「食べる」から「作る」へ、富裕層向けガストロノミー体験
2025年12月22日
海外流通トピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:ガストロノミー体験/富裕層/旅行/食体験
2025年、旅は変わりました。景色でもホテルでもなく、食が目的地を決める――。食べ、作り、学び、語る体験が、旅を忘れがたいものにします。
富裕層旅行者はいま、“ガストロノミー”という名の世界を味わい始めています。
旅先選びは食体験が左右する
有名シティホテルやリゾートホテルを擁するホテルチェーンAのラグジュアリー・グループが2024年に発表したレポートでは、アジア太平洋地域における富裕層旅行者の最新動向を分析して、次のような傾向を明らかにしました。
旅先を決める要因として大きいのは、食・文化・自然。
なかでも88%の富裕層旅行者が「食体験が旅先選びに影響する」と回答。新しい料理やレストランが、文化体験や自然とのふれあいよりも高く、食が旅の中心になっていることを示しています。
こうした背景から、同レポートでは「ガストロノミー(gastronomy)」という概念に注目しています。
ガストロノミーは、ギリシャ語の「gastrós(胃)」と「nomos(法則)」を組み合わせた言葉で、「胃の学問」と訳されることもあります。
しかし実際には、食を文化・芸術・科学・社会など多面的に捉える、より広い意味を持つ概念です。
単なる美食や料理ではなく、食を文化・芸術・科学・社会の視点から総合的に捉える概念です。
高級レストランだけでなく、地元の食材を使った料理教室や市場訪問など、体験型のガストロノミーが人気です。「食べる」だけでなく、「作る」「学ぶ」「語る」という要素が加わり、地元の漁師から直接魚を買ったり、伝統的な調味料の使い方を学んだりするなど、地域性とストーリー性を重視しています。
地産地消・廃棄物削減・環境配慮などサステナブル(持続可能)な要素がガストロノミー体験の質を左右するため、ホテルやレストランでは、地元農家との連携やオーガニック食材の使用をアピールする傾向が強まっています。
米国発のグローバル・ホテル・ブランドであるBホテルグループの2025年版レポートでも、飲食費が宿泊費に次ぐ旅行予算の優先事項として位置づけられています。
世界13カ国を対象に実施したこの調査では、世界の旅行者のおよそ5人に1人が、新しい飲食店や料理を求めて旅行し、半数はフライト前に飲食店を予約。富裕層旅行者の60%は、飲食店目当てでホテル滞在を選択しています。このレポートでも、旅行が食中心になっていることがうかがえます。
ケニアではサファリツアーを抑えて、ガストロノミー体験が人気
これまでケニア旅行といえばサファリツアーが定番でした。特にマサイマラ国立保護区やアンボセリ国立公園では、ライオン・ゾウ・ヒョウ・バッファロー・サイ、いわゆる「ビッグファイブ」の観察が旅の中心でした。
公園内には複数の高級ロッジが点在しており、富裕層には、サファリとロッジ滞在を組み合わせたスタイルが定着。
ロッジでは英語ガイド付きのサファリツアーとセットで提供することも多く、安心と贅沢が両立する構成でした。日本語ガイドツアーは、日本の旅行会社のパッケージツアーを申し込んでいれば可能です。
そんな定番に、2025年、新たなオプショナルツアーが加わったのです。
まず挙げられるのが、民泊サイトの“体験(Experiences)”の拡張です。2025年から、世界650都市以上で体験サービスを展開。宿泊なしでも予約可能になり、シェフ・写真家・セラピストなどによるサービスが追加されました。
ケニアでは、サファリツアーだけではなく、食文化を目的とした旅である「ガストロノミーツーリズム」、これに加えてシェフとの対話や地元食材の収穫、伝統料理のワークショップなど「ガストロノミー体験」が生まれています。2025年11月7日~9日に民泊サイトCでケニアの体験を検索したところ、参加者のレビューが最も多かったのが「ストリートキッズの視点でナイロビを知ろう」でした。
子どもの頃に路上で暮らしていたガイドが、ナイロビのダウンタウンを案内して、地元の人々が日常的に通う簡素な食堂で、チャパティ(薄焼きパン)と豆や肉のシチューなどを食べるという、まさに「ガストロノミー体験」が楽しめます。
「ガストロノミーツーリズム」は、「マタトゥに乗ってオーガニック市場ツアー&ケニア料理をつくろう」でも味わえます。地元の乗り合いバス「マタトゥ」に揺られて市場へ向かい、スパイスや新鮮な野菜を購入。その後、ガイドの家庭でチャパティとスパイシーなシチューを煮込み、食卓を囲む体験です。
参加者からは「ケニアの生活を肌で感じられる有意義なツアーだった」「忘れられない体験になった」という声が多く寄せられています。
富裕層旅行者向けのガストロノミー体験サイト
2024年に設立され、2025年から本格的なツアーを開始したガストロノミー体験ができる料理イベントのDがあります。地元食材と焚き火料理など、自然環境を活かした料理スタイルを展開して参加者が増えています。
発起人は、英国のシェフ・作家・テレビ司会者として知られるE氏は自然を重視する料理人で、ノルウェー北部の北極圏や野外での料理イベントを数多く手掛けてきました。
Dは、冒頭で触れたリゾートホテルを定宿にするような富裕層旅行者をターゲットにしています。
都市型ラグジュアリーと自然環境を融合して、英国の料理界で注目されるシェフを招いて、地元の市場や自然環境での食材の調達から調理、食事まで、参加者と一緒に行います。バーテンダーも招き、少人数制(最大18人)で参加者同士の対話や共同作業を重視するガストロノミー体験を提供します。
その1回目のツアーが「ケニア」で行われました。ケニアはアフリカの中でも観光・サファリ・文化体験の拠点として知られており、外国からの参加者を受け入れる体制が整っています。
2025年10月17日〜22日(6日間)で1人1万2,000米ドル(約184万円、宿泊・食事・体験・移動を含む)。
地元の植物学者の案内による在来植物(カレーリーフ、野生バジルなど)の識別と調理活用法の講習、地元食材(ヤギ肉、シーフード等)を用いた焚き火料理など、ケニアの文化・食材・環境に接する体験を重視した構成になっています。
2回目のツアーは英国・スコットランドです。英国で最も愛されているシェフ兼レストラン経営者を招き、2026年5月14日〜18日(5日間)で開催予定です。1人4,750ポンド(約96万円)。
ケニアとスコットランド、どちらも満員となっています。世界中から、個人やカップル、少人数グループでの参加を対象としています。
このように、美味しい料理を味わうだけでなく、その料理の文化的背景や土地の食材について知り、自ら調理して食べるという体験も楽しむ旅行者が増えています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

