全国で整備が始まった宿泊税の導入と補助金
自治体別の制度のポイント

2025年11月20日

国内流通トピックス

■業種・業態:宿泊業  
■キーワード:宿泊税/補助金/POS/PMS

宿泊税のイメージ画像

宿泊税の導入に伴い、宿泊事業者の実務負担を軽減するための補助金制度が全国で整備されつつあります。その内容は自治体ごとに異なり、補助率・上限・対象経費など、わかりづらい場合もあります。

宿泊税の導入状況とともに、その補助金の内容についても、まとめました。

人気の観光地で導入が進む宿泊税

観光客のイメージ画像

宿泊税の導入には、宿泊事業者や観光協会との意見交換を経て、地元住民の理解と合意形成を図る必要があります。

その上で、自治体が条例を策定し、議会で可決。総務省の同意を得た後、徴収システムの整備なども求められます。

宿泊税を導入済みの自治体と、総務省の同意が報道された自治体について、公開資料をもとに一覧表として整理しました。

2026年10月導入予定の栃木県那須町まで含んでおり、宿泊税の導入済・予定では最新の情報になります(2025年10月現在)。表中の黄色で色分けしたところは「見直しあり」、オレンジは「補助金あり」としました。

表を見ると、2025年に入って、訪日外国人観光客数がコロナ禍前の水準を超えたことに伴い、宿泊税の導入が多くの自治体で進んだのがわかります。

愛知県と静岡県では、それぞれ県内初となる常滑市と熱海市が導入しました。

常滑市はセントレア空港を擁する交通の要所であり、熱海市は温泉や海鮮グルメなど多彩な魅力を持つ、人気が回復した観光地です。

大阪府は見直しをして、値上げに踏み切りました。さらに今年12月には県内初として青森県弘前市、島根県松江市と、導入が相次いでいます。

導入ラッシュは2026年も続きます。3月には京都市も見直しをして、日本で初めて1万円(宿泊料金1人1泊当たり10万円以上の場合)という宿泊税を導入する予定です。

さらに4月には訪日外国人客に人気がある北海道で導入。自治体の条例策定、総務省の同意も増えています。

表には入れていませんが、宿泊税の免除対象には、以下のような教育・保育関連の宿泊が含まれることが大半です。

  • 幼稚園・小学校から大学までの修学旅行・合宿・研究活動(引率者含む)
  • 保育所・認定こども園による宿泊を伴う公式行事(引率者含む)

補助金の要となるPOS・PMSの改修

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宿泊税の導入に伴い、宿泊事業者が対応すべき実務は多岐にわたります。特にレジシステム(POS)やホテル管理システム(PMS)の改修は、制度対応の要となります。

自治体の補助金制度では、以下のような機能整備が対象経費として認められるケースが多くなっています。

  1. 教育活動や保育行事など、課税免除となる宿泊を自動で判定する機能
  2. 宿泊者ごとに宿泊料金の免税点(例:5000円未満)を判定し、課税対象かどうかを判断したうえで、宿泊税額を自動算定する機能
  3. 申告書や月計表など、申告に必要な帳票を作成・出力する機能
  4. 帳簿や書類を備え付け、電磁的記録を含めて保存できる機能
  5. 領収書などに宿泊税の名称と税額を明記する印字機能

なお、補助金の申請には、宿泊事業者には条例に基づき、特別徴収義務者として登録していることが条件になります。

申請は1施設ごとに行いますが、同じ自治体に複数の施設がある場合は、まとめて申請できる自治体も多いようです。

なお、申請後にPOS・PMSの改修を行う必要があり、申請前に改修を行った場合は補助対象外となります。

宿泊税関連の補助金の内容

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POS・PMS改修のほか、補助金にはハード・ソフトウェア購入、券売機整備、パンフレットやホームページ修正も含まれる自治体もあります。

  • ハードウェア購入:PC・プリンタ・スキャナなどの物理機器
  • ソフトウェア購入:会計・予約・税対応などの実務アプリケーション
  • 券売機整備:宿泊税対応の自動化・非対面化支援
  • パンフレット・ホ―ムページ修正:周知・案内するための設計

愛知県常滑市、岐阜県高山市・下呂市、青森県弘前市、熊本県熊本市がこれらの経費をすべて負担し、補助率と上限ともに手厚いのが岐阜県高山市と下呂市です。

注目の大阪府、京都市、北海道

大阪の街並みのイメージ画像

ユニークな補助金を導入したのが大阪府、京都市、北海道です。補助金の表で緑色に色付けしました。

大阪府では、POS・PMS改修、ソフト購入のほか、専門家派遣制度を設けています。これは、レジ・PMSの改修や帳票設計、免税判定機能の導入などに関して、事業者が専門的な助言を受けられる制度です。

