冷凍倉庫の棚卸を劇的改善―意思決定者のためのRFID導入チェックポイント
2025年11月27日
コラム
■業種・業態:製造業/物流業・倉庫業
■キーワード:RFID/冷凍倉庫/棚卸/負担軽減

この記事のポイント
冷凍倉庫(-20〜-30℃)で膨らむ棚卸工数と在庫把握確度を、RFIDで“止めずに”短時間化・高精度化します。12〜24か月での投資回収を見据え、PoC→パイロット→本番で導入し、監査対応と安全も同時に強化します。
-20〜-30℃の冷凍倉庫における棚卸は、人的・時間的コストが大きく、在庫差異や監査対応の遅れがサプライチェーン全体の収益性を蝕みます。問題解決には、RFIDを活用した在庫管理システムの導入が有力な選択肢となります。従来3名で3~6時間掛かっていた作業が、1名・1分程度に短縮した事例もあります。本コラムは、導入の是非を判断される経営・現場責任者の方に向けて、RFIDがもたらす財務的インパクト、導入の成否を分ける管理項目、そして“止めない棚卸”を実現する運用設計を、意思決定の観点から整理してご説明します。
止めない棚卸、現場と財務の同時最適
“人が数える”から“電波が検出”への転換
冷凍庫での棚卸は、作業者が15〜20分ごとに退避することが必要になるなど、人時の積み上がりが避けにくい業務です。温度差による結露や霜でラベルは読み取りづらく、手袋越しの筆記・操作はミスを誘発します。さらに棚卸の最中も入出庫は続き、静的な紙台帳が動的な在庫に追随できないことが差異の累積を招きます。RFIDは“人が数える”行為を“電波が検出する”に置換し、短時間で正確な在庫スナップショットを生成します。結果として、停止時間の最小化、差異の減少、監査応対の迅速化が同時に進み、倉庫全体のスループット向上につながります。
RFIDへの投資、ROIの現実解
投資の内訳は、タグと保護材、書き込み機材と読み取り用ハンディ端末、ソフトウェアとWMS/ERP連携、現場教育に集約できます。効果は、人件費の恒常的な削減、棚卸停止時間の短縮による処理能力の向上、在庫差異の縮小によるロス・機会損失の圧縮として現れます。従来と導入後の人時差に時給と年間回数を掛け合わせ、停止時間・差異率の改善を金額換算して合算すれば、12〜24か月での回収が現実的となるケースが多いようです。鍵は“棚卸の頻度を上げても止まらない構造”を作ることにあり、それは欠品・過剰の是正による在庫最適化を実現し、持続的な経営改善をもたらすことが見込まれます。
簡易ROIモデル(例)
- 人件費削減=(導入前人時 - 導入後人時) × 時給 × 棚卸回数/年
- 停止ロス削減=(導入前停止時間 − 導入後停止時間) × ライン・倉庫の時間価値[円/h]
- 在庫ロス削減=(導入前の棚差・紛失・評価減の実額) − (導入後の同実額)
ガバナンスと安全衛生、同時強化も
RFIDは精度向上の手段であると同時に、ガバナンス強化の装置でもあります。読取時の登録情報に時刻・作業者・ロケーション・信頼度を付与し、差異の発生箇所と原因を可視化すれば、属人的な運用から管理会計に耐える“証跡”へ移行できます。監査では在庫スナップショットと操作ログなどを即時に提示できることが決め手になります。それに加えて、冷凍庫内の滞在時間を数分に短縮することで、凍傷等の健康リスクやヒヤリハットも減少させることにつながり、安全衛生の強化にも寄与します。
多くの効果が期待できるRFIDですが、導入における実践ポイントを見てみましょう。
小さく試す、確実に広げる
PoC→パイロット→本番の段階設計
まずは現場そのものを使ったPoCで、低温環境での動作と読取の安定性を確かめます。扉の開閉、前室との混信、通路幅や積載高さ、金属棚の反射など、電波条件を再現しながら出力と指向性を調整し、必要に応じて前室の誤読を避けるため“扉を閉めてから読む”といった境界ルールを手順化します。タグはRFID入りのA4票をクリアスリーブに収め、面ファスナーでパレット側面上段へ固定すると、結露や剝離への対処も可能となります。
運用で効く“小ワザ”
- “最短棚卸”の定義を明文化(起動→扉閉→読取→自動集計→差異確認まで)。
- 結露対策に入退室のリードタイム短縮と保護スリーブを併用。
- 見える化で未読・過読・滞在時間を作業者にフィードバックし、習熟を促す。
