労働生産性を高める!POSデータで最適化する「スタッフシフト計画」
データに基づくシフト管理で人件費を最適化する
2025年12月22日
国内流通トピックス
■業種・業態:飲食店
■キーワード:労働生産性/人件費/飲食店経営/POSデータ活用
2025年10月より、全国的に最低賃金が引き上げられました。これは飲食店経営にとって避けて通れない大きな課題です。人件費は飲食店における最大のコスト項目のひとつであり、適切な管理なしでは収益を大きく圧迫します。
しかし、この状況を「コスト増」と捉えるだけでなく、むしろこれまでの「勘と経験」に頼った運営から「POSデータを活用したシフト計画」に基づく運営へ切り替える良い機会になると考えることもできます。
現代の飲食店経営に必要なこと
長年培ってきた経験や勘は飲食店経営において非常に重要です。お客様の表情を読み取る力、忙しい時間帯を予測する感覚、スタッフの能力を見極める目、これらは決してデータだけでは得られない貴重な財産です。
しかし、現代の厳しい経営環境ではそれだけでは不十分です。経験と勘を活かしながら同時にPOSデータを活用した「データ経営」を取り入れることで、より確実で持続可能な店舗運営が実現できるのです。
生産性向上とサービス品質の両立
人件費削減というと「サービスの質が落ちるのでは?」と心配される方も多いでしょう。
ここで目指すべきは、単なるコストカットではなく「生産性の向上」です。つまり無駄な労働時間を削減しつつ、本当に必要な時間帯には十分なスタッフを配置する。生産性向上とは、そうすることでお客様への接客やサービスの質を維持・向上させながら、同時に人件費を最適化することです。
労働生産性の基本概念
労働生産性とは、「従業員1人が1時間でどれだけの売上を生み出すか」を示す指標です。飲食店では「人時売上高」とも呼ばれます。
<計算式>
人時売上高 = 売上金額 ÷ 総労働時間
参考例:カフェA店の場合
- 1日の売上 20万円
- 1日の総労働時間 50時間(スタッフ全員の合計)
- 人時売上高 20万円 ÷ 50時間 = 4,000円
生産性向上の2つのアプローチ
生産性を向上させる方法は、計算式にヒントがあります。
アプローチ1:売上金額を上げる
- 客単価の向上
- 来客数の増加
- 回転率の改善
アプローチ2:労働時間を短縮する
- 無駄な待機時間の削減
- ピーク時間への人員集中
- 作業効率の改善
ここでは、「労働時間の短縮」に焦点を当てて解説します。
なぜ労働時間の短縮が重要なのか
ではここで、事例を紹介します。
ラーメン店B店では、最低賃金引き上げで大きな影響を受けましたが、人件費を削減することができました。
2025年10月以前
- 時給 1,050円
- 月間総労働時間 600時間
- 月間人件費 63万円
2025年10月以降(最低賃金5%アップ)
- 時給 1,103円
- 月間総労働時間 600時間(変わらず)
- 月間人件費 66.2万円(+3.2万円)
- 年間増加額 38.4万円
しかし、労働時間を最適化することで
- 時給 1,103円
- 月間総労働時間 570時間(30時間削減)
- 月間人件費 62.9万円
このように適切なシフト管理により賃金上昇をカバーしながら、さらにコスト削減も実現できました。
POSデータで見るべき3つの重要指標
シフト計画を立てる前に、まずPOSデータから以下の3つの指標を確認しましょう。
<指標1>時間帯別売上
見るべきポイント
- 1日を1時間または30分単位に区切った売上推移
- ピークタイムとアイドルタイムの特定
(例)定食屋B店の時間帯別売上(平日)
- 11:00-12:00:8.5万円(ピーク前)
- 12:00-13:00:12.0万円(最大ピーク)
- 13:00-14:00:6.5万円(ピーク後)
- 14:00-15:00:1.5万円(アイドルタイム)
- 15:00-17:00:0.8万円(最低)
