いま、製造業が直面する壁:人材不足・品質管理・DX化の遅れを乗り越えるには?

2025年11月27日

コラム

■業種・業態:製造業  
■キーワード:RFID/人材不足/品質管理/DX

この記事のポイント

製造業の主要課題に、少子高齢化による人手不足、熟練技術者の退職による技術継承問題があります。解決策として、グローバル人材の受入れと育成、QCD(品質・コスト・納期)の継続的改善、RFIDなどのデジタル技術の段階的導入が有効です。特に、全社的な戦略に基づく人材育成とデジタル活用の組み合わせが、持続的な競争力強化の鍵となります。

日本の製造業は今、大きな転換期を迎えています。原材料価格やエネルギー価格の高騰、労働力不足、物流コストの上昇、賃上げ要請―これらが複雑に絡み合い、現場の対応力が問われています。本記事では、これらの課題の中でも人材不足と技術継承に焦点を当て、現場で実践可能な解決策を紹介します。

製造業を取り巻く課題

製造業の課題解決に向けてタブレットでデジタルツールを活用する現場作業員たち

現在、日本の製造業は複数の課題に直面しています。経済産業省が厚生労働省・文部科学省とともに2025年に発表した『ものづくり白書2025』では、原材料価格やエネルギー価格の高騰、労働力不足、物流コストの上昇、賃上げ要請などが、事業に影響を及ぼす社会情勢の変化が指摘されています(p.14「図122-1」より筆者再構成)。これらの要因により、多くの製造業企業が課題を抱えている状況です。

特に深刻なのは人材不足の問題です。少子高齢化による構造的な人手不足に、団塊世代の大量退職による技術継承の問題が重なり、対策は急務です。

このような状況下では、QCD(品質・コスト・納期)を意識した業務設計だけでなく、技術継承の仕組みづくりに加え、デジタル技術の活用による効率化・省人化も求められます。人材不足への対応には、これらの要素をバランスよく組み合わせることが必要です。

深刻化する人手不足と技術継承の課題

製造業の技能継承問題に対応する熟練技術者による若手への実地指導風景

少子高齢化による構造的な人材難

製造業における人材確保は、年々困難さを増しています。特に技能工や生産工程に従事する職種では、採用活動が難航するケースも多く、人材確保に課題を抱える企業が増加傾向にあります。

この背景には、少子高齢化による生産年齢人口の減少という避けられない現実があります。加えて、団塊世代の大量退職により、長年培われてきた技術やノウハウが失われる「技術継承の危機」も進行しており、現場力の維持がますます難しくなっています。

さらに、日本の生産年齢人口は今後も継続的に減少することが予測されており、製造業はその影響を強く受ける産業の一つです。若年層の製造業離れも指摘されているように、従来の職場環境や働き方が、デジタルネイティブ世代にとって魅力的に映りにくいという課題も浮き彫りになっています。

このような状況を打開するためには、限られた人材で生産性を維持・向上させる仕組みづくりが不可欠です。一人あたりの生産性向上は、もはや選択肢ではなく、製造業が持続的に成長するための必須条件となっています。

人材不足の解決に向けて

グローバル人材の受け入れの現実と課題

人材不足の解決策として期待されるグローバル人材の雇用は増加傾向にあります。技能実習生や特定技能労働者の受け入れは、製造現場の人材確保に貢献をしています。

しかし、この取り組みにはいくつかの課題が存在することも事実です。まず、言語や文化の違いによるコミュニケーションの壁が挙げられます。作業指示書の多言語化など現場での意思疎通を円滑にするための環境整備が不可欠です。

また、仕事の進め方や価値観の違いによる認識のずれ、在留期間の制限による人材の流動性なども、安定的な生産体制の構築を難しくする要因となっています。

こうした背景を踏まえると、グローバル人材の受け入れにおいては、即戦力としての採用だけでなく、長期的な視点での育成が重要です。特に、安全教育や品質意識の共有といった業務の根幹に関わる部分では、文化的背景や経験の違いを尊重しながら、個々に応じた丁寧かつ柔軟な指導が求められます。

相互理解を深めて、グローバル人材が安心して能力を発揮できる環境を整え、持続可能な生産体制の構築につなげていくことが重要です。

デジタル技術を活用した技術継承システム

ベテラン技術者の退職が進む中、グローバル人材の育成には一定の時間を要するため、技術継承は製造現場における差し迫った課題となっています。

この課題に対して、現場ではデジタル技術を活用した実践的な取り組みが進められています。作業手順の動画化、AR(拡張現実)による遠隔指導、AIを活用した品質管理など、これまで人から人へ直接伝えていた技術やノウハウを、デジタルの力で共有しやすくする動きが広がっています。