パイロット(試行)では、まず省人化に向けたSOP(Standard Operating Procedure:標準作業手順)を固めます。例えば、端末の起動から読み取り、自動集計、差異確認、例外処理までを一本の流れに整理し、未読や過読、エリア跨ぎ(境界越え)が発生した場合は、アプリが自動で再読取や位置修正を促すようにします。教育は「10分マニュアル+1回のOJT」で習得できるようにするといった、目標を伴った設計とし、立ち上げ期は複数名体制で相互バックアップ、運用の安定に伴い最小人数への移行を段階的に進めます。棚卸時には在庫スナップショットを取得して期中の移動在庫と整合させ、差異があった場合は、あらかじめ定めておいた処理を実行します。これにより、現場運用の効率化だけでなく、監査・会計の両面でも強いプロセスを実現できます。
仕様比較ではなく“運用整合”の見極めを
RFID導入の成否は機器仕様の優劣より“現場で回る設計”になっているかで決まります。
- タグの貼付面と高さが標準化され、アンテナの見通しが確保されているか。
- 出力は必要最小限で、読み取りに最適な方法がSOPとして定着しているか。
- アプリは差異・未読・重複などのエラーを即時に可視化できるか。
- 再送や重複読取に耐える安定性が担保されているか。
これらは現場の生産性と監査耐性を両立させるための“設計品質”であり、ROIを左右します。ベンダー選定では、低温下の実地検証計画と、KPI・SOP含む総合設計を提示できるかを重視することをお勧めします。
まずは1日診断と2週間PoCから
導入に費やす時間への留意も必要です。まず1日診断と2週間程度のPoCから検証を開始することが目安となります。1日目の現地診断で動線・扉・通路、積載や既存台帳、WMSの実態を把握し、導入における課題を可視化します。続く2週間のPoCでは、タグ種類、貼付方法や位置、出力、境界ルールなどを実地検証し、RFID運用の最適条件を見極めます。そして次の4週間パイロットで、最小人数で回るSOPと例外処理を固め、KPIを設定します。本番運用を前にアプリケーションとの連携も実装し、在庫や進捗の見える化を実現します。このように、段階を踏んで現場への導入を進めることにより、リスクを抑えた着実な運用を実現し、投資回収を最短化させます。
RFID導入 成功への4ステップ
- 1日現地診断:動線・扉・通路・積載・既存台帳・WMSを棚卸
- 2週間PoC:タグ種類×貼付面×出力×境界ルールの実地テスト
- 4週間パイロット:最低人数運用SOPと例外処理を固め、KPIを設定
- 本番展開:アプリケーション連携、ダッシュボードでモニタリング開始
棚卸を起点に広がる自動化ロードマップ
冷凍倉庫棚卸の効率化は起点にすぎません。各ゾーン出入口に簡易ゲートを設け、人や台車の通過をトリガにヒト・モノの動きを自動記録すれば、日常業務の可視化が進みます。製造領域では部材から仕掛、製品までの紐づけをEPCで一気通貫にし、ロットと期限の追跡を標準化できます。高額な計測器や治具の所在・点検・貸出履歴を可視化すれば、紛失や滞留が減り、設備稼働率の底上げにもつながります。HACCPに基づく衛生管理の文脈でも、温度・期限・ロットの一体証跡が監査耐性を高め、是正措置の初動を加速します。
多くのメリットが見込めるRFIDソリューション。冷凍倉庫を起点とした自動化のロードマップを描くことができる、業務変革への好手といえるでしょう。
“止めない棚卸”を支援する東芝テックのRFIDソリューション
現場の混乱を回避し、“止めない棚卸”を実現するには、現在の業務フローの維持活用も有用な手法です。既存帳票や視認性向上に寄与するカラー図絵などを継続運用することで、作業者に寄り添ったスムーズなシステム導入を実現できます。また、人時生産性を向上させながら、既存フローをバックアップとして温存することは、BCP対策としても有効です。
こういった技術選定と導入計画には、専門的な知識と経験が不可欠です。東芝テックでは、お客様の業種・規模・課題に応じた最適なRFIDソリューションをご用意しています。導入前の現状分析から、実証実験、段階的な導入支援まで、豊富な実績に基づいたトータルサポートを提供いたします。
冷凍倉庫での「本当にRFIDが自社に適しているのか」「どこから導入を始めればよいのか」といった疑問にも、丁寧にお答えします。
※当記事は2025年11月時点のものです。
時間の経過などによって内容が異なる場合があります。あらかじめご了承ください。

