居酒屋業界で集客のカギとなる「効果的なドリンク提案」
2025年12月22日
国内流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:居酒屋/スマドリ/飲み比べ/世界旅行
居酒屋業界の売上高は、ひところの大きな落ち込みから回復傾向にあるものの、コロナ禍以前のレベルには程遠いのが現状です。今後についても、若年世代のアルコール離れをはじめ、マイナス材料が少なくありません。
そうした中で居酒屋チェーン各社、各店舗にとって重要課題となるのが、アルコール類の「効果的なドリンク提案」の実践です。時代の変化に即した新鮮な提案が、新たな需要を掘り起こすーーこれは外食だけでなく全産業に言えることです。
居酒屋業界にとって閉塞感の強い現状ですが、中には新たな視点やダイナミックな店舗運営で、お客さまにとって魅力的な提案を実践している店や企業があります。そうした事例の一部をご紹介しましょう。
飲む人も、飲まない人も楽しめる提案を掲げる「スマドリ」象徴の店
近年、健康志向の高まりや、アルコールに対する捉え方、向き合い方の変化により、居酒屋業態においても効果的な対応の必要性が高まっています。ひとつの表れとして、ある大手ビールメーカーは数年前から「スマートドリンキング(通称、スマドリ)」を提唱。これは飲む人も飲まない人も楽しめる提案、すなわち「お酒の飲み方の多様性」の提案をコンセプトとする取り組みです。
日本にはお酒が飲める人が約4,000万人いますが、飲めない人や飲めるけれど飲まない人は、それを上回る約5,000万人いると言われています。宴会や飲み会の多くは、恐らく「飲む人」を主体に進められているでしょう。しかし多数派の「飲まない人」は、しぶしぶそれに従っている。そんなケースが多いかもしれません。
同社が目指すのは、そうした風潮を是正し、9,000万人全員がお酒とのいい関係を長く楽しめるような社会をつくること。その目的達成のために取り組んでいるテーマが、「多様性のある飲酒文化の創造」と「責任ある飲酒の推進」です。
同社は2022年6月、東京・渋谷にスマドリを象徴するバーをオープンしました。同店の開発テーマは「“みんなが主役”がいい」、「お酒の場を安心して楽しみたい」、「選べることは価値」の三つ。これらは、飲めない人へのマーケティングから導き出したといいます。
コンセプトを最も強く反映しているのが、やはりドリンクの提案です。すべてアルコール度数を0%、0.5%、3.0%の3種類で揃え、100種類以上をラインアップ。ノンアルコールと低アルコールで構成している点がポイントの一つです。
特に人気があるのはオリジナルカクテルのMarbling RainとMarbling Snow。
なかでも自家製クラフトレモネードとジン、炭酸水で作るMarbling Rainは見た目が可愛いカクテル。カラフルなわたあめを炭酸で溶かしながら飲むスタイルが受けて、若い女性から高く支持されています。
同店はモバイルオーダー活用によるデータ収集や、マーケティングの場としての機能も果たします。また渋谷区からサポートを受け、責任ある飲酒の啓発や町のパトロール、セミナーなどを実施。そうした様々な活動を通じて、取り組みテーマのひとつである「責任ある飲酒の推進」を実践しているのです。
メキシコの蒸留所でテキーラの魅力を実感し、ドリンク提案に注力
JR津田沼駅(千葉県習志野市)からすぐの場所に、30年以上地元客に親しまれているメキシコ酒場があります。同店では、ドリンク提案に力を入れながら専門性を深め、差別化に努めてきました。
同店が進めている差別化のポイントは、本格的であると同時にカジュアルであるということ。コロナやソルといったメキシコビールはもちろん、モヒートやカクテルなど多種多様なドリンクメニューを揃えています。
中でも注力しているのが、テキーラのドリンク提案。テキーラの飲み方といえば、何と言ってもショットです。しかし同店では、ゆっくりと味わうプレミアムテキーラの提案も重視しています。
日本で流通しているテキーラの9割近くが、原料のブルーアガベのほかにサトウキビのモラセス(廃糖蜜)などを使用しているミクストテキーラ。「下手に飲むと二日酔い」といったイメージがあるお酒です。しかしアガベを100%使用したプレミアムテキーラは、雑味がなく風味が豊か。初めての人でも飲みやすいのが特徴です。グラスを替えると口当たりが大きく変わり、ミクストテキーラのように塩やライムを必要としません。
同店の店長はテキーラマエストロの資格を取得しています。以前、あるテレビ番組でテキーラの知識に触れたのがきっかけで、メキシコで唯一のテキーラ蒸留所を訪問。実際に製造工程を見ることでテキーラの魅力を理解し、プレミアムテキーラの提供を始めたのです。
同店では徐々にプレミアムテキーラのラインアップを増やし、ウイスキーハイボールの次に来ると言われているテキーラハイボールも既に提供。テキーラカクテルも豊富に用意するなどドリンク提案に力を入れ、新しいテキーラ文化の発信拠点となっています。
150種類以上の中から、日本酒が苦手なお客も楽しめる提案を実施