- 17:00-18:00:2.0万円(ディナー準備)
- 18:00-19:00:9.5万円(ディナーピーク)
- 19:00-20:00:7.0万円
- 20:00-21:00:3.5万円
<指標2>時間帯別来客数
見るべきポイント
- 各時間帯の実際の客数
- 満席率・回転率
(例)定食屋C店の時間帯別来客数
- 12:00-13:00:85名(席数40席×回転率2.1)
- 14:00-15:00:12名(席数40席×回転率0.3)
- 18:00-19:00:68名(席数40席×回転率1.7)
ポイント 14:00-15:00は来客数がわずか12名。この時間帯に多くのスタッフを配置する必要はありません。
<指標3>現在のスタッフ配置と人時売上高
見るべきポイント
- 各時間帯の配置人数
- 時間帯別の人時売上高
図表① 定食屋C店の現状分析
| 時間帯 | 売上 | スタッフ数 | 総労働時間 | 人時売上高 |
|---|---|---|---|---|
| 12:00-13:00 | 12.0万円 | 5名 | 5時間 | 2.4万円 |
| 14:00-15:00 | 1.5万円 | 4名 | 4時間 | 0.38万円 |
| 18:00-19:00 | 9.5万円 | 4名 | 4時間 | 2.4万円 |
問題点の発見
- 14:00-15:00の人時売上高が極端に低い(3,800円)
- この時間帯のスタッフ配置に無駄がある
最適シフト計画の5つのステップ
<ステップ1>ピークタイムとアイドルタイムの明確化
- 過去3ヶ月のPOSデータから時間帯別売上を集計
- ピークタイム(売上の多い時間)を特定
- アイドルタイム(売上の少ない時間)を特定
判定基準の例
- ピークタイム:1時間あたり売上が平均の120%以上
- 通常時間:平均の80%〜120%
- アイドルタイム:平均の80%未満
定食屋C店の分類結果
- ピークタイム:12:00-13:00、18:00-19:00
- 通常時間:11:00-12:00、13:00-14:00、19:00-20:00
- アイドルタイム:14:00-17:00、20:00-21:00
<ステップ2>必要スタッフ数の算出
計算方法 各時間帯に必要なスタッフ数を以下の要素から判断します。
- 客数ベース:1人のスタッフが対応できる客数
- 作業量ベース:調理・配膳・会計などの業務量
- 目標人時売上高:店舗で設定する目標値
(例)定食屋C店の必要スタッフ数算出
ピークタイム(12:00-13:00)の場合
- 来客数:85名
- 1スタッフあたり対応可能客数:20名
- 必要スタッフ数:85名 ÷ 20名 = 4.25名 → 5名
アイドルタイム(14:00-15:00)の場合
- 来客数:12名
- 1スタッフあたり対応可能客数:20名
- 最低限の業務(清掃・仕込み):1名
- 必要スタッフ数:2名
<ステップ3>現状シフトとの比較・分析
現状シフトの問題点を洗い出す
図表② 定食店Cの現状と最適値の比較
| 時間帯 | 現状スタッフ | 最適スタッフ | 差分 | 削減可能時間数 |
|---|---|---|---|---|
| 11:00-12:00 | 4名 | 3名 | -1名 | 1時間 |
| 12:00-13:00 | 5名 | 5名 | 0名 | 0時間 |
| 13:00-14:00 | 4名 | 3名 | -1名 | 1時間 |
| 14:00-15:00 | 4名 | 2名 | -2名 | 2時間 |
| 15:00-17:00 | 3名 | 2名 | -1名 | 2時間 |
| 18:00-19:00 | 4名 | 4名 | 0名 | 0時間 |
| 19:00-20:00 | 4名 | 3名 | -1名 | 1時間 |
| 20:00-21:00 | 3名 | 2名 | -1名 | 1時間 |
