都市の即戦力を支えるギグワーカー配置

2025年11月20日

海外流通トピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:ギグワーカー/AI/人材配置/スキル

さまざまな職種の人々が並んでいるイメージ画像

米国では2015年から、企業と労働者をつなぐ大手プラットフォームがAIによるマッチング制度を導入し、地元で即戦力として働けるギグワーカーの仕組みを整えてきました。

評価制度や報酬体系を含む仕組みにより、米国・カナダで700万人以上の働き手がネットワークされています。

離職率が高い飲食店、ホテル、エンタメ業界

店員のイメージ画像

米国労働統計局(BLS)の「雇用動態調査(JOLTS)」によれば、2025年8月時点で最も離職率が高いのはレジャー&ホスピタリティ業界で、月次4.8%、年間換算で57.6%に達しています。

この業界は、飲食・宿泊(ホテル、レストラン、バー、カフェなど)と、アート・エンターテインメント(映画館、劇場、博物館、スポーツ施設など)の2部門に分かれていて、どちらも月次離職率は4.8%と高水準で並んでいます。

土木などを除いて次に多いのが小売業。飲食業ほど過酷な印象は持たれにくいのですが、月次は3.7%、年間換算で約44.4%に達しています。職務の分類が粗く、評価制度との連動が弱いため、離職率の高さが見えにくい構造になっています。

そして輸送・倉庫・公共事業が続き、月次3.3%、年間39.6%となっています。

これらはすべての雇用形態(正規雇用とパートタイムや短期契約などの非正規雇用)の自発的離職率であり、契約終了や解雇を含めれば、実質的な離職率は50%〜80%に及ぶとも言われています。

離職率が高い理由として、拘束時間の長さや給与水準の低さに加え、単調な作業や監視体制による精神的疲弊も挙げられています。

そこで使われているのが大手プラットフォーマーのA社です。例えば、飲食店で週末に追加のバーテンダーが必要なときや、小売店で店頭での試食PRを行うときの人材が欲しいときに「数時間〜数日単位の柔軟な人材供給」を可能にすることで、企業の急な人手不足と、働き手の希望する勤務時間の両立が図られているというわけです。

即戦力としてプロが活躍

スーツを着用した男性のイメージ画像

A社はレジャー&ホスピタリティ業界、倉庫向け人材だけではなく、現在では次のような仕事も扱っています。

<図表>A社が対応する業種と職務一覧

業種 主な職務例
飲食店・フードサービス ホール イベントサーバー、ランナー、ビュッフェ係、バーテンダー、バリスタ、バッシング係 接客・配膳・ドリンク提供など顧客対応
キッチン ラインクック、プレップクック、皿洗い 調理・準備・洗浄など、厨房内業務が中心
小売業 店員 一般的な接客・販売業務。商品説明や案内なども含む
ブランドアンバサダー 商品やサービスの魅力を伝えるPR担当。イベントや店頭での販促活動
マーチャンダイザー 棚の在庫、商品の並べ替え、商品の値札付け、商品の積み下ろし、店舗の清掃
カウンタースタッフ/レジ係 レジ業務やカウンターでの接客
イベント運営 受付、設営、撤収、チケット管理、案内
ホテル・観光施設 客室清掃、フロント、ベッドメイキング、バンケット、観光案内、予約手配
倉庫・物流 ピッキング、梱包、荷下ろし、在庫管理
製造業 ライン作業、検品、軽作業
清掃業務 商業施設清掃、ホテル清掃、イベント会場清掃
ヘルスケア補助 介護補助、食事配膳、施設内清掃
オフィスサポート データ入力、受付、ファイリング
教育関連イベント 試験監督、教材配布、会場設営

A社では飲食業の職務が非常に細かく分類されている一方で、小売業はかなりざっくりとした扱いになっています(イベント運営やホテル・観光施設、倉庫・物流、製造業も細かく分類されていますが、ここでは割愛)。