ただし、すべての技術がデジタル化できるわけではありません。熟練者の感覚的な判断や微妙な調整といった領域では、直接的な対話や実地での指導が不可欠です。

人材不足が深刻化する中で、限られた人員でも技術を次世代に引き継げる仕組みづくりは急務です。デジタル技術を活用した効率的な継承と、現場での直接的な指導を組み合わせることで、技術の断絶を防ぎながら、製造業の基本であるQCD(品質・コスト・納期)の継続的な改善にもつなげていく必要があります。

QCD改善で競争力の強化

製造業における技術継承と人材育成の現場で管理職と若手作業員が連携する様子

技術継承の課題が深刻化する中、現場では熟練技術者の退職が進み、微調整や感覚的な判断に頼った品質維持が難しくなります。これまで経験に支えられていた工程も、再現性や安定性の観点から、標準化や仕組み化が求められます。

こうした状況では、技術を人から人へ伝えるだけでなく、組織として継承する仕組みが必要です。その対策の一つが、過去の不具合データや工程情報を活用し、設計段階から品質を作り込む「予防」の考え方です。FMEA(故障モード影響解析)やFTA(故障の木解析)などの手法を用いることで、リスクを事前に洗い出し、問題の発生を未然に防ぐ体制を構築することが可能です。

加えて、製造現場では作業の標準化やポカヨケの導入により、ヒューマンエラーの削減が進められています。AIや画像認識技術を活用した検査の高度化も、品質保証の精度向上に寄与しています。

品質を確保した上で、コストの最適化も経営判断の重要なポイントです。自動化や省力化によって生産性を高め、限られた人材でも安定した生産体制を維持できるようになります。初期投資と運用コストのバランスを見極め、投資対効果を最大化する視点が求められます。

納期対応力の強化も、競争力維持に欠かせません。生産リードタイムの短縮や段取り替え時間の削減により、小ロットでも採算が取れる柔軟な生産体制が構築できます。さらに、サプライヤーとの連携強化により、部品調達の最適化とサプライチェーン全体の効率化が図れます。

このように、技術継承とデジタル活用を両立させながら、品質・コスト・納期(QCD)のバランスを最適化することが重要です。

デジタル化・自動化の段階的導入

デジタル化の推進は、人材不足対策としても、競争力強化の面でも、避けて通れない道です。

しかし、現場の実情を無視した一括導入は、かえって混乱や反発を招く可能性があります。だからこそ、段階的な導入が成功のポイントとなります。まずは、紙の作業指示書とバーコードを組み合わせる、QRやRFIDで部品の入出庫を管理するなど、日常業務の延長で使えるツールから始めることで、現場の抵抗感を抑え、効果も実感しやすくなります。

製造現場の自動化も、効果の高い工程から順次進めることが重要です。単純作業、重量物の運搬、危険作業など、自動化のメリットが明確な領域から着手することで、投資対効果を高めることができます。

このような段階的なデジタル化・自動化の取り組みは、品質の安定化だけでなく、コストや納期にも良い影響を与えます。作業効率の向上により、リードタイムを短縮し小ロット・多品種生産にも対応しやすくなります。

現場に根ざした改善を積み重ねることが、技術継承とデジタル活用の両立を支え、持続可能なQCD向上につながります。

持続可能な改善サイクルの構築

日本の製造業は、原材料価格やエネルギー価格の高騰、労働力不足、物流コストの上昇、賃上げ要請といった複合的な課題に直面し、今まさに変革の岐路に立っています。外的要因への対応に追われるだけでなく、自社でコントロール可能な領域――人材育成の仕組みづくり、QCD(品質・コスト・納期)の地道な改善、そして現場に即した段階的なデジタル化――に取り組むことが、競争力を維持・強化する鍵となります。

特に、完璧な仕組みを一度に構築しようとするのではなく、小さな改善を積み重ねる姿勢が重要です。たとえば、紙の作業指示書に、QRやRFIDを組み合わせることで、工程の見える化や情報の蓄積が可能となり、将来的な品質管理や業務改善の基盤づくりにもつながります。

このように、現場の実情に合わせて段階的に仕組みを育てていくことが、持続可能な改善サイクルの構築につながります。厳しい環境が続く中でも、自社の強みを活かし、着実な改善を積み重ねることで、未来に向けた競争力を築くことができるはずです。本記事が、現場改善の方向性を決めるきっかけとなれば幸いです。

※当記事は2025年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。