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リテールテックとは?
導入例から見る小売企業・消費者それぞれのメリットと求められる理由

小売業界における慢性的な人手不足は全国的に拡大しています。こうした状況のなか、さらに消費者行動の多様化も重なり、既存の人員数では対応しきれない局面も散見されるようになりました。

このような喫緊の課題に対し、IT技術の力で解決を図る取り組みがリテールテックです。

本記事では、いまリテールテックが求められる理由や実際の導入例、小売企業と顧客それぞれに波及するメリットを考察。小売業を取り巻くビジネス環境の変化に欠かせないものとなっていく、リテールテックの概要を解説します。

リテールテックとは

リテールテックとは、リテール(retail・小売)とテクノロジー(technology・技術)から成る造語で、小売業にIT技術を導入し、流通や在庫管理、さらには商品陳列に至るまで、小売業が直面する課題解決を図る取り組みを指します。

聞きなれない言葉のようにも思えますが、すでにリテールテックは私たちの生活に浸透しているものです。

たとえば、消費者側から見ればセルフレジやキャッシュレス決済などもリテールテックの一環です。企業側では、システムを活用した在庫管理やロボットの登用、無人店舗などがリテールテックの代表例として挙げられます。

リテールテックが必要な理由

現在、リテールテックが大きく注目を集めている理由には、複数の要素が関係しています。

  • 業界の人手不足
  • 店舗運営のコスト
  • 多様化する消費者行動への対応

リテールテックが求められる理由は、おおむね「小売業を取り巻くビジネス環境の変化」に起因します。深刻化する人手不足、その一方で増大するコスト負担。さらに多様化する消費行動に対応していくためには、IT技術の活用は不可欠です。

業界の人手不足

少子高齢化による生産人口年齢の減少は、人手不足の深刻化を招きます。もちろん、小売業においてもそれは例外ではなく、限られた人材のなかで商品やサービスを提供できなければいけません。

また、業務が多岐に渡る小売業界は、一人あたりの業務負荷が膨張しがちであり、そのうえ人材確保も簡単ではなく、離職率も高いという側面も目立ちます。苦慮のうえで採用できても、離職が相次いでしまえば、採用活動や教育に割かれる労力やコストも水泡に帰すということです。

そのため、少ない人数での業務効率化は必達しなければならない課題であり、省人化・無人化などを促進するリテールテックが注目を浴びているのです。

店舗運営のコスト

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、消費が落ち込み大きな打撃を受けた小売企業も多いことでしょう。そこにきて近年の物価高も重なり、経営難に追い込まれるケースも多々見受けられます。

こうした状況で求められるのは、店舗運営にかかるコストの削減です。省人化・無人化などを促進するリテールテックの導入が注目されるのは自明ともいえます。

AIやロボット等を活用した業務効率化の推進は、店舗運営コストの削減に直結します。たとえば残業の減少による人件費や電気代等の削減がわかりやすい例となるでしょう。

多様化する消費者行動への対応

IT技術の進歩は、消費者行動の多様化を促しました。たとえばキャッシュレス決済の浸透です。いまではキャッシュレス決済に対応していない店舗は避けられる傾向もみられるなど、消費者行動に大きな変化をもたらしています。

これに対応し、多くの小売業においても、キャッシュレス決済やセルフレジ、オンライン接客など、リテールテックの導入が進んでいます。リテールテックの導入は、販売機会を逃さないための手段としても注目されているのです。

リテールテックの導入例

リテールテックの導入例のイメージ

リテールテックの導入例を、具体的に紹介していきます。

  • RFID
  • 無人店舗
  • Eコマース
  • RPA

こうした導入例からもわかる通り、リテールテックの導入は、無人化や省人化を大きく推進する施策です。人による作業をIT技術が代替することで、スタッフの業務負荷やヒューマンエラーを低減できるほか、待ち時間の解消などによる顧客満足度の向上も見込めます。

RFID

RFID(Radio Frequency Identification)とは、電波による無線データの読み取りを介し、商品を識別・管理するシステムです。

大手衣料品店ではRFIDを導入し、専用スペースに入れた商品情報タグを読み取る仕様にしたことで、会計業務の大幅な効率化に成功。商品点数や合計金額を一瞬で読み取れるため、精算にかかる時間は従来の約3分の1に短縮されました。これにより、レジ待ちの解消にも成功しています。

また、RFIDは商品管理にも活用され、店舗での万引き防止や物流センターでの検品業務の短縮化、棚卸業務の短縮化といったメリットを生んでいます。

無人店舗

2016年、大手EC企業がアプリを用いた会計システムを導入した無人店舗をオープンし、大きな話題を集めました。画像認識や音声認識などのAI技術を結集し、店内に設置したカメラとマイク、さまざまなセンサーなどを駆使して「誰が」「何を」手に取ったかを把握。さらにシステムと連携し、お店を出る際に専用アカウントでの決済も実行されます。