1日の削減可能時間 8時間 月間削減可能時間(26営業日) 208時間
<ステップ4>15分単位での時間削減の工夫
生産性向上のカギは、「15分」という細かい単位での時間管理にあります。
15分削減の具体的方法
-
終了時刻の切り上げ
- 現状:21:00閉店、スタッフ退勤21:30
- 改善:清掃・片付け効率化により21:15退勤
- 削減時間:1人あたり15分
-
開始時刻の調整
- 現状:11:00開店、スタッフ出勤10:30
- 改善:前日の仕込み強化により10:45出勤
- 削減時間:1人あたり15分
-
休憩時間の最適配置
- 現状:ピークタイム前に休憩
- 改善:アイドルタイム(14:00-15:00)に休憩集中
- 効果:ピーク時の人員確保+休憩中の待機人件費削減
-
シフト時間の細分化
- 現状:8時間シフト(11:00-20:00)
- 改善:5時間シフト(11:00-16:00)と4時間シフト(17:00-21:00)に分割
- 効果:アイドルタイムの人員削減
(例)居酒屋D店の15分削減効果
- スタッフ総数 10名
- 1人あたり削減時間 15分/日
- 1日の総削減時間 10名 × 15分 = 150分 = 2.5時間
- 月間削減時間 2.5時間 × 26日 = 65時間
- 時給1,100円の場合 月間7.15万円のコスト削減
- 年間削減額 85.8万円
<ステップ5>新シフトの実施と検証
実施のポイント
- スタッフへの丁寧な説明(なぜ変更するのか)
- 段階的な導入(いきなり大幅変更しない)
- 1ヶ月ごとの効果検証
検証すべき数値
- 人時売上高の変化
- 人件費の変化
- サービス品質(お客様アンケート、クレーム数)
- スタッフの満足度
生産性向上とサービス品質の両立
誤解していただきたくないことは、「生産性向上 ≠ 人員削減による質の低下」という考え方です。
「人件費を減らす=サービスが悪くなる」という恐れを持つ方も多いかと思いますが、
- お客様のための時間を増やし、無駄な待機時間を削減する
- ピークタイムには十分な人員を配置する
- 効率化で生まれた時間を接客品質向上に活用する
ことがポイントです。
POSデータ活用のメリットと実践のコツ
ここで、POSデータ活用の5つのメリットを紹介します。
-
客観的な判断ができる
- 「なんとなく忙しい」ではなく、「12時台は来客85名」と明確
-
無駄が可視化される
- アイドルタイムの過剰配置が一目瞭然
-
スタッフへの説明がしやすい
- 数値に基づく説明は納得を得やすい
-
継続的な改善ができる
- 毎月の数値比較で効果測定
-
予測精度が上がる
- データの蓄積により、より正確なシフト計画が可能
すぐできる3つのアクション
-
POSデータでピークタイムを確認する
- 過去1ヶ月の時間帯別売上レポートを出力
- 最も売上の多い時間帯トップ3を特定
- 最も売上の少ない時間帯ワースト3を特定
-
現在のシフトと比較する
- 各時間帯の配置人数を書き出す
- ピークタイムに十分な人員があるか確認
- アイドルタイムに余剰人員がないか確認
-
来月のシフト計画を見直す
- 1つの時間帯で15分削減できないか検討
- スタッフと話し合い、実行可能な改善案を決定
- 来月から試験的に実施
データ経営と聞くと冷たく機械的に感じるかもしれません。しかし本当の目的は、お客様により良いサービスを提供することです。
無駄な待機時間を削減し本当に必要な時間帯に十分なスタッフを配置する。そうすることでお客様をお待たせすることなく丁寧な接客ができる。スタッフも余裕を持って働ける。そして店舗の収益も改善する。
これこそが、データを活用した真の生産性向上なのです。
株式会社横浜マネジメントコンサルティングJPS
中小企業診断士 江草 和彦
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