飲食業が細かく分類されている理由としては、次の3つを挙げることができます。

  1. 需要が高い:飲食店やイベントでの即戦力が求められる
  2. 職務が明確:バリスタ、バーテンダー、ラインクックなど、役割が分かれている
  3. 評価制度と連動しやすい:職種ごとにスキルや経験が数値化されやすい

日本のスキマバイトは、「空いた時間に初心者でも働ける」ことを前提に、気軽にスマホで応募できる仕組みが整っています。

一方A社は職務の明確さと評価制度の連動性を活かし、飲食業における即戦力の配置を支えています。

都市のニーズに即応する人材配置

スーツを着た2人の女性が会話しているイメージ画像

A社の主軸は、短期・臨時・季節・フルタイムのギグワーカーであり、企業が即戦力を必要とする場面で活用されています。

フルタイムといっても正社員ではなく、契約社員や業務委託の形態がほとんどです。

現在、同社はニューヨーク市やサンフランシスコ市を含む50以上の都市圏で事業を展開しています。

特にニューヨーク州、フロリダ州、テキサス州では拡大が著しく、都市のニーズに即応する人員配置が、さらなる成長を支えています。

ニューヨーク州では、ニューヨーク市を含むニューヨーク都市圏で活発に利用されています。ニューヨーク市は、ホスピタリティ(飲食、ホテル、イベント・エンターテイメントなど)・物流など、短期人材需要が非常に高い都市です。

フロリダ州は観光・イベント・リゾート業が盛んで、年末年始や春休みなどホリデーシーズンの季節ごとに人材需要が急増するため、短期集中型の人材配置が求められます。その需要とともに、マイアミ市・タンパ市・オーランド市間では、人材の流動が活発になっています。約25%の労働者は「地元に十分な仕事がない」ために移動しています。A社の柔軟なシフト設計が機能しているようです。

テキサス州は、ダラス市やヒューストン市、オースティン市など、物流拠点が多く、熟練労働者の需要が高くなっています。A社のデータによれば、都市間の移動が活発で、ダラス市が最大の人材吸引都市として記録されています。

企業とギグワーカーはWin-Winなのか?

人材カードのイメージ画像

企業では、A社を活用することで、必要なタイミングでギグワーカーを迅速に配置できます。求人、面接、給与計算、訓練などの業務は自動化されており、短期・臨時・季節・フルタイムの人材を柔軟に確保できる構造になっています。

ギグワーカーは、自身のスキルとスケジュールに合った高給シフトを選び、A社を通じて働くことができます。登録時には職歴の記載と身元調査が行われ、職場の安全性が担保されます。仕事終了後には企業と相互評価を行い、次回以降のマッチング精度が高まる仕組みとなっています。

ギグワーカーに対する評価制度では、勤務態度やスキルに加えて「ノーショー(無断欠勤)」の有無も記録されます。企業にとっては、事前に評価を確認することで、ドタキャンのリスクを回避できる構造です。ギグワーカー側も、評価が高ければ再雇用の機会が増える一方で、ノーショーが記録されると仕事が回ってこなくなるため、責任感が求められる仕組みとなっています。

A社では、登録しているギグワーカーが700万人以上。募集に応じて実際に埋まった割合は93%、条件が合う人材が見つかる確率は90%を誇っています。

一部の企業では、SNSとA社を組み合わせた再雇用の仕組みを導入しています。あるフードデリバリー企業では、スキルや文化的に合う人材を再雇用し、「応募はA社から」とSNSで案内。米国のスタジアム運営企業や小売業者では、「次のイベントもA社経由で来てください」と訴え、過去に勤務した人材を再度呼び出す設計が採用されています。

ギグワーカーのデメリットとしては、顔写真が表示されることで外見重視になりかねない懸念があります。また、地元で同じ職務において評価の高い人材がすでに登録されている場合、登録しても仕事が回ってこないこともあります。

A社では、そうした人材に向けてトレーニング機能も提供しており、評価制度と学習機会が連動する構造が整えられています。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。