これらを含めた経費の2分の1を補助し、上限は宿泊施設の客室に応じて設定しています。

9室以下の小規模施設は5万円、10~29室は10万円、30~49室は30万円、50室以上は50万円となっています。申請はオンラインのみです。

高額な宿泊税の導入となった京都府では毎年度、奨励金のような補助金を交付しています。

2025~29年度までは「申告納入額×3.5%」、それ以降はその前の「申告納入額×3.0%」に戻る可能性はありますが、宿泊税を申告・納入する限り毎年、補助金が交付される設計です。

毎年7月頃に京都市から申請書兼請求書が送付され、8月末までに申請し、10月末に交付されることになっています。

POS・PMSなどのシステム整備費は対象外ですが、事務負担への補助として、継続的に支給されるのが特徴です。

大阪府や京都市では、見直しに伴い、補助金制度を新設・拡充しています。今後も「制度改定+補助金整備」という流れが続く可能性があります。

北海道では、北海道と自治体が折半で2分の1ずつを補助するようになっています。

手続きを行っている札幌市では、まとめて申請でき、それ以外は、自治体と北海道の2箇所に申請する必要があります。

倶知安町が特殊で、毎年度、奨励金を交付しています。京都市と同じように宿泊税収に応じて交付するようになっています。

2026年3月〜31年2月は「宿泊税収×3.5%」に引き上げ予定です。2026年2月までは「宿泊税収×2.5%」となっています。北海道による経費の2分の1の補助金も申請すれば受けられます。

2025年度以降の宿泊税導入で、補助金制度の発表が確認できなかったのは、北海道赤井川村、神奈川県湯河原町、岐阜県岐阜市、北海道留寿都村の4箇所です。

神奈川県湯河原町、岐阜県岐阜市、北海道留寿都村は宿泊税2026年導入のため、現時点では制度整備が途上と見られます。

一方、2025年11月導入の赤井川村については、補助金制度が設けられていない可能性が高いと推測されます。

赤井川村の宿泊税は、世界各国に展開する多国籍ホテル・ブランドであるクラブメッドやマリオット系ホテルなど、「キロロリゾート」系列の施設を主な課税対象としています。

これらを除くと小規模なペンションや民宿が多く、宿泊料金が8000円未満となるケースも少なくありません。免税対象となる宿泊が一定数見込まれることから、補助金制度を設けられていない背景がうかがえます。

対象施設が限定されている場合、補助金制度を設けずに導入の実務負担を抑えた構造は、他自治体にとっても有効な参考例となります。

まだ宿泊税を導入していない沖縄県などにとって、制度設計の一助となる可能性があります。

宿泊税制度一覧(導入予定を含む)

