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在庫回転率とは
なぜ重要?計算方法と適正値・向上のプロセス

小売業では、在庫管理の巧拙が売上や利益に大きく影響します。在庫管理状況を示す指標のひとつである「在庫回転率」を理解し、過剰在庫や在庫不足の防止に努め、店舗の業績を適切に把握しましょう。

在庫回転率の概要や計算方法について触れたうえで、在庫回転率が重要な理由やアップするための方法などを掘り下げていきます。

在庫回転率とは

在庫回転率は、一定期間内に商品が入れ替わった回数を示す指標で、商品回転率とも呼ばれます。在庫回転率の数値が高い方が商品の入れ替わりが早く、反対に数値が低いと、商品が長期にわたって在庫として滞留していることを示します。

また、在庫回転率が高い方が、仕入れにかかった費用を短期間で売上に転じられているとも捉えられます。ただし、在庫回転率が高すぎる場合には、欠品による販売機会の損失を起こしている可能性も懸念されます。

在庫回転率の計算方法

在庫回転率の計算方法には、次の2種類があります。

  • 在庫数による計算
  • 金額による計算

在庫数による計算は、在庫個数のデータさえあれば算出できます。週単位や月単位など必要な期間を設定して、在庫回転率を容易に算出できる手法です。

一方、金額による計算は決算書のデータが求められ、算出できるのは決算年度単位のみとなります。また、金額は商品の売れ行き以外の要素も変数となることから、実態を正確につかみにくい側面があります。

実務担当者が在庫回転率を計算する際は、在庫数による計算を用いる方が適切でしょう。在庫回転率を金額で計算する方法は、経営層に向いているアプローチです。

在庫数による計算方法

在庫回転率を在庫数から計算する場合は、以下の計算式で求めます。

【在庫数による在庫回転率の計算】

  • 在庫回転率=期間中の総出庫数÷期間中の平均在庫数
  • 期間中の平均在庫数=(期首在庫数+期末在庫数)÷2

期間中の総出庫数とは、対象の期間に出庫された数量の総数です。また、期間中の平均在庫数は、対象期間の期首在庫数と期末在庫数を合計して2で割って算出します。

【計算例:1年間の出庫数1000個、期首在庫数80個、期末在庫数120個の場合】

  • 期間中の平均在庫数:(80個+120個)÷2=100個
  • 在庫回転率:1000個÷100個=10回

金額による計算方法

在庫回転率を金額から算出するには、以下の計算式を活用します。

【金額による在庫回転率の計算】

  • 在庫回転率=期間中の出庫金額(売上原価)÷期間中の平均在庫金額(棚卸資産)
  • 期間中の出庫金額=期首商品棚卸高+当期商品仕入高-期末商品棚卸高
  • 期間中の平均在庫金額=(期首在庫高+期末在庫高)÷2

商品の金額には、仕入価格にあたる「売上原価」と販売価格となる「売上金額」がありますが、在庫回転率の計算に用いるのは売上原価です。対象期間の期首商品棚卸高に当期商品仕入高を加えて、期末商品棚卸高を引くと、期間中の出庫金額が計算できます。また、期間中の平均在庫金額は、期首と期末の在庫高、つまり棚卸資産を足して2で割ったものを用います。

【計算例:2021年度の出庫金額1000万円、2020年度の期末棚卸資産80万円、2021年度の期末棚卸資産120万円】

  • 期間中の平均在庫金額:(80万円+120万円)÷2=100万円
  • 在庫回転率:1000万円÷100万円=10回

在庫回転率の適正値

在庫回転率の適正値は、在庫を過剰に抱えている状態や不足している状態ではなく、在庫が理想的な水準を保っている状態です。

なお、在庫回転率の適正値は業種によっても上下します。たとえば製造業では、原材料の仕入れから、製造、出荷までにかかる期間が長いため、小売業や卸業よりも在庫回転率が低くなるのが一般的です。一方、消費期限の短い食材を扱う飲食店はリードタイムが短縮されるため、在庫回転率が高くなります。

適正な在庫回転率の目安となるのは、同業他社の数値です。少々古いデータにはなりますが、経済産業省では「商工業実態基本調査」において、「中小企業の商品(製品)回転率」を公表していました。ただし、この商品(製品)は売上原価ではなく、売上金額を用いているため、高めの数値となっている点に留意しましょう。

