カナダの外国人の住宅購入規制
2026年1月27日
海外流通トピックス
■業種・業態:小売業
■キーワード:カナダ/外国人住宅購入禁止法/移民/政策
東京をはじめロンドン、ニューヨーク、シドニーなど世界の都市で住宅価格が高騰する中、カナダは2023年に外国人による住宅購入を禁止する法律「外国人住宅購入禁止法」を導入しました。その背景には、移民政策の歴史と住宅市場の不安定化があります。
IIPの誕生と批判
まずはカナダの移民政策の歴史を振り返ってみましょう。
1986年、政府は経験豊富なビジネスパーソンをカナダに誘致し、国の経済を豊かにすることを目的とした投資移民プログラム(IIP:Immigrant Investor Program)」を立ち上げました。IIPの資格を得た投資家とその家族は、即時かつ無条件の永住者ビザが付与され、最終的には市民権を取得する資格を得られるというものです。
外国籍の人がIIPの資格を得るには、純資産が80万カナダドル(9,000万円)以上あることが条件でした。さらに政府に40万カナダドルを5年間の無利子で融資する義務が課されていました。この融資から生じる利息は各州に再分配され、さまざまな施策を通じて経済成長を支えることになりました。
IIPは当時、カナダ人になるための「簡単で楽な道」と非難されましたが、現在の価値にすると、インフレなどを考慮して2倍以上の水準、すなわち純資産要件は約170万カナダドル(1億8,700万円)、貸付額は約84万カナダドル(約9,200万円)に相当します。実際には超富裕層しか利用できない制度でした。
IIPは世界中から投資家を引き寄せ、特に中国や香港からの移民に人気がありました。彼らは主にバンクーバーを中心としたブリティッシュ・コロンビア州に定住することを選びました。アジアに近く、香港からの直行便も多いことや、不動産市場が拡大しており、投資対象として魅力的だったこと。さらに大規模な中華系コミュニティが存在し、言語や文化の障壁が低いなどの理由がありました。1997年の香港返還を前に、IIPは香港の富裕層にとって重要な移住手段となっていたのです。
制度廃止と転換
2010年にはIIPの条件が改訂され、最低純資産は80万カナダドルから160万カナダドル、融資額は40万カナダドルから80万カナダドルに引き上げられました。
最盛期には移民にとって非常に人気のある制度でしたが、前述したようにIIPは批判もされました。裕福な外国人がカナダ市民権を「購入」するための近道だと非難されたのです。つまり、IIPは、制度そのものの正当性が揺らいだのです。
最終的に政府は2014年にIIPを中止して、カナダは新しい形を模索しました。
その理由は、働いて税金を払う移民と比べて、IIPは働いて税金を払い続けるわけではないので、国の税制への貢献は小さかったと説明しています。その一方、限定的な経済的利益はもたらしたとも述べています。
IIP廃止後、カナダは「資金を持ち込むだけの移民」から「事業や労働を通じて社会に根付く移民」へと方向転換しました。「スタートアップ・ビザ」は革新的な起業家を対象とし、「州推薦プログラム」は地域の労働力不足を補う役割を担っています。
ケベック州の特権
ケベック州は移民政策において特別なポジションにあります。前述したようにカナダ全土としては、投資移民制度は終了しました。しかし、ケベック州だけは、一定額の投資を条件に独自の投資移民制度を維持しています。
もともと「移民政策」は政府の専管事項でした。つまり、移民の受け入れや選抜は連邦政府だけが決定できる領域だったのです。
しかし、1960年代以降、ケベック州は「文化・言語保護」を理由に権限を拡大し、独自に移民を選抜できるようになりました。これが「ケベック州の特権」と呼ばれる背景です。
現在も、フランス語を話せる移民を優先的に受け入れています。州都モントリオールは移民の中心地であり、ケベック州の特権を体現する象徴的な舞台でもあるのです。
人口維持と移民拡大
カナダは人口増加を重要な政策目標として掲げており、その一環として移民受け入れに力を入れています。背景には、人口が減少すれば経済規模も縮小し、国の活力が損なわれるという懸念があります。さらに医療・年金・教育といった社会保障制度は、働く世代の税収によって支えられているため、人口減少は制度の維持を困難にします。こうした理由からカナダ政府は移民受け入れを推進、その結果、カナダへの移民は近年、大幅に増加しているのです。
ちなみにIIPが生まれた1980年代当時は移民を5つのクラスに分けていましたが、現在は経済・家族・人道の三つの枠に整理されています。
三つの枠とは、次を指します。
- 経済移民:スキルドワーカー(職歴・学歴・語学力で選抜)、州推薦プログラム(各州が独自に選抜)、スタートアップ・ビザ(事業の立ち上げが条件)
- 家族系:配偶者、子ども、親など家族の呼び寄せ
- 難民・人道的移民:難民認定や人道的理由による受け入れ
カナダ人のために住宅を守る
カナダでは移民政策を積極的に進めた結果、2015年以降、都市部の住宅価格が急騰し、トロントやバンクーバーでは中間層が住宅を購入できない状況に陥りました。住宅市場の不安定化が社会問題となったことが、規制導入の背景にあります。
2015年以降、住宅投資額は2倍以上に増加しています。2023~24年度の住宅投資額は、2013~14年度より約90億カナダドル増加しました。
その前年の2022年、政府は「外国人住宅購入禁止法」を可決し、カナダ国内の外国人投資家による住宅購入を禁止しました。住宅購入は、カナダ人や永住権を持っている人に限定されたということです。
この法律では、外国人や外国の企業が別荘・セカンドハウス以外の住宅物件を取得することを禁止しています。禁止法に違反して住宅を購入しカナダ人以外の人には最大1万カナダドルの罰金を科すものです。一時的な就労許可証を持つ個人、難民申請者、留学生は特定の条件を満たせば免除される場合があります。
外国人住宅購入禁止法は2023年1月に施行され、当初2年間の予定でしたが2027年まで延長されました。対象は住宅のみで、商業用不動産や工業用不動産は外国人も購入可能です。永住者や留学生など一部例外は認められています。住宅だけが特別扱いされるのは、生活必需品としての性質と価格高騰の直接的影響があるためです。
こうした背景を踏まえると、カナダの住宅規制は単なる外国人排除ではなく、移民政策と人口維持の課題を背景にした包括的な取り組みであるとして位置付けられます。つまり、これは、住宅市場全体の安定化を目指す政策なのです。
加えて、この規制は単独ではなく、住宅供給拡大を含む包括的な経済計画の一部です。建設許可の迅速化や補助金制度と組み合わせることで、より多くの住宅をより早く建設し、カナダ人が手の届く価格で住宅を所有できるようにすることを目的としています。政治的にも「住宅を守る」という象徴的なメッセージを発するという狙いがあります。
ニュージーランドやオーストラリアも外国人住宅購入規制を導入していますが、カナダの特徴は「禁止+供給拡大」の両輪で進めている点です。単なる規制ではなく、住宅市場全体の安定化を目指す包括的な政策として位置づけられています。
日本も人口減少を背景に、外国人労働者や移民を受け入れてきました。今後も在留外国人数が増えると予想される中、住宅市場への影響をどう捉えるかは避けて通れない課題です。カナダの事例は、日本が住宅政策と移民政策を一体で考えるべき時期に来ていることを示しています。
(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭
※当記事は2025年12月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