北関東で最大の都市、栃木県宇都宮市は、「住みたいまちランキング」でも上位に入る注目度の高い都市です。食文化の面では、餃子消費量が全国でも上位の「餃子のまち」としても知られています。
そんな宇都宮市の魅力を発信している飲食店のひとつが、JR宇都宮駅西口を出てすぐの好立地に店を構える1軒の居酒屋。同店は2017年6月のオープン以来、地元客や出張などで訪れる県外からのお客にも、ドリンクの提案によって街の魅力を発信してきました。
同店が特に力を入れているのが日本酒です。通常のラインアップはなんと150種類以上。日替わりで「本日の3種利き酒セット」や「本日の厳選日本酒」などのメニューをつくり、日本酒が苦手という人でもその魅力が感じられる提案を続けています。
日本酒は、秋はひやおろし、冬は新酒といった具合に、季節に応じて楽しみ方が異なります。そこで同店では季節限定の日本酒にも注力。例えば2月には、希少性の高い地元栃木の「鳳凰美田 荒押合併 純米大吟醸」が入荷します。その他にも地元の美味しい日本酒を積極的に仕入れて、日本酒を通して地元の魅力の発信に力を注いでいるのです。
また同店は、日本酒だけでなく焼酎のラインアップにもこだわっています。特に希少性の高い銘柄の品揃えには定評があり、焼酎を目当てに来店する人も少なくありません。
開店以来、店のファンが着実に増えている大きな要因として、従業員が日本酒や焼酎のお薦めに努めていることが挙げられます。それを可能にしているのが、早くから導入しているモバイルオーダーです。導入後、お客は自分のペースとタイミングでオーダーができ、また従業員はお客とのコミュニケーションやドリンク提案に注力できるようになりました。
従業員はそうしたコミュニケーションを通じてお客の好みを把握し、おすすめの日本酒を紹介します。同店の従業員は自ら生産者を訪ね、その人たちの酒造にかける思いを理解しています。だからこそ、そのドリンク提案には説得力があり、注文につながるのです。
インバウンド客に提案する、日本酒の世界観を感じながらの飲み比べ
2024年11月、日本酒を広める発信基地づくりを目指して、東京・浅草に日本酒の体験施設がオープンしました。インバウンド客をターゲットにした同施設では、日本各地から厳選した50以上の銘柄からテイスティング(試飲)することができます。
来場者のお好みの銘柄探しをサポートするのは、英語対応の経験が豊富な専門スタッフ。説明を受けながら、様々な味わいの飲み比べを楽しむこともできます。テイスティングで気に入った銘柄の日本酒は、全てボトルで購入できる仕組みです。
同施設では2025年2月から、日本酒の三大銘柄のうちのひとつに数えられている銘柄にスポットを当てて、「3種飲み比べ体験」をスタートしました。世界中で親しまれている銘柄の世界観を感じながら、飲み比べできるプログラムにより、評価を得ました。
また6月25日から東京ビッグサイトで開催された「国際ウェルネスツーリズムEXPO」に出展。来場者向けの「日本酒3種飲み比べ体験」などのほか、海外団体来場者向けには国際唎酒師による日本酒ワークショップ・テイスティングや、夜限定で日本酒テイスティングし放題(2時間)などのイベントを実施し、実体験の場を設けて日本酒の美味しさや魅力を発信しました。
コロナ明けでインバウンド客が増加しています。海外からの旅行者は以前に比べ、日本のよさに対する理解度が高まり、目も舌も肥えています。ドリンク提案も、日本人以上の反応が得られるケースが増えてくるはずです。
「各国の樽生ビールで楽しむ世界旅行」というぜいたくな提案
大阪随一の商業集積地、梅田。その中心部にある大型商業施設「グランフロント大阪」の北館地下1階に、世界のビールを集めた大型飲食店がオープンしたのは2013年4月のこと。隣接して世界のワインを品揃えした店も開業しました。
11年後の2024年4月1日、両店舗はリニューアルを実施。ビールは樽生ビールの種類が大幅に増えて、最大30種類に。世界各国のボトルビールと合わせると、100種類以上のビールが揃います。リニューアル前にはなんと250種類以上を提供していましたが、リニューアルを機に、ボトルビールを支持の高い銘柄に絞るとともに、日本初輸入の銘柄も含め、樽生クラフトビールを充実強化したのです。
リニューアルのもうひとつのポイントが、ビールタップの増設です。それにより、ビールを注ぐところをよりいっそう間近で見ながら、ライブ感とともにビールを楽しむことができるようになりました。
また、各国のビールを少しずつ楽しみたい人には、「世界の樽生ビール5種飲み比べセット」を用意。ビールで楽しむ世界旅行という提案は、ぜいたくな楽しみと言えるでしょう。
隣接するワインの店では、スパークリングワイン6種類、赤と白のワイン各20種類、合計45種類のワインが、ボトルだけでなくグラスでも提供されます。リニューアルに伴い、各国のビールやワインに合う料理も充実しました。
以上、ライフスタイルが変わり、若者の酒離れが進み居酒屋になかなかお客様が戻ってこないという声が聞かれる中、新たなドリンク提案で集客力アップをはかる取り組みを紹介しました。
(文)流通ジャーナリスト 渡辺米英
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