これにより、実店舗では当然ともいえる存在であるレジ自体をなくし、無人で買い物が可能な店舗が実現したのです。

Eコマース

Eコマースとは、ECサイトなどを介して電子的に行われる取引のことです。1990年代後半に国内でも多くの企業がEコマースに乗り出してから、その市場は年々拡大し、いまではインターネットでの買い物は当たり前になっています。

多くの消費者からのニーズを背景に、ネットショップを開設したいと考える事業者も増加しました。その結果、安価で簡単にネットショップを構築できるサービスも多数登場しています。小規模事業者であっても、ネットショップを開設して消費者との接点を増やすことは十分に可能な時代です。

RPA

(Robotic Process Automation)とは、人間が対応してきた業務を、AIや機械学習などを含む技術を駆使して自動化する取り組みです。「ロボットによる業務の自動化」とも解釈できるでしょう。

なかでもRPAの導入が求められているのが、Eコマース需要の拡大により業務負荷が増大している物流倉庫です。商品管理から入荷作業、ピッキング、検品など、一連の作業をロボット化できれば、現場で働く作業スタッフにかかる過剰な業務負荷は大きく改善されます。ヒューマンエラーの低減も見込めるでしょう。

小売企業におけるメリット

小売企業におけるメリットのイメージ

小売企業がリテールテックを導入するメリットは、省人化や無人化だけにとどまりません。

  • 顧客データを集められる
  • 売り上げの拡大が見込める
  • 効率的な在庫管理を実現できる

顧客データを集められる

リテールテックは、消費行動などの顧客データを収集・可視化する施策としての側面もあります。

従来のマーケティング施策においても顧客データは取得されてきましたが、そこには第三者を介した「サードパーティデータ」も含まれました。一方、自社が推進するリテールテック施策により取得できるデータは、顧客のリアルな消費行動に基づいた「ファーストパーティデータ」です。消費者ニーズの解像度、ならびにマーケティング施策の精度を格段に高められます。

売り上げの拡大が見込める

リテールテックは売り上げの拡大にも貢献する施策です。

たとえばEコマースによるオンライン接客やネットショップの展開は、販売機会の増大に直結します。また、RFIDの導入は人による作業のタイムロスやヒューマンエラー削減になるほか、集客施策などコア業務への注力体制にも発展するでしょう。

さらに、前述した消費者ニーズの解像度やマーケティングの精度の高まりによる、顧客満足度の向上も見逃せません。新規顧客の獲得やリピーターへの醸成を促し、売上の拡大を図れます。

効率的な在庫管理を実現できる

紙ベースかつ手作業での在庫管理は、ヒューマンエラーを多く招いてしまうほか、何度も棚卸を繰り返すなど非効率な作業の原因にもなりかねません。一方、RFIDなどを活用し、バーコード技術を取り入れ在庫管理をデータ化できれば、目視に頼らない正確な在庫管理が可能になります。

また、ピッキング作業においてもロボット技術を活用した自動化の余地があるでしょう。作業スタッフの負担は大幅に削減され、少ない人員での倉庫運営が成り立つようになります。

消費者におけるメリット

リテールテックは小売企業側だけでなく、消費者側にも大きなメリットをもたらします。

  • 購買体験が向上する
  • 決済手段を選べる

購買体験が向上する

ECサイトなどのオンライン接点がなかった時代では、顧客は欲しい商品がありそうな店舗に見当をつけ、来店して商品を探すという、非効率的な商品探しを強いられることは当たり前でした。

しかし、多くの事業者がECサイトを持つようになってからは、自宅にいながら商品を検索し、購入まで完結できるようになっています。

さらに、検索キーワードや購入履歴に即した関連商品が表示され、比較検討も効率化しています。「より良い」「より欲しい」商品に簡単にアクセスできる環境は、購買体験に付随していたストレスを低減し、顧客満足度の向上をもたらしています。

決済手段を選べる

これまでの決済手段といえば、現金あるいはクレジットカードが主流でした。しかし、リテールテックの普及は、キャッシュレス決済やポイント支払いなどさまざまな決済手段の一般化にも一役買っています。スマートフォンをかざすだけで決済が完了するようになれば、わざわざ財布を出すことも、財布のなかにあるお金を探す必要もありません。

また、キャッシュレス決済におけるエンターテインメント性も見逃せません。多くのキャッシュレス決済では購入金額に応じたポイントの還元があるなど、顧客に嬉しい仕組みが設けられています。「ポイ活」に能動的に参加しながら、顧客はよりスムーズかつストレスフリーな環境で買い物を楽しめるようになりました。

まとめ

IT技術の台頭は、消費者行動の多様化、複雑化を促進しました。それと同時に、少子高齢化に伴う人材不足も深刻化しており、小売店の業務効率化、省人化、さらに無人化は待ったなしで実行を迫られている状況です。

これからの小売業、店舗運営において、リテールテックの導入はもはや不可欠になっていきます。自社に求められる施策はなにか、事業を大きくドライブさせるポテンシャルを有するIT技術とはどのようなものなのか。社内や顧客のニーズ・課題を洗い出し、検討を急ぎましょう。

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