※黄色は見直しあり、オレンジは補助金あり

施行日 自治体名 宿泊料金(1人1泊当たり)・税率
2002年10月 東京都 1万~1万5000円未満:100円
1万5000円以上:200円
2017年1月 大阪府 7000~1万5000円未満:100円
1万5000円~2万円未満:200円
2万円以上:300円
2018年11月 京都府京都市(県初) 2万円未満:200円
2万~5万円未満:500円
5万円以上:1000円
2019年4月 石川県金沢市(県初) 2万円未満:200円
2万円以上:500円
2019年11月 北海道俱知安町(道初) 宿泊料金の2%
2020年4月 福岡県 200円
福岡県福岡市 2万円未満:200円(うち県税50円)
2万円以上:500円(うち県税50円)
福岡県北九州市 200円(うち県税50円)
2023年4月 長崎県長崎市(県初) 1万円未満:100円
1万~2万円未満:200円
2万円以上:500円
2024年10月 石川県金沢市 5000~2万円未満:200円
2万円以上:500円
2024年11月 北海道ニセコ町 5000円以下:100円
5001~2万円未満:200円
2万~5万円未満:500円
5万~10万円未満:1000円
10万円以上:2000円
2025年1月 愛知県常滑市(県初) 200円
2025年4月 静岡県熱海市(県初) 200円
2025年9月 大阪府 5000~1万5000円未満:200円
1万5000~2万円未満:400円
2万円以上:500円
2025年10月 岐阜県高山市 1万円未満:100円(小学生以下はすべて免税)
1万~3万円未満:200円
3万円以上:300円
岐阜県下呂市 5000円未満:100円(小学生以下はすべて免税)
5000円以上:200円
2025年11月 北海道赤井川村 8000円~2万円未満:200円
2万円以上:500円
2025年12月 青森県弘前市(県初) 200円
島根県松江市(県初) 5000円以上:200円
2026年1月 宮城県 6000円以上:300円
宮城県仙台市 6000円以上:300円(うち県税100円)
2026年3月 京都市 6000円未満:200円
6000~2万円未満:400円
2万~5万円未満:1000円
5万~10万円未満:4000円
10万円以上:1万円
2026年4月 北海道 2万円未満:100円
2万~5万円未満:200円
5万円以上:500円
北海道札幌市 5万円未満:200円
5万円以上:500円
北海道倶知安町 宿泊料金の3%
北海道小樽市、釧路市、北見市、旭川市、帯広市、音更町 200円
北海道函館市 2万円未満:100円
2万~5万円未満:200円
5万~10万円未満:500円
10万円以上:2000円
北海道富良野市、占冠村、留寿都村 2万円未満:200円
2万~5万円未満:300円
5万円以上:500円
北海道新得町 5000円未満:50円
5000~2万円未満:100円
2万~5万円未満:200円
5万円以上:500円
2026年4月 神奈川県湯河原町(県初) 5万円未満:300円(12歳未満は全免税)
5万円以上:500円
岐阜県岐阜市 200円(12歳未満は免税)
2026年4月 三重県鳥羽市 200円
広島県 6000円以上:200円
2026年6月 長野県軽井沢町 6000~1万円未満:150円(3年間は100円)
1万~10万円未満:200円(150円)
10万円以上:650円(600円)
長野県阿智村 200円
長野県白馬村 6000~2万円未満:150円(3年間は100円)
2万~5万円未満:350円(300円)
5万~10万未満:850円(800円)
10万円以上:1850円(1800円)
2026年7月 熊本県熊本市(県初) 200円
2026年10月 栃木県那須町(県初) 1万円未満:100円(12歳未満は全免税)
1万~2万円未満:300円
2万~3万円未満:500円
3万~5万円未満:800円
5万~10万円未満:1500円
10万円以上:3000円

出所:総務省報道資料一覧から宿泊税を抜粋(https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/

宿泊税対応補助金

※緑色は本文で補足

自治体名 対象経費 補助率 上限 申請締切
愛知県常滑市 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入、券売機整備、パンフ・HP修正 10/10(50万円)+1/2(超過分) 100万円 2025年12月26日
静岡県熱海市 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入、パンフ・HP修正 1/2 50万円 2026年1月31日
大阪府 POS・PMS改修、ソフト購入など 1/2 50室以上(50万円)など客室数で異なる 2026年2月28日(予算額に達し次第終了)
岐阜県高山市、下呂市 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入、券売機整備、パンフ・HP修正 10/10 100万円 2026年1月31日
青森県弘前市 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入、券売機整備、パンフ・HP修正 10/10 50万円 2025年11月28日
島根県松江市 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入 1/2 宿泊施設×25万円 2025年12月26日
宮城県(仙台市は除く) POS・PMS改修、ハード・ソフト購入 10/10 150万円(超過は事前協議) 2026年1月30日
宮城県仙台市 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入 10/10 150万円(超過は事前協議) 2026年1月30日
京都府 - 申告納入額×3.5% - 毎年8月末
北海道 POS・PMS改修、券売機整備、パンフ・HP修正 1/2 50万円 2025年12月26日
北海道札幌市、倶知安町、小樽市、釧路市、北見市、旭川市、帯広市、函館市、富良野市、占冠村、音更町、新得町 POS・PMS改修、券売機整備、パンフ・HP修正 1/2 50万円
三重県鳥羽市 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入 10/10 POSの50万円、ハードの20万円のどちらか 2025年8月~
広島県 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入 10/10 200万円(超過は事前協議) 2025年11月28日
長野県軽井沢町 POS・PMS改修 未設定 未設定 2025年10月~
長野県阿智村 POS・PMS改修 10/10 未設定 2026年1月30日
長野県白馬村 POS・PMS改修 10/10 未設定 2025年8月~
熊本県熊本市 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入、券売機整備、パンフ・HP修正 10/10(50万円)+1/2(超過分) 100万円 2026年2月28日
栃木県那須町 POS・PMS改修、ハード・ソフト購入 1/2 100万円 2026年1月13日~10月30日

出所:自治体の宿泊税に関する補助金のサイトから作成

(注)当レポートは、2025年10月20日時点のものです

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2025年10月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。