタイム中の消費量:5kg × 2日 = 10kg
  • 安全在庫:1.65 × 1.2kg × √2 = 2.8kg
  • 発注点:10kg + 2.8kg = 12.8kg ≒ 13kg

牛肉の在庫が13kgを下回ったら発注することで、欠品リスクを5%以下に抑えながら、過剰在庫を防ぐことができます。

季節変動を考慮した在庫計画

季節による需要変動を予測に組み込むことも重要です。

カフェ「D店」のアイスコーヒー需要分析例

販売杯数 前月比 季節指数 翌月予測
4月 1,200杯 - 80 -
5月 1,650杯 137% 110 1,800杯
6月 2,100杯 127% 140 2,400杯
7月 2,700杯 129% 180 2,850杯
8月 2,850杯 106% 190 2,550杯

季節指数の計算式

季節指数 = 各月の販売量 ÷ 月平均販売量 × 100
この分析により、夏季に向けて段階的に仕入れを増やし、8月以降は減少に備えることができます。

実践的な仕入れ計画の立て方

野菜を持った男性のイメージ画像

週次仕入れ計画の作成手順

①翌週の需要予測

来週の予測客数と売上を算出します。

レストラン「E店」の翌週予測

曜日 過去平均客数 天候補正 イベント補正 予測客数 予測売上
月曜 45人 ×1.0 ×1.0 45人 13.5万円
火曜 52人 ×0.9(雨予報) ×1.0 47人 14.1万円
水曜 60人 ×1.0 ×1.2(近隣イベント) 72人 21.6万円
木曜 68人 ×1.0 ×1.0 68人 20.4万円
金曜 95人 ×1.0 ×1.0 95人 28.5万円
土曜 88人 ×1.0 ×1.0 88人 26.4万円
日曜 72人 ×1.1(晴天予報) ×1.0 79人 23.7万円
合計 480人 - - 494人 148.2万円
②商品別必要量の算出

予測客数から各食材の必要量を計算します。

主要食材の必要量計算

食材 1人当たり使用量 予測客数 必要量 現在庫 発注量
牛肉 150g 250人分※ 37.5kg 8kg 30kg
鶏肉 180g 200人分※ 36kg 12kg 25kg
野菜ミックス 100g 494人 49.4kg 15kg 35kg
パスタ 80g 180人分※ 14.4kg 5kg 10kg

※メニュー注文率を考慮した予測数

③発注タイミングの最適化

食材の特性に応じて発注タイミングを調整します。

食材カテゴリー 賞味期限 発注頻度 発注曜日 納品日
生鮮魚介類 1~2日 週3回 月・水・金 翌日
精肉類 3~4日 週2回 火・金 翌日
野菜類 5~7日 週2回 月・木 翌日
乾物・調味料 1ヶ月以上 月1回 月末 翌々日

ロス削減の具体事例

回転寿司のイメージ画像

(事例1)回転寿司チェーン「F店」の改善例

改善前の状況

  • 月間売上:800万円
  • 食材費率:35%(280万円)
  • 食材ロス率:12%(33.6万円)
  • 主な問題:見込み発注による過剰在庫

POSデータ活用による改善策

  • 時間帯別販売分析による仕込み量の最適化
  • 人気ネタ・不人気ネタの明確化
  • 賞味期限の短いネタの提供時間帯制限

改善後の成果(3ヶ月後)

  • 食材費率:32%(256万円)
  • 食材ロス率:5%(12.8万円)
  • 月間削減額:44.8万円
  • 年間削減効果:537.6万円

具体的な改善数値

項目 改善前 改善後 削減額
マグロ廃棄 15kg/月 5kg/月 6万円
サーモン廃棄 12kg/月 4kg/月 4.8万円
その他魚介 20kg/月 8kg/月 7.2万円
シャリ廃棄 30kg/月 10kg/月 1.2万円

(事例2)フレンチレストラン「G店」の在庫管理改革

改善前の課題

  • 高級食材の廃棄が多い
  • 仕入れ担当者の経験と勘に依存
  • 日によって品切れが発生

データ分析に基づく改善施策

  • コース料理の予約データと連動
    予約数 × コース別食材使用量 = 必要最低限の仕入れ量

単品料理の需要予測

  • 過去4週間の曜日別販売実績
  • 天候・イベントによる補正
  • 予測精度:85% → 95%に向上

改善後の成果

  • 食材ロス率:18% → 6%(12ポイント改善)
  • 月間食材費:180万円 → 169.2万円
  • 月間削減額:10.8万円
  • 年間削減効果:129.6万円

以上、少々難解なところもあるかもしれませんが、POSデータ活用の有効性をご理解頂ければと思います。

株式会社横浜マネジメントコンサルティングJPS
中小企業診断士 江草 和彦
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。