全店舗・全商品でRFIDを導入した世界最大のスポーツ店
2026年1月27日
海外流通トピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:RFID/アパレル業界/店舗運営/価格戦略
アパレル業界で導入が活発化しているRFID(無線自動識別)。そのRFIDを全商品・全店舗で導入したのは、世界最大のスポーツ用品小売チェーンであるA社です。製造から物流、店舗運営、そして顧客サービスに至るまで一貫してRFIDを活用している点が大きな特徴です。
70以上のスポーツカテゴリーと数万SKU
アパレル業界でRFIDの導入が進む背景には、商品のサイズや色展開が多く、新商品の投入が頻繁で回転が速いため、在庫管理が複雑になりやすいという事情があります。ただし、アパレル企業では一部商品や一部店舗での「部分導入」にとどまるケースが多いのに対し、A社は全商品・全店舗でRFIDを導入し、業界初の全面展開を実現しました。
フランス発祥のスポーツ用品チェーンであるA社は、世界約1,700店舗を60カ国以上に展開し、扱うスポーツ用品やウェアはすべて自社開発のPB(プライベートブランド)です。商品アイテム数は膨大で、ランニングやサッカー、バスケットボールなど70以上のカテゴリーをカバー。店舗によっては4万〜5万SKU(商品の最小管理単位)を扱うほどの規模に達し、在庫確認は従来のバーコード方式では一つ一つ読み取る必要があり、在庫確認には多くの時間も人手が膨大にかかっていました。
こうした方法では正確性にも限界があり、巨大店舗に膨大な在庫を効率的に管理することは困難でした。そこで、数百点を一瞬で読み取れるRFIDの導入が必然となったのです。
初心者から上級者までを惹き付ける価格戦略
A社は商品開発から製造、物流、販売までを自社で一貫して担う垂直統合型のビジネスモデルを採用しているため、在庫管理の精度がそのまま顧客満足度や収益性に直結します。RFIDはこの価値を支える「バリューチェーン」の基盤技術として位置づけられ、在庫の正確な把握、物流の効率化、店舗運営の合理化を同時に実現しました。さらに過剰在庫や欠品を防ぐことで廃棄削減にもつながっています。
その結果、A社は手頃な価格で高品質なスポーツ用品を安定的に維持しながら、初心者から上級者まで幅広い層を惹き付けています。ユーザーにとっては「欲しい商品が必ず棚にある」という安心感がブランドへの信頼につながり、店舗にとっては在庫切れによる販売機会の損失を防ぐことができるのです。
RFID導入は単なる効率化のための技術ではなく、顧客サービスと企業競争力を同時に高めるための戦略的な選択だったといえます。
RFID統合の歩み
膨大な在庫を短時間で正確に管理し、レジ業務を高速化し、盗難リスクも抑える──。RFIDは店舗運営の課題を一挙に解決する力を持っています。これは2008年からA社で始まったRFID試験が描いた未来像です。
A社がフランスでRFIDの試験を始めた目的は、倉庫や店舗での積み込み作業を簡単にし、在庫管理の精度を高めることでした。RFIDを付けた商品であれば、箱に入ったままでも専用リーダーでスキャンすれば、数百点を一瞬で読み取れます。これにより、従来のバーコード方式では不可能だった効率的な在庫管理が可能になったのです。
2014年には、RFIDを本格展開し、製造・物流・販売の全プロセスに導入しました。水や金属に弱いなどの課題に直面しましたが、RFIDの専門チームが包装の改良や製品設計の見直しを行うことで克服しました。
2019年には、工場出荷時に全商品へRFIDを装着する体制を確立。小売業界で初めて「100%RFID化」を実現しました。
さらに2024年には、工場・倉庫・店舗に約5万台のリーダーを設置し、世界規模でバリューチェーン全体をカバーするまでに拡張しました。A社が採用したRFIDは「パッシブ型」と呼ばれるもので、電池や外部電源を必要とせず、リーダーからの電波で起動します。この省エネ設計が、環境負荷の低減にもつながっているのです。
RFID導入以前、年間14万時間以上を手作業の棚卸に費やしていたにもかかわらず、在庫精度は86〜90%にとどまっていました。
現在ではRFID搭載の在庫ロボットによって、4,000平方メートル規模の店舗でもわずか1.5時間で棚卸が完了し、精度は99.2%に達しています。
店舗運営を支える5つの効果
こうしてRFIDはA社の店舗運営を支える基盤技術となり、現在では大きく5つの効果を発揮しています。
1.サプライチェーン・マネジメントの効率化
A社の複雑なグローバルサプライチェーンにおいて、RFIDにより、商品の流れがリアルタイムで追跡可能になりました。事前に指定された場所と時間に必ず届き、問題の特定と解決が迅速化されます。その結果、在庫回転が短縮され、対応性と柔軟性が向上します。
2.スピーディなチェックアウト
商品が入ったカゴをセルフレジに置くだけで一括精算が可能になります。ユーザーはレジ待ち時間を大幅に減すことができ、スムーズに買い物を終えられます。
3.在庫管理のリアルタイム化
在庫ロボットが店舗内を巡回し、商品に付けられたRFIDを読み取ることで在庫状況を随時更新します。これにより棚の商品が途切れることがなくなり、在庫切れによる売上損失を防ぎます。さらにロボットが収集したデータは在庫管理システムに送られ、基準値を下回った商品は自動的に補充や発注の対象となるため、欠品リスクを最小化できます。
4.顧客サービスの強化
スタッフは携帯端末でリアルタイムの在庫データを確認できるため、ユーザーの要望に素早く対応できます。近隣店舗の在庫も照合可能です。
さらに試着室の「スマートフィッティングミラー」は、ユーザーが試着室に持ち込んだ商品のRFIDを読み取り、鏡面ディスプレイに商品情報や関連アイテムを表示します。
鏡に映るユーザーの姿の横に半透明の文字や画像が重なることで、スタッフが付き添わなくてもコーディネート提案や在庫確認を自動的に行えるようになります。これにより接客の効率が高まり、販売機会の拡大や顧客満足度の向上につながります。
5.セキュリティ強化
RFIDは盗難防止装置としても機能し、EAS(Electronic Article Surveillance:電子商品監視機器)との統合により、商品の不正持ち出しや紛失を防止します。
こうした5つの効果を通じて、RFIDは在庫管理の道具から小売業全体を支える基盤へと進化しました。A社の取り組みはその代表例であり、今後は業界全体に広がり、次世代の小売モデルを形づくる可能性を秘めています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年12月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