たとえば、製造業の製品回転率は11.1回、卸売業の商品回転率は19.9回、小売業は11.4回です。小売業の中でも生鮮食料品を取り扱う飲食料品小売業は17.1回と高い水準となっています。

参考:経済産業省|平成10年商工業実態基本調査報告書 総括編 調査結果概要|第2章 中小企業の収益状況|4.中小企業の商品(製品)回転率

在庫回転率を把握する重要性

在庫回転率の把握が重要視されている理由には、主に次の3つの点が挙げられます。

  • 在庫の動きがわかる
  • 適切な在庫管理ができる
  • 顧客のニーズをつかめる

在庫の動きがわかる

商品個別に在庫数量をみているだけでは、全体の在庫の動きを俯瞰できません。全体の在庫回転率や商品ごとの在庫回転率を算出することで、在庫の動きを把握できるようになります。

また、在庫回転率は経営状況を判断するための指標ともなるものです。在庫回転率が下がっていると、長期在庫の増加が疑われ、業績が悪化している可能性を示唆します。

適切な在庫管理ができる

在庫回転率を過去のデータと定期的に比較することで、現状の在庫状況が適正かどうか、定量的に判断する材料になります。

在庫回転率が下がっている商品は販売状況が悪化しているため、現状の数量での仕入れを続けると、過剰在庫を招きます。倉庫の保管コストがかかるほか、売れ残って不良在庫になってしまうと廃棄コストも発生するでしょう。

一方、在庫回転率が上昇している商品は、同じ数量の仕入れを続けていたのでは欠品を起こし、販売機会の損失を招きます。

在庫回転率をもとに仕入れを調整することで、余剰在庫の保有や欠品を避けられるようになり、在庫管理は適切化されます。

顧客のニーズをつかめる

商品ごとの在庫回転率を算出することは、顧客のニーズをつかむ手段としても機能します。在庫回転率が高い商品は、顧客の購入頻度が高い商品となり、「顧客が求めている商品」とも言い換えられます。在庫切れを起こさないように在庫管理を重点的に行い、在庫数を安定化させましょう。

一方、在庫回転率が低い商品の多くは、倉庫での保管コストが過剰に発生している商品です。そうした売れ行きがよくない商品は廃棄する、あるいは在庫を減らすといった対応を行います。

また、在庫回転率は将来の需要予測にも活用できる指標です。在庫回転率を把握することで、顧客のニーズに即した在庫管理が行えるようになります。

在庫回転率をアップさせるプロセス

在庫回転率をアップさせるために、下記のプロセスを踏みましょう。

  1. データをベースにした目標数値設定
  2. 在庫回転率を定期的に算出
  3. 長期在庫を抱えている商品をリストアップし販促・廃棄
  4. リードタイムの短縮を図る

まずは業種別の目安や、店舗で取得している過去のPOSデータなどをもとに、目標となる数値を設定します。具体的な目標を設定するのは、部門全体でモチベーションを高く持って取り組んでいくためです。

そして、月1回、週1回といったペースで定期的に在庫回転率を算出して、在庫状況を可視化し現状を把握します。在庫回転率をこまめに把握することで、在庫観点率が下がっている商品は仕入れの数量を減らす、あるいは価格を下げて販売するといった対応を迅速に講じられるようになります。

続いて、長期在庫を抱えている商品をリストアップします。値下げ販売などの戦略を講じても売れない場合には、廃棄することも選択肢となるでしょう。そもそも多くの商品の長期在庫を保有する状況では、在庫管理の体制の見直しも必要です。

また、注文を受けてから顧客のもとに届くまでのリードタイムの短縮を図ることもポイントです。リードタイムの短縮は顧客満足度の向上にも直結するため、物流体制を含めて受注から配送までの流れの見直しを実施しましょう。

まとめ

在庫回転率は適正な在庫管理を行うために重要な指標のひとつです。過剰在庫や欠品を防ぎ、売れ行きに応じた在庫数量となるように管理する判断基準となるため、定期的にチェックしましょう。

また、在庫回転率を向上させるプロセスに欠かせないデータ分析では、店舗で取得しているPOSデータなどを有効に活用しましょう。適切な在庫管理の推進に活かせるよう、POSデータ分析の手法の理解・実践も重要なポイントになるでしょう。

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