マーチャンダイジング(MD)とは?
手法の種類と5つの適正
小売業界や流通業界に携わっていると、「マーチャンダイジング」という言葉を耳にする機会がたびたびあります。しかし、その意味や手法を理解できていないという人も少なくないでしょう。
マーチャンダイジングはマーケティングプロセスの一部であり、商品や売り場づくりに重きをおいた戦略です。その概要や数ある手法の種類、成功事例などを紹介していきます。
マーチャンダイジングとは
マーチャンダイジング(merchandising)は、日本語では「商品化計画」や「商品政策」と訳されることが多く、小売業で顧客に商品を「適切に」届けるためのプロセスに関連する戦略を指します。
マーチャンダイジングでは商品の選定はもとより、数量や価格、販売時期、販売期間、売り場などを適正に設定し、販売活動を行うことを重要視します。商品の訴求力や価格競争力を高め、売上を最大化することが目的となる、「売れる店舗づくり」に欠かせない戦略です。
マーチャンダイジングとマーケティングの違い
マーチャンダイジングと混同されがちな言葉にマーケティングがありますが、両者の意味は異なります。
マーケティングは商品やサービスが売れる広義な仕組みづくりを指し、ターゲット設定や競合他社との差別化を図るための調査戦略なども含まれます。一方、マーチャンダイジングはあくまでも「マーケティングの一部」を担うもので、適正な商品や売り場に重きを置いている点が特徴です。
広告などによる認知拡大に注力したマーケティングを進めても、店舗の品ぞろえや価格が適正でなければ売上にはつながりにくく、販売機会を損失しかねません。そのため、マーチャンダイジングによる商品や売り場づくりの適正化が重要視されているのです。
マーチャンダイジングの手法の種類
マーチャンダイジングの手法には複数の種類があり、主に顧客へのアプローチ方法から分類されています。次に紹介する3つの手法のうち1つだけを取り入れることも、複数を組み合わせて実践することも可能です。
- ビジュアルマーチャンダイジング
- クロスマーチャンダイジング
- ライフスタイルマーチャンダイジング
ビジュアルマーチャンダイジング
ビジュアルマーチャンダイジング(Visual Merchandising)は、視覚的に顧客に商品をアピールするマーケティング手法です。商品のディスプレイや装飾などを工夫し、顧客が商品を手にとりやすく購入しやすい売り場づくりを推進します。
- 店舗のメインステージに、ブランドイメージやシーズンテーマを体現する商品をディスプレイし顧客の注目を集める
- 店舗のインテリアやカラーコーディネートで、ブランドイメージを表現する
- 人気商品やおすすめ商品を目立つようにコーナーにディスプレイし、顧客が店舗内を回遊するよう促す
- 顧客の目を惹くようなPOPを置く
こうした取り組みにより、顧客の来店率・購買率の向上を目指すのが、ビジュアルマーチャンダイジングによる訴求手法です。
クロスマーチャンダイジング
クロスマーチャンダイジング(Cross Marchandising)は、異なるカテゴリーの商品を並べて陳列し、「ついで買い」などの同時購入を顧客に促す手法です。
お酒売り場におつまみをそろえたり、肉売り場に鍋つゆや焼き肉のタレが陳列されていたりする光景をイメージするとわかりやすいでしょう。電池を使用する家電などの近くに電池を置く、靴の近くにシューズクリーナーや靴クリームを配置するのも、クロスマーチャンダイジングの手法が採用されています。
クロスマーチャンダイジングのポイントは、カテゴリーが異なる商品であっても、顧客の同時購入が期待できる商品を組み合わせられることです。顧客は売り場を移動することなく関連商品を手にとれるため、買うつもりのなかった商品の購入を促せます。
顧客の購入点数や購入単価のアップが期待できることも、クロスマーチャンダイジングのメリットです。効果を得るには、POSデータの活用やバスケット分析などに着手し、同時購入につながる商品の組み合わせを分析する取り組みが必要になるでしょう。
ライフスタイルマーチャンダイジング
ライフスタイルマーチャンダイジングは、商品の特定のカテゴリーではなく、ターゲットとなる顧客層のライフスタイルに着目して、商品をセレクト・配置する手法です。
たとえば、「おしゃれな料理に興味がある人」をターゲットとする場合です。
- 食卓にそのまま出せそうなスタイリッシュなデザインの鍋
- おしゃれな調理器具や皿、カトラリー、エプロンなどのキッチングッズ
- フォトジェニックな料理の本や、掲載レシピに含まれる香辛料
これらをひとつのコーナーにまとめて陳列します。
美容に興味がある人をターゲットにするのであれば、基礎化粧品や美顔ローラー、紫外線対策グッズ、着圧レギンスなどの商品を並べるほか、エステサービスを提供するサロンを併設するという方法も考えられるでしょう。
ライフマーチャンダイジングは、まとめ買いによる購買価格アップが期待できることがメリットです。
マーチャンダイジングの5つの適正
マーチャンダイジングを実践して商品を顧客に適切に届けるためには、次の5つの要素に表される適正を確保することが重要とされています。
- 適正な「商品」
- 過不足のない「品ぞろえ」を指します。顧客の興味を惹く商品や、ニーズを満たす商品を陳列して販売します。
- 適正な「時期」
- 商品の仕入れや販売を行う時期を指します。顧客のニーズに沿った時期に合わせた施策展開が必要です。
- 適正な「場所」
- 商品の販売場所や陳列方法を指します。ターゲットへの訴求に注力するのはもちろん、顧客が店内を回遊しやすい動線も考慮します。
- 適正な「数量」
- 在庫管理に関する要素です。在庫切れを起こさず、かつ過剰在庫を招かないよう、商品の仕入れや在庫量を最適化します。
- 適正な「価格」
- 販売価格を指すもので、顧客にとって納得感のある値付けを行います。500円程度が妥当な商品を1000円など強気すぎる値付けで販売していたのでは、割高感から売れにくく、売上の最大化にはつながっていきません。
マーチャンダイジングの事例
実際にマーチャンダイジングはどのように活用されているのでしょうか? マーチャンダイジングに成功している企業の事例から確認します。
部屋別にテーマをもたせてディスプレイする家具メーカーの事例
ビジュアルマーチャンダイジングの代表的な成功事例として挙げられるのは、ダイナミックなディスプレイを展開する大型店舗を構える、海外の家具メーカーです。デザイン性に優れた生活用品や家具を、顧客の目を惹くように効果的にディスプレイしています。
たとえば家具の展示では、リビングやダイニング、寝室、子供部屋といった部屋別にテーマをもたせてディスプレイし、顧客が生活空間をイメージしやすくなるよう工夫を凝らしています。さらに、家具の展示エリアに関連する生活用品を置くなど、クロスマーチャンダイジングの手法を取り入れている点も特徴です。
「選ぶ楽しさ」で価値を提供するディスカウントストアの事例
大手総合ディスカウントストアでは、あえて雑多な印象を演出すべく商品を天井近くまで積み上げ、目を惹くような手書きのPOPを展開。顧客が店内を回遊して商品を選ぶ楽しさを味わえるような売り場づくりを行っています。
また、他社が用意しないような消費者ニーズに沿った商品カテゴリーも大胆に展開し、その独自性を高めています。
まとめ
マーチャンダイジングは、店舗の売上を最大化するために欠かせない施策です。
ただし、マーチャンダイジングを効果的に実践していくには、データにもとづいた施策の展開が前提となります。POSデータを活用したバスケット分析を行うなど、定量的な観点に立脚したマーチャンダイジング手法を取り入れていきましょう。