飲食店OSが再設計する外食産業
金融インフラからAI、小売へ

2026年2月20日

海外流通トピックス

■業種・業態:飲食店  
■キーワード:外食産業/飲食店OS/金融インフラ/小売

飲食店OSのイメージ画像

店内・テイクアウト・デリバリーの3チャネルが同時に動き、人手不足が続く米国の飲食店。

複雑化した現場を再設計したのが「飲食店OS(Restaurant Operating System)」という考え方です。

決済インフラを自社で持つことで、業務とお金の流れを統合。さらにAI副店長の登場と小売領域への拡大により、外食産業のOSは次のステージへ進みつつあります。

3つの注文チャネルが同時に動く「複雑な飲食店」

テイクアウト商品のイメージ画像

全米レストラン協会(National Restaurant Association)が2025年4月に発表した調査では、全飲食店の注文の約75%が店外で行われています。

この店外には、テイクアウト・デリバリー・ドライブスルーが含まれ、デリバリーは業界推計で10〜15%程度とされているため、店外はテイクアウトとドライブスルーが中心であることが分かります。

米国の飲食店は、ここ10年で急速にデジタル化し、店内ではセルフオーダーが普及しました。これにより、注文ミスの減少や人件費負担の軽減につながり、効率化が大きく進みました。

同時に、デリバリー文化が2015〜18年頃から定着し、コロナ禍で利用が爆発的に増加。その結果、飲食店は店内、テイクアウト(セルフオーダーを含む)、デリバリーという3つのチャネルを同時に処理せざるを得なくなり、注文管理・キッチンの混雑・配達連携・在庫管理が一気に複雑化しました。

さらに追い打ちをかけたのが、米国ではコロナ禍以降ずっと深刻な人手不足が続いていることです。つまり、「複雑化→人手不足→オペレーションの複雑化」という負のスパイラルが発生したのです。

こうした環境では、注文・在庫・キッチン・デリバリー・決済・給与などをバラバラのシステムで運用することが不可能であり、そこで求められたのが、複数チャネルの注文と店舗オペレーションをひとつの基盤で統合する「飲食店OS」です。

飲食店OSとは何か

飲食店のイメージ画像

米国では、POSや注文アプリではなく、飲食店の運営に必要な機能をすべて統合した「飲食店OS(Restaurant Operating System)」を提供する企業が登場しています。

最大の特徴はこれまでバラバラだった飲食店の業務をひとつのプラットフォームにまとめたことです。

飲食店の主要業務は、本来、次のように分かれています。
注文(店内・デリバリー・テイクアウト)、キッチン管理、決済、在庫管理、スタッフ管理、売上データ、デリバリーアプリとの連携、フランチャイズのロイヤリティ管理などです。

これらすべてを同じOS上で動かすことで、複雑化した飲食店そのものを再設計する動きが出ているのです。

飲食店OSの導入効果

従来 Toast導入後
注文は紙 店内・デリバリー・テイクアウトという3つの注文を一本化して、「キッチン→デリバリー→決済」がリアルタイム連携
キッチンは混雑
デリバリーは外部アプリ任せ
在庫は勘と経験 在庫は自動で最適化
売上データは翌日集計 売上はリアルタイムで可視化
スタッフ管理は別システム スタッフ管理も同じOS上で完結

デリバリー会社のAPIとPOSを連携

商品を配達員に渡す店員のイメージ画像

上の表で最も画期的なのは、デリバリー注文を統合し、すべての注文を一本化できた点です。デリバリー会社と飲食店のPOSを、API(Application Programming Interface)でつなぎ、外部アプリの注文がそのまま店のシステムに流れ込むようになりました。

APIとは、別々のアプリやシステムが自動で情報を交換するための「共通言語・接続口」であり、この連携により、デリバリー会社のタブレットは不要になります。

注文が即時にPOSに入り、キッチンで一元管理、メニューの同期が自動、営業時間も一括更新、手数料や利益率も自動計算できるようになります。

デリバリーを「店舗のオペレーションの一部」として扱えるようになったことで業務が大幅に効率化されました。

これまで店舗スタッフには、次のような苦労がありました。メニュー変更や営業時間変更をするときは、それぞれのデリバリー会社のすべてのタブレットの管理画面にログインして、同じ作業を繰り返す必要がありました。

さらにはデリバリーの注文が入るとタブレットが鳴り続け、どれがどの注文なのかが混乱する上、POSへの転記が必要であり、手入力ミス・遅延・混雑の原因となっていたのです。

キッチンがタブレットでいっぱいになるため、この状態を米国では「tablet farms(タブレット農場)」と皮肉を込めて呼んでいます。

金融インフラ企業だから実現できたこと

スマートフォンのQRコード画面をバーコードリーダで読み込むイメージ画像

飲食店OSを提供するA社は、自社の決済インフラを持つことで、飲食店の業務を「お金の流れ」で一体化できるようにしました。

注文、スタッフ管理、在庫、ロイヤリティなど、飲食店の主要業務はすべて支払いに紐づいています。そのため、これらをひとつのOS上で統合することが可能になったのです。

支払いの仕組みとしては、オーナー向けと従業員用のクレジットやデビットカードとして使える2種類のカードを提供しています。

オーナーのカードには、店舗の売上が入金され、そのカードを使ってすぐに食材仕入れたり、備品を購入したり、経費の支払いに使えるようになります。

つまり、A社が飲食店の銀行口座のような役割を果たすというわけです。売上は翌日ではなく即時に利用できるので、キャッシュフローも劇的に改善します。

従業員向けのカードは、給与だけでなくチップも受け取ることができ、その金額分だけ使えます。

金融インフラを土台にAIや小売へ拡大

笑顔で接客をする女性店員のイメージ画像

A社は、業務データと決済データを同じ基盤で扱える独自の金融インフラを持っていることで、次の2つの進化を実現しました。

1つ目はAI副店長の登場です。店舗のあらゆるデータをリアルタイムで分析し、パーソナライズされた情報を基に、店長が本来行うべき意思決定を先回りして提示する「AIアシスタント」です。

例えば、「今週末、〇〇で大きなイベントがあるため、深夜の混雑が予想されます。スタッフ配置を確認しますか」といった形で、売上予測・イベント情報・過去データを組み合わせ、具体的な行動提案まで行えるようになりました。2025年秋には、こうしたAIによる意思決定支援がさらに拡大しています。

2つ目は、飲食店OSは食品・飲料小売にもそのまま適用できることから、すでに小売業者向けにも提供されており、「小売OS(Retail OS)」にも領域を広げ始めているということです。

もともとA社はDXが遅れていた中小の飲食店やカフェ、ベーカリー、バーなどをターゲットに拡大してきましたが、現在では複数の大規模飲食チェーンでも採用が進んでいます。

さらに、デリバリー最大手との複数年にわたる戦略的グローバルパートナーシップも発表され、その勢いは米国を超えて世界へ広がりつつあります。

(文)経済ジャーナリスト 嶋津典代
発行・編集文責:株式会社アール・アイ・シー
代表取締役 毛利英昭

※当記事は2026年1月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。